『黙殺』刊行を記念してトークライブする(左から)マック赤坂氏、畠山理仁氏、高橋尚吾氏

マスコミに“泡沫(ほうまつ)候補”と揶揄(やゆ)され、存在そのものを“黙殺”される無名の新人候補たちーー彼らを“無頼系独立候補”と呼び、その独自の選挙戦にスポットを当てたのが、畠山理仁(みちよし)氏の著作で本年の開高健ノンフィクション賞を受賞した『黙殺 報じられない〝無頼系独立候補″たちの戦い』(集英社)だ。

その刊行を記念して、独創的な政見放送でおなじみのマック赤坂氏、元派遣社員という経歴から2016年東京都知事選へ立候補した高橋尚吾氏というふたりの“独立候補”をゲストに招き、新宿・歌舞伎町の「週プレ酒場」で行なわれたトークライブの模様をお伝えする。

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畠山 “無頼系独立候補”として選挙を戦う中で、最もツラかったことはなんでしょう?

マック そうだね、“泡沫候補”としての選挙戦はつらいことの連続なんだけど…。

畠山 あの、マックさん、“泡沫候補”じゃなくて“無頼系独立候補”って呼びましょうよ(笑)。

長年にわたる取材で“独立候補”を掘り下げた畠山氏

マック 私だって泡沫泡沫言いたくないけど、当選できてないわけだし、実際、“泡沫”じゃないか。それに「泡沫候補=奇人変人」という世間のイメージが『黙殺』が売れれば売れるほど倍増するんだよ! 皆さん、安心してください。我々は決して、ただの変人ではありませんから。

高橋 …実はひそかに心配していることがあります。私も“独立候補”として選挙を重ねていくうちに考えが極まり、「マックさんのように選挙カーの上でチ◯コを出すようになってしまうのではないか」と。あのマックさんは5年後の自分の姿なんじゃないか…。

マック 高橋くんはまじめすぎるからね。

畠山 僕も高橋さんを見ていて、そうならないか心配していたんですよ。そんな高橋さんの「ツラかったこと」は?

高橋 「伝わらないこと」がつらかったですね。「主権者たる市民が立候補し、今、早急になすべきことは何かを精査した上で問題解決法を訴える」という時間が本来の「選挙期間」なんです。しかし、マスコミは選挙のたび「どの勢力が権力を握るか」という報道に終始している。候補者の声がつぶされるということはすなわち、苦しんでいる人たちの声が伝わらないということなんです。これは本当につらいのひと言に尽きます。

畠山 選挙報道の不公平さは一向に改善されませんからね。

高橋 ええ。自分の名前がTVで報じられないのは残念ですが、仕方がありません。ですが、現代社会は少子高齢化やそれに伴う介護自殺の増加など様々な問題を抱えています。そういった社会問題への取り組み方について、選挙期間中に大手メディアが報じなければ、一体、いつ誰が報じるのでしょうか? 政権争いの行方とはそういった問題を差し置いてでも報じなければならないものなのでしょうか。そういった理不尽さに対する憤(いきどお)りは常に感じていますね。

畠山 では、嬉しかったことはなんでしょう。

高橋 「社会問題の解決に尽力する機会」を与えていただいている、というのは非常に嬉しい。立候補していることで様々な人の人生や可能性につながっているんだという実感を覚えます。選挙戦の中で新たな問題点を発見することもできますしね。しかし、それだけに投開票が終わると問題の多くが見向きもされず放置されているという現実に直面せざるをえない。それもまたツラいことではあるのですが…。

独立候補として活動してきた財産

“都知事選に舞い降りた天使”とネットで話題の高橋氏

畠山 高橋さんは応援してくださる方もたくさんいらっしゃいますよね。今日、会場に来ていただいている方も8割は高橋派でしょう?

マック 何、マック派はゼロか!?

畠山 マックさんは嬉しかったことは何かありますか?

マック 高橋くんという独立候補の後輩もできたし、嬉しいことだらけだよ。特に前回(2017年東京都議会議員選挙)は私の演説に立花孝志くん、後藤輝樹くんが応援に来てくれたし、高橋君も手紙をくれたりした。「我々が立ち上がったら強いよ」「黙殺なんてさせないよ」という意思表示をするためにも“独立候補連合”を結成しないといかんな。

それにしても、こうも長いこと選挙をやっていると、つらいことも嬉しいこともいろいろとあるんだ。演説中にみかん箱蹴っ飛ばされるなんてしょっちゅうだし、ビール瓶を投げられたことだってある。

でもね、ある時、上野公園でふたり連れの女性に声をかけられたの。「マックさんの『10度20度30度! スマイル!』を見せてもらってもいいですか?」って言うからやってあげたんだけど、女性のひとりが私のほうを全然見ていないんだ。不思議に思って理由を聞いたら、連れの女性が「彼女は目が不自由なんです」と。それでも政見放送で私の声を聞いて会ってみたかったと言われて、涙が出てね。そういう出会いがあるっていうのは独立候補として活動してきた財産だな。

畠山 マックさんといえば、スーパーマンや宇宙人、エンジェルなど個性的な衣装でおなじみですが、意味はあるんですか?

マック 全部ありますよ。スーパーマンの時は「石原慎太郎都知事(当時、以下同)から都民を救うのは人間じゃ無理だ」というメッセージ(*スーパーマンはクリプトン星出身の宇宙人)。天使のコスプレは「猪瀬直樹都知事から都民を救うのは宇宙人でも無理だ」という意味があるんだね。これがなかなか伝わらないんだけど。

畠山 なるほど、複雑な意図があるのですね。

マック 宇宙人や天使ばかりじゃないよ。頭を丸めてガンジーになった(2013年、第23回参院選)のは集団的自衛権に反対し恒久平和を訴えるためだし、ブータンの民族衣装を着た時(2012年新潟県知事選)は、自殺死亡率が高い新潟県に「国民総幸福量」(GNH。ブータンはこの指標を重視した政策を行なうことで知られている)という指標を導入しようという考えがあったんだ。でもブータンの衣装って有名じゃないから「どうして高い供託金を払っておじいさんのコスプレしてるんですか?」って言われたよ。

白ワインを堪能しつつ“マック節”が全開!

今後、選挙で当選したら公約は?

畠山 高橋さんは、選挙期間中の洋服にこだわりはありますか?

高橋 アメリカの政治家にならい、赤いネクタイを締めています。個人的な思い入れとして、赤は血を表していて「もうすでに血は流れており、これ以上流れることはない」という平和へのメッセージをこめてあります。あと、持っている服で一番ちゃんとして見えるかな、と(笑)。

畠山 有権者から、ご自分はどう見られているとお考えですか?

高橋 自分ではよくわからない部分もありますが、2016年東京都知事選で出馬表明の記者会見をした時は反響がダイレクトでしたね。「供託金があと270万円足りない」と申し上げたところ、たくさんの方から心配の声をいただきました。

畠山 出馬表明としては前代未聞ですからね。

高橋 しかし、一歩踏み出したからこそ支援していただくことができ、借金も含めてなんとか供託金300万円を用意することができました。今思えば「270万円足りないってヤバいよな」ってゾッとします。

マック 私は政見放送がいまだにネットで見られているし、『立候補』(監督:藤岡利充)というドキュメンタリー映画にも出とるんだよ。だから、選挙以外でも皆さんの目に触れる機会が多いワケ。この映画がラブホテルの有料チャンネルで流れているらしくてさ、たまに「彼女とホテルで観ました」っていうメッセージもらうよ。そういえばこれ、賞(第68回毎日映画コンクール・ドキュメンタリー映画賞)まで獲ったのにギャラもらってないな。

あっ、『黙殺』も「第15回開高健ノンフィクション賞」獲ってるじゃないか。畠山くん、後で何かもらえませんかね?

畠山 スマイル!! では最後に今後、選挙で当選された際の公約を教えてください。

マック 今の民主主義は間接議員制度が機能していない。我々の代弁者としての使命を託した議員が政党政治に組み込まれ、党の代弁者に成り果てているんだから。パラドックスに聞こえるかもしれないけれど、そういう仕組みを壊すために是非とも当選したいね。

高橋 少子化対策の一環として、教育格差を生活の中でカバーするために「大学生や高校生がより年下のコの面倒をみる」という仕組みを作りたいと考えています。そういうシステムができるとこれから出産を控えている人も安心ですし、子どもたちをいじめや虐待などから守る目線も増えます。また、若者の減税も必要です。もし小池百合子都知事に「やっていいよ」って言われたら、すべてをかなぐり捨てて駆けつけますよ。

必ず、あなたの応援に行きます!

司会者 熱いトークをありがとうございました。この記事を読んでいる読者の中にも、今まさに立候補を考えている若者がいるかもしれません。そうした人へ向けてアドバイスをいただけますか。

畠山 様々な選挙を見てきましたが、やはり街に出て人に会わないと何も伝わりません。いくら政策がよくても、どれだけSNSが発達しても、大事なのは有権者の中に自ら入っていくこと。田中角栄さんが「握手の数以上の票は取れない」と仰った通り、選挙というものは候補者も有権者も生身の人間ですからね。生の声を聞いたほうが、いい政治家になれると思います。

マック そうだね。インターネットも大事だけど、生身の付き合いは大事。今はネットで選挙活動ができる時代だけど、「投票」はいまだにアナログでしょ。小学校とかに行かなきゃいけなくて、なんだかうさんくさいよね(笑)。私はYouTubeで有名になったので「インターネット投票」ができるようになったらもっと票が取れるはずなんだけどな。

高橋 確かに、大政党は“勝つ方法”を知っています。選挙は“勝ち負け”ではないというのが私の持論ですが、“勝つ方法”の中には握手のように一見、地道で前時代的に思えることでも有効な手段があるわけです。そういうことを学ぶことも決して無駄ではないと思います。

読者の皆さんに言いたいのは「政治に対して声を上げる権利」は全員が平等に持っているということ。なので、政治に対して何かを発言したとして、それでけなされたり、変に思われることを恐れる心配はないのです。この権利は今まで多くの人が命と引き換えに守ってきた大切で尊重されるべきもの。ですから、何か訴えたいことがあれば堂々と立候補してください。私は必ず、あなたの応援に行きます。

(取材・文/結城紫雄 撮影/鈴木大喜)

畠山理仁(はたけやま・みちよし)1973年2月20日生まれ、愛知県出身。フリーランスライター。早稲田大学第一文学部在学中の93年からライター活動を開始。著書に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)『領土問題、私はこう考える!』(集英社)。取材・構成として『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著、扶桑社)『10分後にうんこが出ます』(中西敦士著、新潮社)『新しい日米外交を切り拓く』(猿田佐世著、集英社)なども担当。

マック赤坂(まっく・あかさか)1948年9月18日生まれ、愛知県出身。貿易会社会長、スマイル党総裁。07年の港区議選以来、国政や地方選挙に13回出馬。個性的な政見放送で注目を集める。16年の東京都知事選では5万1056票を獲得。17年の東京都議選(世田谷区選挙区)では9021票を獲得し、通算2度目の供託金返還を受けた。

高橋尚吾(たかはし・しょうご)1984年2月5日生まれ、福島県出身。派遣社員としてコールセンターや家電量販店勤務を経験。16年の東京都知事選では「政争を行政から切り離すことと少子化問題解決」を掲げ、供託金を借金と有志からの支援で集め出馬。

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