BMWについて語る上級副社長のイアン・ロバートソン氏

び、びっくり仰天の宣言が世界を駆け抜けた! 「駆け抜ける喜び」を忘れない、ステキに大人げないビーエムが自動運転に力を入れると宣言したのだ。BMWはどっちに行っちゃうの? 小沢コージが直撃した。

■BMWが考える自動運転の中身

正直、不肖小沢は耳を疑った。あの“駆け抜ける喜び”のBMWが自動運転だとぉ! 7月1日にドイツ・ミュンヘンで、BMWのハラルド・クルーガーCEOがとんでもない発表をしたのだ! それは半導体最大手のインテル&自動運転の最先端画像解析で知られるイスラエル企業のモービルアイと組み、「BMWが5年以内に完全自動運転車を発売する」というもの。

確かに、これまでBMWは自動運転を無視はしてこなかった。去年導入の7シリーズは、ステアリングに手を添えるだけで、ほぼ全車速で車線中央をキープする「ドライビング・アシスト・プラス」を導入。さらに今春には無人で狭いスペースに駐車できる「リモート・コントロール・パーキング」も追加したし、ついでに言うと、ネットで完全自動ドリフトマシンを公開するなどヤル気満々なのだ。

いち早く7シリーズに導入した「リモート・コントロール・パーキング」。自動運転システムの一種。キー操作でクルマが無人で前後に動く。時速10キロ以下ならばすでに世界的に公道無人運転は認められているのだ。多少のステアリング操作も可能で狭い駐車場では超便利! 世界初! 遠隔操作で自動駐車!

しかし、BMWはそもそも駆け抜ける喜び、つまり、「自ら運転する楽しさ」を体現したことで伸びてきたブランドだ。今でこそBMWはプレミアムカー世界ナンバーワンになってしまったが、それこそ王様がリアに乗るようなクルマを造ってきたロールスロイスや、社長がふんぞり返るメルセデスとは違って、自らハンドルを切るリーダーが乗るクルマなのだ。その手の自動運転化戦略はコモディティ化が進むGMとかそれこそわがトヨタや日産がやればいいんじゃないの?と小沢は思う。

そんなこと思っていたら7月上旬、BMW100周年記念で東京・お台場に敷地面積2万7000㎡で試乗車約100台の超巨大体験型ディーラー「BMWグループ東京ベイ」がオープンってことで、本社から上級副社長のイアン・ロバートソン氏が来日!っつう情報をキャッチしたので、直撃してみたぞ!

―自動運転化の提携発表にはびっくりしました。いったい何年後にどのくらい実現するつもりなんですか?

イアン 今回発表したビジョンについて言えば、東京はもちろんですが、都市化が進み渋滞も増える一方で、内燃エンジンは技術的にピークを迎えています。効率は良くなり続けていますが、遅かれ早かれ、世界は環境に良いゼロエミッション車が普通になるわけです。

―それはわかります。気になるのは自動運転です。ずばり聞きますが、BMW自慢の「駆け抜ける喜び」と「自動運転」って矛盾するのでは?

イアン それは違います。私はミュンヘン南30kmの郊外に住んでいて、毎朝最初の20kmは7シリーズで時速250~260キロで飛ばして楽しんでる。すぐ目が覚めますよ(笑)。

―でしょうね(笑)。

イアン ところが最後の10kmは市内の大渋滞が待ち受けている。バンパートゥバンパーで時速20~30キロになります。そのときはセミ自動運転モードで未来を先取りします。時間を有効に使って車内で電子メールを送ったりしているんですね。つまり、「運転の楽しさ」がBMWのコアであることに変わりはないというわけです。

カーシェアの利用者は60万人

■BMWとトヨタの今後の関係性

―現在、BMWは自らがカーシェアリングを進めていますよね。これは?

イアン カーシェアは4年前に始まって、欧州10都市だけでなく、北米でも導入されています。すでに60万人の利用者がいるんですよ。

―ろ、60万人!

イアン ええ。カーシェアリングの利用者はBMWのガソリン車、ディーゼル車、EV車のどれでも使えます。充電する必要も保険に入る必要もありません。時々10~20分だけ使いたい。そう思ったらスマホでアプリを立ち上げ車両を探して運転する。使い終わったらクレジットカードで支払う。簡単です。私の子供もロンドンで使っていますよ(ニッコリ)。

―なるほど。BMWはこのところ成功が続いてますよね。2000年に入ってSUVのXシリーズを成功させたし、EVのBMWiもそう。そしてなんといっても傘下のミニの大成功です。ミニの成功の秘訣(ひけつ)は?

イアン ミニは60年ぐらい前に生まれたヒット作ですが、単なる便利なクルマじゃありません。キュートで小さくて、ブランドというよりキャラクターであり、パーソナリティがあるクルマです。社会構造を超えて全方位で人気があり、富裕層からそうでもない人、男性にも女性にも人気があったんですね。われわれはその特徴を消さないように努力しました。

―というと?

イアン もともと持っている歴史をしっかり残しつつ、けれどニューテクノロジーをたっぷり入れたんです。そこが成功の秘訣です。ミニだけじゃありません。同じようにロールスロイスも03年に買収して、成功を収めています。

―BMWは自動車ビジネスにおいて、成功の方程式を知り尽くしていると?

イアン (ほほえみながら)はい、そのとおりです。

―最後に、トヨタとの協業について教えてください。実際のところどうなってます?

イアン ものすごく進んでますよ! 最初はディーゼルエンジンの供給だけでしたが、今では燃料電池やバッテリー、さらにはプラットフォームのジョイントの話まで進んでますね。

―トヨタとの協業が成功している秘訣は?

イアン 協業しつつ、お互いの独立性も保ってるところでしょう。

BMWの歴史

■BMWの歴史がわかる! 特別企画! BMWのお宝カー列伝!

(C)BMW Japan

1928年 元は航空機エンジンメーカーで社名は、「バイエルン原動機製造株式会社」の略。BMWの4輪事業は1928年に「オースチン7」のライセンス生産からスタートした

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1936年 1932年に初オリジナルカーが生まれ、1936年に、当時としては、最新鋭となる直6搭載の新シリーズのスポーツモデル「328」が誕生。モータースポーツでも輝かしい活躍を見せている

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1961年 戦後苦労した末、クヴァント家から救済が入り、初のヒット作となったのが、「ノイエクラッセ」(新しいクラス)の1500である。このモデルこそ3シリーズの先祖である!

(C)BMW Japan

1966年 モノコックボディの1500はその後1966年には1600、73年には2002へと進化。ニュルなどのレースでも大活躍した

1973年 「マルニー」の名で愛された02シリーズをベースに3L直6のビックシックスを積んだ上級クーペが3.0CS。インジェクションの3.0CSiやレース用の3.0CSLまであった。今だと6シリーズ?

1981年 4ドアセダンで成功しまくりのBMWがなぜか苦手とする2ドアクーペ。78年には幻のミッドシップスーパーカーM1を発表。81年までに400台ちょいしか造られずレースでも活躍できず

◆この続きは『日本人トップデザイナー・永島譲二が語るBMWがカッコいい理由』

 

●イアン・ロバートソン(IAN ROBERTSON)BMWグループ全体の将来の舵取りをする7人のボードメンバーのひとり。ミニブランドを持つ英国ローバーグループ出身の英国人で、1999年にBMW南ア本部長就任。ミニ復活のキーマン。ロールスロイスCEOを経て、12年に現在のBMWグループ上級副社長に。58歳

(取材・文/小沢コージ 撮影/本田雄士)