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室伏広治が明かす“ゾーン”の向こう側──「アテネ五輪決勝の最後の投てきで…」

[2017年12月07日]

アテネ五輪金メダリストの室伏氏が明かす、“ゾーン”の向こう側…

アテネ五輪で金メダル、ロンドン五輪で銅メダルと、男子ハンマー投げ選手として好成績を残し、2016年に引退した室伏広治氏が『ゾーンの入り方』(集英社新書)を上梓(じょうし)した。

集中力を極限状態にまで高めた者だけに訪れるという“ゾーン”とは一体、なんなのか? それはアスリートに限らず、一般人にも体現できるものなのか? 室伏氏に話を聞きに行ったのだが…。

ゾーンに関する質問を繰り返しても「形のないもの」「言葉にするのは難しい」と返されるばかりで、挙句には「『ゾーン』という言葉を外して聞いてもらえませんか?」と、企画をひっくり返すような提案が…。前編記事では、この想定外の展開に集中力が消し飛び、筆者の額にイヤな汗が噴き出しはじめるところまでを伝えた。

取材開始から15分、早くも質問が“弾切れ”となって沈黙がしばらく続いた後、室伏氏は2004年のアテネ五輪のエピソードを語り始めた。

金メダルをかけた決勝の最終投てき。だがその直前、地元ギリシャの選手が400mハードルに出場し、競技場は大歓声に包まれたという。

「私が手を叩いても、その音が自分の耳に入ってこないほどの大歓声でした」

ウオームアップエリアの芝生の上に座り込み、両膝の間に顔を埋(う)ずめたり、耳をふさいだりして音を遮ろうとするが、どうあがいても集中できなかったという。そのとき――

「大の字に寝転がって夜空を見上げました。なぜか“星が見たい”と思ったんですよ。天気は良かったですが、スタンドの照明が煌々(こうこう)と灯るなか、果たして星は見つけられるだろうか?と。すると星が見えました。そのまま星空を眺めているうちに私の耳には何も聞こえなくなっていたことに気づき、“これはいけるぞ!”と立ち上がって投てきサークルに向かったのです」

結果は82m91の大投てきで、自身初の五輪金メダルを獲得。

「集中しようと思って物理的に音を遮ろうとするのではなく、わが身を大地に預け、スタジアムからはるか遠い星空に気持ちを向けることで集中状態が訪れました。このとき、私はどんな状況に置かれても、その場になじむことができれば自分の本来の力を発揮できると確信しました」

そして室伏氏の話はついに核心に触れるのだった。

「集中力が極限まで高まり、集中しているという意識すら忘れてしまうほどの“没我”の状態のなかでは、体とハンマーの回転スピードはどんどん加速しているのに、すごくゆっくり感じる。ハンマーを回転させて投げる直前には300kg以上も遠心力がかかっているはずなのに、重さもまったく感じない。そういう感覚で投じたハンマーは記録的にも大きく伸びました」

それはまさに…

「極限の集中力のなかで心技体が完全に調和し、ほぼ無意識の状態なのに最高のパフォーマンスを発揮できる状態をいわゆる“ゾーン”と呼ぶのだとすれば、私もそれに近いと思われるものは競技人生を通してわずかながらあったかもしれない。

ただ、それは特別な人が特別なことをしなければ体験できない話ではなく、目的に向かって“全力”で取り組んでいれば、あるとき必ずゾーンに入る瞬間が訪れます」


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