いつもはあまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく新連載コラム『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』が、『週プレ プラス!』にてスタートした。

"カメラマン側から見た視点"が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。『週刊プレイボーイ』に縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。

初回ゲストは、今や伝説となった広末涼子『NO MAKE』を始め、数多くの写真集を担当し、さらに過去10年で一番多くの週プレデジタル写真集も輩出してきたカメラマン、熊谷 貫(くまがい・つらぬく)氏をむかえ、これまでの人生を振り返っていく。

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――まず、熊谷さんがカメラマンになったきっかけからお伺いしたいのですが、そもそも写真を撮るようになったのはいつ頃からですか?

熊谷 お恥ずかしい話、僕はカメラマンになりたくてなったわけではないんですよね。ですから、写真を撮ることにハマったきっかけも具体的にはなくて。

10代の頃は、彼女とデートする時に、家にあったキヤノンのオートボーイを持って行くくらいで、写真そのものには興味を持っていませんでした。それも、ちゃんとフィルムを入れられるか不安で、当時駅前に必ずと言っていいほどカメラ屋さんがあったから、わざわざそこに寄っておじさんにフィルムを入れてもらっていたくらい、カメラに対するこだわりもありませんでした。

――では、そのとき将来は何になろうと思っていたんですか?

熊谷 将来のことを真剣に考えるようになったのは、大学受験に失敗したタイミングでした。僕自身、学生時代はテニス部に入っていたこともあり、スポーツはやるのも見るのも好きだったので、ざっくりとスポーツ大会の運営に携わる仕事に就きたいなぁと思っていましたね。

とはいえネットもない時代ですから、そこにどういった仕事があるのか、どうすればその仕事に就けるのか、分からないことだらけでした。電通や博報堂など大手広告代理店の名前は知っていたものの、大学に落ちた手前、そこを目指すのは難しかったですしね。

――そうだったんですね。
 
熊谷 そこで目を付けたのがカメラマンだったんです。スポーツ大会の中継には必ずカメラマンがいるじゃないですか。それを見て、カメラマンになれば運営の人たちとどうにか知り合えるはずだと思って、写真学校へ進学することにしました。まぁ、カメラマンならなれると思い込んでいたのも、図々しい話ですけどね(笑)。

――そんな動機もあるんですね。

熊谷 写真学校の同級生は、やはりみんな写真が好きな人たちばかりでしたよ。そのなかで僕は写真についてほとんど何も知らなかったから、まずは基本的なことから勉強しようと思って。

ちょうどその頃、ダゲールが「ダゲレオタイプ」という世界初の写真撮影法を開発してから150年くらいの年だったので、写真の歴史を学べるような写真展がいっぱい開催されていたんですよ。もともと歴史好きなこともあり、そこから写真について学んでいき、写真の面白さも知っていきました。

――では、いつ頃から本格的にカメラマンになりたいと思うようになったんでしょうか?

熊谷 いちばん大きなきっかけは、写真学校で開催したひとつの写真展でした。環境問題が国際的な課題として注目され始めたことと絡めて、「人と水」をテーマに撮った写真を5~10枚程度の組み写真として展示する写真展で。

展示されるにはまず学校内で代表に選ばれる必要があったんですが、嬉しいことに僕の撮った写真が選ばれたんですよ。さらに、その写真展の取材に来ていたNHKにも取り上げられて、インタビューまで受けました。

世間知らずの若者を勘違いさせるには、十分すぎるほどの出来事ですよね(笑)。このとき「カメラマンになりたい」というよりは、「本当にカメラマンとしてやっていけるんじゃないか?」と思い始めましたね。

――それはすごいですね! ちなみにそのときは、どのような写真を撮られたんですか?

熊谷 銚子の漁師町を写した写真と、浦安のディズニーランドの裏側に提携ホテルが建っていく様子を写した写真を対比させた組み写真です。

当時、車でディズニーランドに遊びに行くと、何もない埋立地にどんどん大きな建物が建っていくのが見えて、それがすごく印象的だったんですよね。銚子は行ったことがなかったですが、東京近郊で有名な漁師町だったので、比較対象として撮りに行きました。

――漁師町として栄え続ける町と、リゾート地に変化していく町の対比ですか。面白い視点ですね。なぜ、このような写真を撮ろうと思ったんですか?

熊谷 名取洋之助さんの著書『写真の読みかた』(岩波新書)を読んでいたことが影響しています。神保町の古本屋さんでたまたま見つけて購入したんですが、僕にとってはいまだにバイブルと言っても過言じゃないくらい大切にしている一冊です。

写真の並べ方やレイアウトで受け手の印象が変わることなどが書かれているんですけど、「タイトル通り、写真とは"見る"ものではなく"読む"ものなんだ」と感銘を受けたことから、組み写真のなかで何かストーリーを立てようと思い、銚子と浦安を対比させることにしました。

――なるほど。確かに、写真を組むうえで"読ませる"意識って重要ですよね。お話を聞いていると、写真を対比させることで"読ませる"という発想こそ熊谷さんなりの視点だと思いました。そういう根本的なものの考え方において、影響を受けたものに何か心当たりはないですか? 例えば、思春期にハマっていたものとか......。

熊谷 うーん。学生時代は特別変わった趣味とかはなかったんですよね。ちょうど松田聖子さんや小泉今日子さんなどの80年代アイドルが全盛期だった頃ですが、周りの友達と同じように曲を聞いたり、ドラマを見たりしていましたね。

ただ、強いて言えば読書は昔から好きでした。特に浪人時代に読んだ池波正太郎の時代小説『剣客商売番外編 黒白』(新潮文庫)は、僕の人生観に大きく影響を与えた作品です。

――と、言いますと?

熊谷 当時は「この人は友達だけど、この人は友達ではない」といった具合に、人間関係を分けてしまうところがあって。でもこの小説を読んだときに、自分の考え方が極端すぎることに気付かされたんです。

「(人の生涯は)黒白のみによって定まるのではない」「ひろい世の中は赤の色や、緑の色や黄の色や、さまざまな、数え切れぬ色合いによって、成り立っている」というセリフがあって。

何事も好悪や理非で決め付けるのではなく、間を考えるように、物事を柔軟に捉える感覚を知ったんですよね。内容は人間関係がどうとか、そんなことを説いた話ではないんですけど。

――その感覚が写真表現にも通じているかもしれないと。

熊谷 今思うとそうかもしれないですね。銚子と浦安の対比も、変わらない町と変わりゆく町と見れば黒と白の両極端ですが、それを組み写真として見せることで、対極の風景の間にさまざまな色合いが含まれていることを読ませたかったんだと思います。

グラビアのテーマを考えるときも同じで、幼さと大人っぽさの両方を撮ることで、その間にある感情や表情を読者の方に感じてもらえるよう意識しているところがあります。

その間だけを撮ろうとすると、逆に間の色が伝わりにくくなってしまう。だからこそ、両極端を見せて間を"読ませる"というね。これは僕の人生の、そして写真表現の軸となっている感覚だと思います。

●熊谷 貫(くまがい・つらぬく)
写真家。1968年生まれ、神奈川県出身。
趣味=歴史のifを考えること。
集英社スタジオを経て、中村昇氏に師事し独立。
主な作品に、広末涼子『NO MAKE』、石原さとみ『たゆたい』、木村多江『秘色の哭』、新垣結衣『まっしろ』、三浦春馬『Letters』、川島海荷『青のコリドー』、小嶋陽菜『こじはる』、橋本愛『あいの降るほし』、浅田舞『舞』、馬場ふみか『色っぽょ』、小宮有紗『Majestic』など。また、俳優やアイドルの写真集以外にも、元ボクシング世界チャンピオン畑山隆則『ハタケ』など、性別やジャンルを問わず、主体に迫るドキュメンタリー性の高い作風で人気を誇る。

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★熊谷氏が担当した伝説の写真集である広末涼子『NO MAKE』の秘話、初グラビアの女の子にかけたことば、そして多くの写真集を担当してきた氏が語る、おすすめしたい作品とは? (第2回以降は『週プレ プラス!』にて、会員限定でお読みいただけます)

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