ほぼ毎日シュウマイを食べ続け、日本シュウマイ協会を作るに至ったシュウマイ潤氏 ほぼ毎日シュウマイを食べ続け、日本シュウマイ協会を作るに至ったシュウマイ潤氏

連載【日本シュウマイ協会会長・シュウマイ潤の『みんなが知らない、シュウマイの実力』】第3回

2020年以降、シュウマイを主役にする飲食店、特に居酒屋スタイルのお店が急増、定着している。その発祥と最近の傾向をシュウマイ研究家のシュウマイ潤が教えます。

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お店でシュウマイを食べたければ中華料理店へ......と思っているあなた、シュウマイのトレンドとしては古い!

もちろん、中華料理店のシュウマイは基本として押さえておくべきですが、昨今のシュウマイが食べられる飲食店は多様化し、特に2020年以降、シュウマイをメイン料理に据えた「シュウマイ酒場」なる業態が出現し始め、急増しています。

私がシュウマイを本格的に研究し始めた2015年頃は、「シュウマイ酒場」といえる飲食店は全国でも1軒(!)しかありませんでしたが、2024年4月現在、確認できるだけで79軒にも及び、実態としては100軒を超えていると推測しています。

「焼売酒場 小川」の羊焼売と鶏焼。それぞれつけるソースが異なるのも「焼売酒場 小川」の特徴 「焼売酒場 小川」の羊焼売と鶏焼。それぞれつけるソースが異なるのも「焼売酒場 小川」の特徴

この「シュウマイ酒場」業態の先駆けと言えるのが、東京・渋谷にある「焼売酒場 小川」です。オープンは2019年ですが、以前は和風ビストロという業態のお店で、そのなかの人気メニューのひとつがシュウマイだったのです。

現在も同店で提供する基本の「元祖焼売 岩中豚」は、中華料理店のシュウマイとは一線を隠す、和風ビストロの余韻を感じさせる洋の雰囲気の食感、風味、味わいをほのかに感じさせるので、ビール、サワーはもちろん、白ワインとも相性良し。

そして、羊、鴨、鶏と、これまた従来のシュウマイでは考えられない食材を用い、つけるソースもトマトとパセリ、ほおずき、干しエビなど、まさにフレンチのテイストあふれるシュウマイとのマリアージュを楽しませてくれます。

この中華料理の枠組みにとらわれないシュウマイを提供するのが、新業態に共通する特徴のひとつです。

そして、ふたつの店舗の誕生により「シュウマイ酒場」が本格的に増加し始めます――。

多様なシュウマイの味や調理法を提案した先駆者「野田焼売店」 多様なシュウマイの味や調理法を提案した先駆者「野田焼売店」

ひとつは2015年に東京・駒込で創業し、現在は紀尾井町、別ブランド「頂」を神奈川・川崎で展開する「野田焼売店」。ここは、従来のシュウマイのイメージに近い中華食堂&居酒屋スタイルではありますが、おそらく日本で初めて「焼売」という言葉を店名に冠したお店です。

「野田焼売店」は基本の豚肉シュウマイを"蒸す"だけでなく、焼き、揚げ、水(スープ)で提供。その"蒸す"基本スタイルに唐辛子を加えた「辛焼売」、チーズとバジルを加えた「チーズ焼売」もあり、つけるタレもからし醤油以外、創意工夫があふれるオリジナルタレが選択でき、シュウマイという料理の味のバリエーションを大きく広げました。

「焼売酒場いしい」は、あえて定番の豚ではなく鶏シュウマイを選んだ。他にも春巻きを思わせるフォルムの揚焼売も 「焼売酒場いしい」は、あえて定番の豚ではなく鶏シュウマイを選んだ。他にも春巻きを思わせるフォルムの揚焼売も

もうひとつは、2018年創業の福岡・博多を中心に4店舗展開する「焼売酒場いしい」。「シュウマイ酒場」という言葉を使い始め、2020年以降、続々と「シュウマイ酒場」が増加した起源が、ここにあると言っても過言ではありません。

シュウマイは前出の「野田焼売店」のように、蒸す、揚げと多様性もありつつ、使用する肉を鶏に特化することで、この店ならではの個性と、お酒に合うシュウマイの新たな世界観を提示しました。

何より、シュウマイとお酒を提供する「酒場」を明確に打ち出したことが、「焼売酒場いしい」の最大の特徴であります。さらに、その「酒場」という言葉のイメージにならってか、店内はスタイリッシュながら、どこか懐かしいレトロな雰囲気を漂わせ、ありそうでない新たな酒場空間を創出しました。

シュウマイ以外の料理も、昭和の居酒屋の定番メニューに、ひと手間ふた手間加えたレトロモダンスタイルなおつまみが多数。ドリンクもレモンサワーを中心とした、昔懐かしいドリンクを提供しています。

シュウマイを中心とした新たな飲食スタイルは、あまりお酒を飲まなくなったと言われるZ世代にも響いたようで、従来にはない客層も取り込み、新たな人気飲食業態を確立しました。

そしてこの「焼売酒場いしい」をきっかけに、全国で気軽にシュウマイとお酒を楽しめる「シュウマイ酒場」ブランドが誕生。「焼売のジョー」「焼売酒場なかめ」「だるま焼売」など、独自ブランドの多店舗展開が始まり、「シュウマイ酒場」増加の大きな要因となっています。

一方で、前出の「焼売酒場 小川」のような個人オーナーのこだわりが詰まった「シュウマイ酒場」も、2020年以降徐々に増加し、地域の人気店として定着しています。

私が主に活動する東京の代表的な事例では、新橋の「TOKYO焼売マニア」や渋谷の「Kamera」、荻窪の「シュウマイルンバ」があります。

東京・新橋の「TOKYO焼売マニア」は、現存する酒場スタイルで常時最多のシュウマイ種類を提供 東京・新橋の「TOKYO焼売マニア」は、現存する酒場スタイルで常時最多のシュウマイ種類を提供

東京・渋谷「Kamera」の定番、熟成豚を使ったシュウマイ。今や「焼売酒場小川」と渋谷で人気を二分する存在に 東京・渋谷「Kamera」の定番、熟成豚を使ったシュウマイ。今や「焼売酒場小川」と渋谷で人気を二分する存在に

「シュウマイルンバ」はシュウマイの数も多彩だが、他の料理や雰囲気にも味があり、東京・荻窪地域の名物店に 「シュウマイルンバ」はシュウマイの数も多彩だが、他の料理や雰囲気にも味があり、東京・荻窪地域の名物店に

多店舗ブランドにせよ個人店にせよ、共通するのは「シュウマイあるところに名店あり」であること。これまで注目されていなかったけど、酒場のつまみの新たな選択肢としてシュウマイに着目した料理人や企業が、さらなる付加価値をつけるべく、シュウマイはもちろん、それ以外のメニューやドリンクにも独自の個性や品質を盛り込み、目新しさも手伝って顧客が訪れ、再訪する――という好循環が生まれていると私は分析します。

一方で、提供する飲食店側の利便性も、この業態の増加の大きな要因であると考えられます。

シュウマイは作り置きしておけば、蒸す、すなわちお湯を沸かせば調理が完了。調理時間さえ間違えなければ、経験のないアルバイトでも一定の品質に仕上げられる訳です。人件費削減、効率化という点でも、従来の業態にはないメリットがあるのです。

と、こうして最新の動向について書いている傍ら、今日も新たな「シュウマイ酒場」は登場し、実際に足を運ぶと、既存の店舗とは一線を隠す個性や魅力を見せてくれます。研究する立場としては嬉しい反面、調査が追いつかないのが悩ましいところです。

今も進化を遂げる「シュウマイ酒場」。まだ未体験のかたは、ぜひ飲食店の新しい選択肢のひとつに入れてみて下さい。

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