『名探偵コナン』の小嶋元太や『GTO』の鬼塚英吉など数々の有名キャラクターを演じてきた高木渉さん

今年で誕生から100周年を迎えた日本のアニメ――。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーに、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けする。

第2回目は、声優の高木渉(わたる)さんが登場。『名探偵コナン』の小嶋元太や『GTO』の鬼塚英吉など数々の有名キャラクターを演じ、2016年にはNHKの大河ドラマ『真田丸』で武田家の家臣・小山田茂誠役を務め、俳優としてアニメファン以外からも大きな注目を集めた。

今年でキャリア30年を迎えるベテラン声優でありながら、役者との両立という新たな挑戦をしている高木さんはいかにアニメ業界を駆け抜けてきたのか? インタビュー前編では、その半生について伺った。

■アニメに興味はなかった子ども時代

―声優になろうと思ったきっかけは?

高木 最初から声優になろうと思ったわけではないんですよ。

―ええっ!?

高木 子供の頃、『ドラえもん』とか『侍ジャイアンツ』とか普通にアニメは観てましたけど、そんなにアニメ自体には興味なくて、むしろ家でじっとしていられないタイプだったから外で野球とかして遊んでいるほうが多かったですね。

―しかし高校卒業後に声優養成所の勝田声優学院に入学されていますよね?

高木 演じることに興味はあったんです。だから舞台俳優になりたかったのですが、当時、劇団などの入団試験は2月とか3月とかが多くて、たまたま夏に募集していたのが勝田声優学院というところだったんです。声優ってなんだろう?って思いながら、でもお芝居することには変わりないだろうから、来年の劇団の入団試験まで何か勉強できるならと思って入ったんです。そうしたら「声だけで芝居をする」という世界にハマっちゃったんですね。

―じゃあ、わりと軽い気持ちで入学されたというか。

高木 ええ、まだ声優は今ほどメジャーな仕事ではなかったので「どんな世界なんだろう?」っていう興味本位でした。

―それでも在学中に『ミスター味っ子』(1987年)でデビューされています。

高木 学校でずっと勉強してるより早く現場を見てみたかったんです。ある日、現所属事務所の社長が特別講師で学院に来られた時に、アフレコ見学に行きたいって直談判して、行かせてもらえたのが『ミスター味っ子』でした。そこで、たてかべ和也さんに出会えたのが大きなきっかけになりました。

―初代ジャイアンを演じた方ですね。

高木 僕は1日だけの見学のつもりだったのですが(笑)、「1日で何ができる。声優になりたいなら毎週来なさい!」と言われて。嬉しかったですね。それから毎週スタジオに通って、お茶くみとか収録のお手伝いなんかをしているうちに「出てみるか?」と役をもらえたんです。そこからですね、僕のキャリアは。

転機になった1年

■転機になった1年

―最初にご自身のターニング・ポイントになったのはどの作品でしたか?

高木 『機動新世紀ガンダムX』(1996年)かな。ガンダムといえば国民的アニメですし、声優としてもガンダム乗りになれたのは光栄なことです。

―当時はかなりの大抜擢だったらしいですね。

高木 そもそも僕は主役でオーディションを受けていないんです。他の役で受けていたんですが、むしろカッコ良くない僕の芝居がニュータイプじゃない破天荒な主役の設定に合ったみたいで。再オーディションになって受かったんです。

―驚きました?

高木 キョトーンですよ。『ガンダム』という日本中が知っている作品で自分が主役を演じる。その実感が湧かなくて。で、だんだんと「これはやべーぞ」という気持ちになってきました。自分が歴史あるガンダムシリーズの主役パイロットになるんですからね。アニメの大河ドラマですよ(笑)。この1年、自分がガンダムを引っ張っていくんだという強い思いでぶつかっていきました。

―「オレはやったぞ!」という手応えみたいなものはありましたか?

高木 はい、それが僕は何歳になってもそうなんですけど、自分の芝居に納得がいくことって滅多になくて、すごく反省魔なんです。『ガンダムX』も「もっとできるんじゃないか」って思いが大きかったですね。

―ただ、同じタイミングで『名探偵コナン』のアニメシリーズも始まっています。この1996年は一気に“声優・高木渉”が認知された1年といえるのでは?

高木 そうですね。だんだんと大きな役を任されるようになって、それを自分でもアレンジできるように少し余裕というか、役を楽しむということができてきたのかもしれません。名探偵コナンの元太とか、高木渉以外に考えられないとか言われると本当に嬉しいです。

―自分でも向いている役だと感じます?

高木 元太の他にも『ジョジョの奇妙な冒険』の虹村億泰や『GTO』の鬼塚英吉とかは、わりと自分をそのままぶつけていっているところがあります。反対にクールな悪役とか二枚目の役は小恥ずかしくていけませんね。もっと勉強しないと(笑)。どうも、(セリフの)間を埋めたくなってしまうんです。セリフ喋ったあとに、周りに「こんな感じで大丈夫だった!?」って聞いてしまいます。

アドリブはやらないで済むならそれでいい

■実は緊張感あった『ビーストウォーズ』

―高木さんといえばアドリブを多用するイメージがありますが、それは間が空くのがイヤだから、つい入れてしまうってことなんですか。

高木 いや、僕は基本的にアドリブはやらないで済むならそれでいいと思っています。下手なアドリブをして、作家さんが作った世界観を崩してしまったらいけませんからね。ただ、収録現場の空気というか雰囲気ってどこか視聴者の皆さんに伝わると思うんです。だから、作品にもよりますが、テストの時にたまにアドリブ入れて現場が和(なご)んだらいいなぁと思って。それによって世界観が広がって作品がもっとよくなったり。「本番でもやってください」って監督に言ってもらえるとヤッターって思いますね。

―あくまでも現場の空気を作るためだと。

高木 そうですね。あとキャラクターの口パクに合わせるためにセリフを足すなんてこともあります。あくまで基本があってこそだと思うので、周りに迷惑をかけるアドリブはいかがなものかと思います。

―『ビーストウォーズ』シリーズ(1997年~1998年)はどうですか? 出演者のアドリブ合戦は衝撃的で今も多くのファンに愛されています。

高木 『ビーストウォーズ』は千葉繁さんや山口勝平くんなどアドリブが得意な個性あふれる声優さんたちが集められた作品で、監督も「なんでもアドリブを入れてください」って言ってましたね。

―あれはすごかったですよね。だって、キャラクターの口が動いていないのにセリフを喋っているんですよ。

高木 「キミ、口が動いてないよ」とツッコめばいいからっていうノリでしたね(笑)。ただ、「何やってもいいけど、アドリブがつまらなかったからといって台本に戻るのはやめてください」というのは言われていました。それは作家さんに失礼だと。「アドリブをやるなら台本よりも面白くしてください」と言われていて。

―吹き替えの内容こそめちゃくちゃですけど、現場はかなり緊張感があったんですね。

高木 僕も気合いを入れて、事前に何パターンも考えて収録に臨んだりしました。それはもうアドリブじゃねーだろって感じですけど(笑)。その意味でとても鍛えられた、いい現場でした。

―アドリブだからって、好き勝手やっているわけじゃない。

高木 そうです。ものづくりはいろんなところからアイデアが集まって形になるものじゃないですか。「これだけやればいいのね」という受け身ではなくて、台本をどう広げられるかってことを考えて、とりあえずやってみる。あとは監督が判断してくださいと(笑)。

作品での自分の役割は考えます

 

■本当は何度も稽古したいタイプです

―高木さんといえばもうひとつ、脇役を輝かせる声優としても知られています。『コナン』の元太や高木刑事はその典型ですね。そういう「この役は高木渉じゃないと」って思われるために意識していることなどあるのでしょうか?

高木 作品での自分の役割は考えます。このキャラクターは物語の進行役なのか、盛り上げ役なのか、芯を張る役なのか、とか。そういう全体の中でのポジションを考えて演じているというのはあります。

まだ新人の頃、初めて洋画の吹き替えの主役を演らせてもらった時、お昼休憩で監督に「台本の一番右に名前があることをもっと自覚しろ」と叱られたことがありました。僕が「午前中やった分、録り直してください」ってお願いしたら「バカヤロー、俺がOKしたもの、なんでおまえに言われて録り直すか!」って、また叱られて(笑)。自分では一生懸命やっているつもりだったんですが、しっかり作品を引っ張っていけてなかったんですね。その時に自分の未熟さとともに、周りを固めてくれている役者さんの大事さを痛感しました。

―なるほど。そういった経験がどんな登場人物を演じる上でも活きているわけですね。ちなみにですが、そんな数々の経験を経てきた高木さんが、実は声優業で苦手としていることってあったりしますか?

高木 アニメや洋画で周りの雑踏というか雰囲気を入れるガヤという作業があるんですが、僕はガヤが苦手なんですよ。シチュエーションだけ与えられた即興芝居とかもダメで。

―完全にそっちが得意な人だと思ってました!

高木 いやー、ダメですね。物語があって、こういうキャラクターでお願いしますって言われないとあたふたします(笑)。稽古したいタイプなんです。何度も練習して本番に持っていきたいんです。

―それだとTVドラマなんて撮影のテンポが速いから大変だったのでは?

高木 そうなんですよ。ちょっとテストしてすぐ本番ですから瞬発力が要求されますよね。だからドラマの現場は未だに緊張です(笑)。もう声優としてはキャリア長いんですが、実写の俳優としては新人なのでもっともっとスキルアップしていかないといけませんね。

★後編⇒『コナン』ほか人気声優から『真田丸』で役者に! 声優・高木渉「挑戦したあとで考えればいい」

(取材・文/小山田裕哉 撮影/五十嵐和博)

■高木渉(たかぎ・わたる)1966生まれ。千葉県出身。勝田声優学院卒業。アーツビジョン所属。劇団あかぺら倶楽部所属。『機動新世紀ガンダムX』ガロード役、『GTO』鬼塚英吉役、『名探偵コナン』小嶋元太・高木刑事役など、人気作に多数出演。2016年にはNHK大河ドラマ『真田丸』小山田茂誠役でドラマ初出演を果たす。