英国で開催されたクルマやバイクのお祭りイベントに新型スープラの試作車がまさかの登場。
現地に飛んだ自動車ジャーナリストの小沢コージが開発責任者を直撃してきた!
■スープラプロトが英のイベントに登場!
ついにスープラが走った! 7月12日から英国で行なわれた世界的モータースポーツイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」にてプロトタイプが激走したのだ。
しかも、速さをガチで競う競技ではなく、1・86kmの坂を駆け上がるヒルクライムに登場。ディテールがわからぬよう赤白黒の迷彩ラッピングもなされていたが、車名は5代目(日本では3代目)スープラの開発コード「A90」。ドライバーは開発責任者である多田哲哉氏その人だ。
トヨタがドイツの名門BMWと初の共同開発を始めたスープラは異例ずくめだ。実車の世界初公開は今年3月のジュネーブモーターショーで、レース仕様のGRスープラレーシングコンセプトだった。
次が市販版で、それが今回の英グッドウッド。そして直前の7月6日には、米国の人気レース、NASCAR(ナスカー)エクスフィニティ・シリーズに新型スープラで来年から参戦することを発表している。
基本的にNASCARを走るのはF1のようなフォーミュラカーとは違い、外観は市販車のようなクルマだ(中身は大排気量のV8エンジンと4速MTで市販車とは違う)。だから今回、トヨタが発表したレースモデルの顔は限りなく市販のスープラに近いはず。
このトヨタの次世代スポーツカーは何を狙い、どういう走りになるのか。グッドウッドで出走直後の多田氏を直撃した!
■新型は直6エンジン搭載
―いやー、カッコよかったですね、生スープラ。評判は?
多田 いやもうスゴいです。今回はグッドウッドは完全に初披露の新車が少ないらしく、スープラの周囲には「なんだなんだ」と人だかりが。
―迷彩柄でグラマラスさがわかりにくかったですが。
多田 あえて狙いました(笑)。
―なぜ多田さん自ら出走?
多田 もともとはグッドウッドに出る予定はなかったんですが、主催者側から招待が来て走ってくれと言われまして。で、グッドウッドは競走する場じゃないし、せっかくだから自慢の音を聞いていただこうと。今回スープラはエンジンサウンドにものすごくこだわってるので。
―でもなぜ多田さんが?
多田 どういう運転をすればいい音が出るかは私が一番よく知ってます。今回はアクセルオフにしたとき、ブレーキングの組み合わせでいろんな音が出るようになっていて。
―かつてない演出が施されていると。ところで新型スープラは、なぜレーシングカーとしてのアプローチが多い?
多田 何言ってるんですか! そもそもトヨタのスポーツカーブランド「GR」はモータースポーツ直系として育てていくつもりですし、しかもスープラはGRが完全にゼロから造った最初のクルマですから。当然モータースポーツとは切り離せないし、実際にスープラはレーシングカーのコンバージョンです。
―両者の実態が近いし、ブランディングでもあると。
多田 もちろんそうです。
―でもNASCARは市販車と全然違いますよね。
多田 そうですがアメリカでスープラの名前を覚えていただくには最高の舞台なので。
―確かにトラックのタンドラでレースに出てるよりよっぽど自然かも(笑)。ところで根本的な話ですが、今ってスポーツカービジネスはスゴく難しいじゃないですか。最初は鳴り物入りで出ても結局は徐々に売れなくなって4、5年で終わる。
多田 そのとおり! だからこそ、一連のモータースポーツからのアプローチなんです。スープラという個別のクルマだけじゃなく、トヨタブランド全体であり、GR全体の価値を高めようという試みをしているわけです。結局、単発でスポーツカーを売って利益を出す発想だと、やがて売れないとやめる話になる。
―スープラは夢みたいな販売数は見込んでない?
多田 もちろん、そんなに甘いことは考えてません。
―なら、どこにどうやって価値を見いだすんですか。
多田 そこはいろいろ勉強させてもらっている最中です。やっぱりメーカーの自己満足になってもしょうがないと。
―現実はそういうメーカーが多いです、特に日本は。
多田 ポイントとしてはまずモータースポーツです。テクノロジーは進化していますが、そこは問題じゃない。昔は自分たちが乗っているクルマがレースに出ているというイメージがあった。ところが今はレースはレース、市販車は市販車と分岐して進化しているイメージ。あれはお客さまからするとわかりにくい。
―そうなんですよ!
多田 今はレースカーと自分たちが乗るクルマの距離があまりに遠すぎる。それをもう一回近づけるのが狙いで、その第一歩がスープラなんです。ワンメイクレースでもなんでもいいんですが、とにかくレースカーにコンバートしやすく、改造範囲は一番少ないのにすぐにレースカーの性能を出せるのが理想。
―新型スープラはまさに公道を走れるレースカーだと。
多田 例えばレースカーにする上で問題になるのがクーリング、つまり冷却です。ボディに冷却の穴をバシバシ開けなきゃいけないんだけど、量産車に穴開けるなんてエライこっちゃの世界。
そんなの既存スポーツの86でもできていない。でも、スープラはそういうことを事前にレースカーで試し、穴を開けなきゃいけないところにカバーをつけて売る。必要な人はそこを外してダクトをつければいい。
―画期的ですね。
多田 特に喜ぶのは一般のお客さまとか街の小さなレースショップです。レースカーへのモディファイのために、ハードルが高いところはちゃんとメーカーがケアしてあげると。
―市販車はどんなクルマになりますか。
多田 価格的には、トヨタブランドなので誰もがちょっと無理すればなんとか買えるくらいで出さなければと。
―欧米の本格スポーツカーは1000万円以上です。
多田 ただ、グッドウッドに参加した他社のスポーツカーと比較しても、ウチのA90は圧倒的に安いはずです。
―ところでエンジンは?
多田 直6ターボは歴史的にも必ず踏襲しようと思っています。
―自動車専門誌には340馬力出ると予想されています。
多田 馬力はいろんなバージョンがあります。それ以上に重要なのは走り。いかにサーキットや狭い山道を安心して走れ、アクセルを踏めるか。
―日本での販売は来年春?
多田 それくらいです(笑)。
★『週刊プレイボーイ』32号(7月23日発売)『2019年発売決定。英グッドウッドでプロトタイプが登場してもうガマンできん。なのでトヨタ開発者を直撃!新型スープラのスペックってどんな感じスか!?』より