80年代の「ジャンプ」を牽引した唯一無二の“超人プロレス”漫画!
『キン肉マン』はどんな漫画か?…と問われたら、これほど返答に困ることはない。
連載開始は1979年。当初は、地球を守ろうと奮闘してはしょうもない失敗を繰り返す落ちこぼれヒーロー・キン肉マンの日常を描くゆかいなギャグ漫画のはずだった。ところがそのキン肉マンがヒーローとしてどんどんと予想外の急成長を遂げていき…。大ブレイクを果たした80年代、気がつけばいつの間にかドシリアスな熱血格闘ストーリー漫画に変わっていたという、非常に稀有な作品であるからだ。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:1巻
当時全盛だったヒーローモノのパロディギャグとして始まった連載開始当初のダメ超人時代のキン肉マン。この頃はほぼ毎回1話完結で、闘う相手も宇宙怪獣が主だった。
それゆえ『キン肉マン』という作品は、まず漫画としてのジャンル定義が難しい。
ギャグ漫画でありつつ硬派なストーリー漫画でもあり、悪との対決は常にリングの上でのプロレスルールで行われることからスポーツ漫画と見ることもできるが、しかしその技は現実のプロレスではほとんどが再現不可能。まさに“超人技”の応酬であり、今なお「ジャンプ」で全盛を誇る能力バトル漫画の元祖であるとの見方もできる。
そもそもリング上での勝負とはいえ、キン肉マンが闘う相手の超人たちは悪魔や神の手先なのだ。そう考えるとこれは壮大なファンタジー漫画だという見方も十分に成立する。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:24巻
そんな様々な要素が絶妙なバランスでミックスされ、唯一無二の存在感を放っている。その様子をわかりやすくご紹介するための具体例をひとつ挙げるなら、キン肉マン最大の難敵のひとりに“悪魔将軍”という名のキャラクターがいる。高潔な神から最強の悪魔へと堕天し、この世の邪悪を全て束ねる悪魔の総帥という恐ろしい設定の敵である。だがそんな恐ろしい悪の権化でさえ、決して直接この世に暴行は加えず、ルールに則ったリング上でキン肉マンら正義の使者と闘ってくれるのだ。よく考えるととても不思議な状況である。まさにカオス。だがこの不思議な状況が決してギャグにならない。そのリング上でキン肉マンは死ぬほど恐ろしい目に遭い読者たちは本気で恐怖し、そしてその絶体絶命の窮地から繰り出される奇蹟の大逆転劇にまた読者たちは本気で歓喜するのである。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:16巻
“友情・努力・勝利”に痺れる!
テーマはジャンプの魂そのもの!?
『キン肉マン』の特徴であるこのカオスな作風は、視点を変えると“間口の広さ”ということにも繋がる。ギャグが好きな人、バトルが好きな人、多種多様な人それぞれに何か刺さるものがあるというのは大きな強みである。だがその一方、いずれも薄味では伝説の看板作品になるまでの熱狂は呼び込めない。ではその多種多様な読者を『キン肉マン』が一様に熱狂させた理由は何なのか? それが少年ジャンプのスローガンでもある“友情・努力・勝利”の三大テーマ。作中にてどれほど奇抜で突拍子もないことが次々と行われようと、そのカオスの根底には常にこの三大テーマがベースラインとして流れ続け、何があってもその魂だけはぶれることが一切なかった。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:12巻
これが本作の最大のテーマ。多種多様な間口から入ってきた読者層を、一様に「ジャンプ」という雑誌そのもののテーマである“友情・努力・勝利”の世界へと導いていく。
テリーマン、ラーメンマン、ロビンマスクなどなど、次々と登場する個性的な超人キャラクターと熱い激闘を繰り広げては友情を深め、結束し、新たに現れるより強力な敵にまた一丸となって挑んでいく。そしてその大本の主人公であるキン肉マンはやがて、宇宙一と言われる最強ヒーローの地位にまで昇り詰めていくのだ。『キン肉マン』とはそんな“友情・努力・勝利”の繰り返しで徐々に達成していく“成長”の物語なのである。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:36巻
1巻の頃のイラストと見比べると、とても同じ漫画とは思えない。ギャグとしてヒーローを目指し始めたキン肉マンは、8年で本物のスーパーヒーローになってしまった。
それを彩るスパイスとして「超人オリンピック」「夢の超人タッグ戦」など作者ゆでたまごの原作担当・嶋田隆司先生が次々と仕掛けてくる奇想天外な試合展開、さらに作画担当・中井義則先生が描かれるキン肉バスター、タワーブリッジ、パロ・スペシャル、マッスル・ドッキングといった驚異の超人技の数々が、読者を決して飽きさせない。
1983年からはTVアニメ化もされ、最高視聴率は20%以上を記録。夏休みやお正月には7度もアニメ映画化され、その観客動員数は延べ1368万人(推定)。さらに「キンケシ」と呼ばれるカプセル自販機売りのキャラクターミニフィギュアシリーズは累計出荷数1億8千万体以上とも言われており、作品を取り巻くその熱狂の様子はまさに社会現象の様相を呈していた。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:27巻
その“熱狂”は覚めやらず
今もなお週刊連載継続中!
こうして1979年の連載開始から瞬く間に人気を獲得した『キン肉マン』は、1987年に惜しまれつつ連載終了するまでの約8年間、週刊少年ジャンプ、ひいては日本漫画界のトップをひたすら走り続け、まさに80年代という時代を代表する作品のひとつとなった。ここまでの展開でジャンプコミックス全36巻。だがその熱がそこで消えることはなかった。
ゆでたまご先生はその後、他作品をいくつか発表の後、1997年から2011年までの約14年にわたり、週刊プレイボーイでキン肉マンの息子・キン肉万太郎を主人公にしたシリーズ作『キン肉マンⅡ世』を計57巻。さらにその後はWEBコミック「週プレNEWS」に舞台を移し、正真正銘の初代『キン肉マン』タイトルでの新章を満を持して連載再開。ジャンプ時代の最終話から始まるその新たな物語の単行本は、かつての地続きという主張も込めてジャンプコミックス「38巻」から発売されることとなった(37巻は読切集)。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:38巻
以降2016年11月現在で既刊56巻。新章開始から約5年が経過した今もなおその勢いは伸び続け、来たる12月2日には最新刊となる第57巻が発売予定で、シリーズ累計発行部数は既に7500万部を突破。最新刊発売のたびに週間コミックランキングのトップ10圏内に食いこんでくるほどの好調ぶりで、去る10月27日にはテレビ朝日系の人気バラエティ番組『アメトーーク!』でも「キン肉マン芸人」なる特集企画で取り上げられたほど。その面白さは今なお健在…いや、ファンの間では“より進化した『キン肉マン』”として「ゆでたまご先生の全盛期はまさに今!」と語る人も多いほどである。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:39巻
連載開始から37年、ジャンプを離れても今なお“友情・努力・勝利”のテーマはぶれることく、進化を続けるこの作品。これまで馴染みがなかったという漫画ファンの方がいらっしゃるなら、この作品を読むのに「今さら」などという躊躇は一切いらない。そもそも作者であるゆでたまご先生の基本スタンスは「今、面白かったらそれでよし!」。過去の設定など度外視で次々と面白いことを仕掛けてくる作風なので、歴史は古く巻数こそ多いが、その敷居はむしろとてつもなく低い。
本作の真骨頂は「これまで」ではない。むしろ「これから」どのような作品にさらなる進化を見せていくのか。それを楽しみにぜひ、今からでもこの稀有な大傑作『キン肉マン』を手に取ってみてもらいたい。
『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:1巻