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辻 仁成が新作『父 Mon Pere』で描く父子の物語 「小説なので、現実に僕らに起きたこととは無関係ですけど…」

[2017年05月19日]

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―13歳にして自立の道をすでに歩み始めてるんですね。作中のパパは「いつまでも親の傍にいるといけない」と自立を促すタイプでしたが、ついついカマってしまう?

 そうそう。ただ、僕も好き勝手に生きてきた人間だからこそ言えるのかもしれないんだけど、死ぬ前に少し、「とりあえずこの子を世に送り出すまでは頑張ってみようかな」という思いがあって。それから嘘がない主夫の日々が始まったんです。ただ、そこの労苦はみっともないから小説には書いてませんけど。

―だからこそ、作品を読んでいても自然に入り込めた感じがします。「嘘がない」という意味で、作中でも父と息子のふたり暮らしが続いてるわけですが…。

 ふと悪い夢を見てるんじゃないかって思う瞬間はあります。けれど、現実の僕と息子の間で自分たちに起きたことを話し合ったことは今日までほとんどないんです。これは本当に不思議だけど、どっちからも自分たちの境遇については語り合わない。どこかで勝手に自分たちは幸せだと思って生きてきたようなところがある。息子は今でも「チャチャ」という名前のぬいぐるみを家族同様に大事に傍に置いて生きています。

―小説の中でも「ぼく」が「ノノ」というぬいぐるみに自分の気持ちを語りかけるシーンが…。

 最初に書く時は、ノノを語り部にしてもいいかなと。ふたりで無言で生きているような、モノトーンな感じで書いてみたいとも思ったんだけど。でも、それではしみったれた小説になってしまうのでサスペンス要素を入れたり、フランスの移民問題を入れたりしながらね。

―確かに、パパが移民の家政婦とトラブルを起こしたりと、社会的な問題も深く描かれています。

 ヨーロッパで暮らしていると、東京に帰ってくるたびに「幸せな国だなぁ」と思うんですよ。向こうはテロも多いので。だから今回、最小の単位の“家族”を描くことで移民文化と隣接する現代の欧州を一方では描きたかった。

日本人は移民に対しては初心者ですから。パリで暮らしていると、いい意味でもそうじゃない意味でも大変さを知るようになるし、経済を活性化させるために日本が世界中から移民を招き入れる時がもし来るなら、きちんと知る必要があるなと。そんな未来のためにこういう本も読んでもらって「移民とは何か?」を知ってほしい思いもあるんです。

―家族の物語というだけでなく、そうしたグローバルな視点もあると。

 世界の全体を見て、そのあり方を考える中で「最小の家族という単位を描けば、最大の世界が見えるようなものを描けるはず」という思いもあって。世界で一番小さな家族を描くことがまずは大事だと。この小説には15年間パリで生きた僕自身と、パリで生まれた日本を知らない日本人の男の子の経験が含まれていて、国籍、民族、人類の問題も複合的に関わっている。そういう意味でも今回、作家としてのアドベンチャーができたと思うんですよ。

―まさに、パリに住んでいる自分たち親子だからこそ描けるっていう。

 扱うモチーフとしては、そこに自分の強い動機、世界情勢があったから書けたんだなと思います。

―ちなみに、作中で「ぼく」の恋人が研究している“死なない虫”ウォーターベアの話も興味深かったです。環境が劣悪になると、自ら“乾眠”という死んだように眠る状態になって100年以上も生き延びるという。喪失感を引きずり続け、ある意味、“死んだように生きてきた”父子をこの虫になぞらえたり、物語のキーともなっていますよね。

 日本では「クマムシ」と呼ばれる虫ですけど、そういう科学や歴史の要素も入れてね。…実は、このアイデアは息子からもらったもので、彼はよくYouTubeを見てるんですけど「パパ、これ知ってる?」って動画を見せてくれて。調べてみたら「何年も乾眠状態の虫が蘇る」「中には何世紀も眠ったままのものもいるんだ」って。これは小説に使えるなと。

そういういくつものメタファーを使って小説を立体化させて、読者にスリリングなものを与えていくんです。表層だけを読まれてしまうと「寂しい父子の話なのかな」で終わっちゃう。でも、実はこれまでで一番野心的な作品なんですよ。

◆後編⇒異端児・辻 仁成が今、語る過去と未来「波風はあるし、敵もいるけど“自分に対して嘘がない”人生が大事」

(構成/岡本温子[short cut] 撮影/五十嵐和博)

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●辻 仁成
東京都生まれ。1989年、「ピアニシモ」で第13回すばる文学賞を受賞。以後、作家・詩人・ミュージシャン・映画監督と幅広いジャンルで活躍している。1977年、「海峡の光」で第116回芥川賞、1999年、『白仏』の仏訳版Le Bouddba blancでフランスの代表的な文学賞であるフェミナ賞の外国小説賞を受賞。『日付変更線』『まちがい』『右岸』ほか著書多数父書影なし


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