パックン自身は「エコーチェンバー」化しないために自分とは異なる意見に積極的に接して、視野を広げることを心がけているという

「エコーチェンバー」という言葉をご存知だろうか? SNSなど、主にネット空間に見られる病的な集団行動として紹介されることが多いが、特に現在のアメリカ社会で顕著なのだという。

そこで、正真正銘ハーバード大卒のマルチタレント、パックンマックンのパックンこと、パトリック・ハーラン氏に解説していただいた!

前編記事(「ネット空間の病的集団行動『エコーチェンバー』とは?」)では「自分と同じ意見の人ばかりが集まり、異なる意見は受け入れない。その結果、狭い世界に閉じこもってしまう現象」とした上で、アメリカ社会の深刻なエコーチェンバー化を自身の体験を含めて語ったパックン。では、日本においてはどうなのか?

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─そんなアメリカと比べて、日本のエコーチェンバー化はどこまで進んでいると思いますか?

パックン 日本でもテーマによっては少しずつ、そういう傾向が出てきているかもしれないけれど、正直、アメリカに比べたら遥かにマシだと思いますね。「エコーチェンバー」という言葉自体がまだ広まってはいないし、現象としてもアメリカほど進んでいない気がします。日本はまだみんな全国ネットのTVを観ているし、インターネットもヤフーニュースが主流だから、日本人の大半が「主要な情報源」をある程度共有している。そういう意味ではアメリカの現状とは大きく違うと思います。

ただ、日中関係や日韓関係などのテーマではエコーチェンバー化している部分も見られます。こういったテーマにおいて、日本は外部からの異論と正面から向き合えているのか、議論することを排除してはいないか…。日本という島国が外の世界から切り離されたエコーチェンバーにならないようにするためにも、きちんとした議論ができる環境を守ることは大切だと思います。

しかし、大きなスケールで考えれば、日本という島国全体がある意味、「大きなエコーチェンバー」だと考えることもできると思います。なぜなら、アメリカに比べて、日本はお上の言うことに国民が一丸になって、トップダウンで政策が実現しやすいという特徴があるでしょう。見方を変えて、この日本人のエコーチェンバー性を有効に利用すれば、例えば大学無償化など国民にとってメリットのある政策が素早く実現しやすい…とも考えられるのではないでしょうか?

―パックンが指摘するように、「自分でも気が付かないうちに、いつのまにか閉じた世界に籠(こ)もってしまう」のがエコーチェンバーの恐いところ。フェイスブックなどによって自分と同じような意見を持つ人たちと繋がる機会が増えたこと自体は悪いことじゃないし、自分の投稿に「いいね」を押してもらえば、誰だって気分は悪くないですが…。

パックン しかも、ひとりひとりのパソコンやスマホの画面には、その人の趣味や傾向に合ったニュースの見出しや広告が自動的に選ばれて表示される仕組みが一般化している。その人に合った「メディアのカスタムメイド化」がどんどん進んでいき、「自分向け」に編集された情報が「世界」や「現実」だと思い込んでしまう。結果的に、社会のエコーチェンバー化が進んでいるという面はありますよね。

─スマホやパソコンに表示されるニュース、広告、他の人の投稿、「友達」の候補はグーグルとかのAIみたいなプログラムがどこかで自動的に判断してマッチングしているわけでしょう?

パックン それはブラウザーのプライバシー設定とかで調節できるとは思うけど、自分のパソコンやスマホに示される情報の状態を「多様性メーター」みたいな形で確認できる仕組みがあるといいかもしれませんね。

例えば、僕がリベラル寄りだとして、僕のパソコンに表示される情報が「今、8割ぐらい左寄りのニュースになっています」みたいに表示される。で、そのメーターを少し右寄りに矯正すると、右寄りのメディアのニュースが4割ぐらいまで増える…みたいなね。日本のフェイスブックとかLINEとかがそういうシステムの特許を取って、アメリカとかに輸出すればいいのに!

エコーチェンバー化しないために必要なのは?

─それはいいアイデア! それ以外にエコーチェンバーに取り込まれないようにするためには、何に気をつけて生きていけばいいでしょう?

パックン やっぱり、大切なのは「気力」ですよ。「気力」と「体力」と「忍耐」かな。例えば、僕は基本的にリベラルに近い立場だから、右派や保守派の人たちとは意見が合わないことが多いんだけど、だからこそ産経新聞のような自分とは意見の違うメディアの報道に接して、自分の視野を広げようとしています。

もちろん、読んでいれば違和感だってあるし、実際に右派の人たちと話しているとムカつくことも多いけれど、そういう人たちと議論する時には産経新聞に載っている情報を使って話したほうが相手に伝わりやすいでしょう?

―あえて、相手の土俵に乗って議論するわけですね。

パックン 自分と違う考えの人たちが、何をどういう風に考えているのか理解しないと、そもそも議論は成り立たないじゃないですか。ただし、そうやって自分とは違う意見に向き合うのって、それなりの気力が必要だし、体力も忍耐力も必要なんですよね。

やっぱり「自分と同じ意見の人」「聞きたいニュース」などの気持ちのいい空間に閉じこもっているほうがラクだし、その中でお互いに「いいね」「いいね」って言い合っているほうが楽しいですからね。そうではなく、自分から積極的に「異常識」(自分の考えとは異なる常識)と向き合うには、やっぱりそれなりの気力が必要なんですよ。

─パックンが最初に言ったように、そうやって「異常識」と向き合わなければ本当の意味での議論はできないし、社会がどんどんエコーチェンバー化してしまったら、もう「民主主義」なんて機能しないもんなぁ。

パックン 実際、アメリカはそうなり始めているでしょ? 日本がそうならないためには、自分と違う意見に向き合う気力や忍耐力を鍛えなきゃいけないと思いますね。

(取材・文/川喜田 研)

●パトリック・ハーラン1970年11月14日生まれ、コロラド州出身。ハーバード大学比較宗教学部卒業後、93年に来日。福井県で英会話講師を務める一方、アマチュア劇団で活動。その後、上京して、97年にお笑いコンビ「パックンマックン」を結成し、「パックン」として活躍。アメリカ民主党の支持者