東京駅にて、高低差が少ないエスカレーターの形を生かしたE4系引退の記念ラッピング。運行開始当初の黄色帯のセレクトもうれしい
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、今秋に引退する新幹線・E4系について語る。

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今秋、唯一残っていた2階建て新幹線・E4系が引退します。「Max」の愛称で知られ、1997年から東北新幹線で活躍した後、2001年に上越新幹線でも運行。私が初めて乗ったのは高校生の頃、同級生とフジロックに行った際でした。

東京駅のホームにあの深海魚みたいな愛らしい顔と、ほかの新幹線よりどでかい巨体が入線してきたとき、目当てのはずだったイギー・ポップの演奏よりも興奮してしまったことをいまだに親友からイジられます。乗った瞬間、ほかの新幹線とまったく違う空間が広がったのも忘れられません。デッキの天井の高さや廊下部分の異様なまでの細長さ、そして目の前に現れるらせん階段に胸が高鳴りました。

「3+3」の横6席の配置は若干窮屈で座席のリクライニング機能はついていなかったけど、2階からの見晴らしのよさと、経験したことのない展望でまったく狭苦しく感じなかったのもよく覚えています。市街地の高架部分はほかの新幹線だと防音壁で車窓が隠れてしまうので、「こんなに町の景色が堪能できるなんて」と大感動しました。

車内販売のお姉さんがどうやってカートを2階に上げたのか知りたくて、わざわざ隣の車両にのぞきに行ったり(答え:昇降できるミニエレベーターが設置されていた)、通常だと1階席の場所にある床下機器がどこにあるのか探検しに行ったり。越後湯沢(えちごゆざわ)駅に着く前にヘロヘロになるほど満喫しました。あれから約18年、仕事でもプライベートでもたくさんMaxに乗りました。車内販売のカートがMax用に細く造られていることや、1階からの低い視界のほうがレアな車窓からの眺めが見られるのがわかったりと、お世話になるたびに発見や冒険がありました。オットマンが設置されているグリーン車の最前列は、日本一快適な席だと確信しています(はい、グランクラスよりも)。それがついになくなるなんて、寂しい限りです。

そもそもMaxが誕生した背景には、バブル景気と新幹線通勤のための輸送力アップの要求がありました。16両編成で運転した場合、定員は1634人となり、「世界最大の高速列車」としてギネスに認定されています。

しかしその分、最高速度は240キロにとどまり、時速260キロ以上で走行できるほかの新幹線に比べると遅い。先頭部分のストリームライン化や軽量化を図ってさらなるスピードアップに挑む新幹線業界において、一度に大勢乗れるけど遅いE4系は時代遅れ。大量輸送より速度を選んだJR東日本はE4系を引退させ、代わりに北陸新幹線などで活躍中のE7系を全面導入の予定です。東海道新幹線も山陽新幹線も同じ理由で2階建てを撤退させたので、効率化を進めるには仕方がない流れなんでしょうね。

私は今春に仕事で乗りましたが、引退前にもう一度プライベートで乗ろうと決めてたので、疲れに屈して乗車中の大半は寝てしまいました。しかし、緊急事態宣言再発令により、あれから乗れずじまい......。引退後の臨時運転なんて都合のいい機会ないかなーと調べたら、すでに決定していました。4日間あるうち、1日目の運転はなんと、引退のわずか8日後。は、はや。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。「E4系クラッチバッグ」や「ラストラン米おひつ」など、記念グッズも特異で気になる。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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