いったいなんなんだ、この予想を裏切るエロさと洗練された走りは! まるで筋骨隆々のアーノルド・シュワルツェネッガーが、プロサッカーのクリスティアーノ・ロナウドばりに動くようだ! そう、見た目を裏切るモダンパフォーマンスを見せてくれたのが、新型メルセデス・ベンツGクラスなのである。
ベンツの「G」といえば、昔からクルマ好きの憧れたるリッチな超古典クロカン4WD。大元は1979年生まれのNATO(北大西洋条約機構)軍採用の軍用車でその民生版。独特の頑丈さと根強い人気から40年近くもフルモデルチェンジしてない奇跡の"走るシーラカンス"。
見てくれからして昔の兵器っぽい上、味わいもリアル軍用車。ボディ骨格は悪路を走れるように軟弱なモノコックではなく頑丈なラダーフレームを採用。戦車のようなハンパなき剛性感が味わえる上、金庫を閉めるようなガシャン!という重厚なドア開閉音や、ガッチャン!というロック音も味わえた。
一方、旧型は乗り心地は硬めでガツンと響くときがあったし、ステアリングも古くさいボールナット式でフィーリングはねっちょり気持ちいいけど、どこを切っているのかわからない不安感も。雰囲気のあるクラシックホテルがオシャレだけど真冬に廊下が寒かったり、電灯が暗かったりするようなもんよ。
よってそんなこんなで39年間、直し直しでしのいできたGクラスもいよいよ限界。特にエンジン積み替えでも直せない先進安全性や歩行者保護性能のアップデートのため、今回フルモデルチェンジに踏み切り、6月6日に発売開始となったわけ(納車は8月下旬以降)。ただし、メルセデスは古さも人気の秘密と知っているので公式にはフェイスリフトって言ってんだけど、ウソも大ウソ(笑)。
とはいえ、古さの残し具合は確かに絶妙で今までにない、いいとこ取り。ボディは骨格のラダーフレームから新作。それも3.4mmの分厚いスチール鋼板を使いねじり剛性は約55%アップ!
同時にウイングやボンネット、ドアをアルミ合金にすることで実に約170kgも軽量化。モダン化すべきところはしている。
ボディは先代より全長が53mm長く、全幅は64mm広く、全高は15mm高くなっている。なのに一見変わってないような武骨さ。特に巧妙なのが窓でフロントからサイドからリアまで一見昔っぽい平面ガラスなのによく見るとすべて湾曲。前後ライトもLED化しているのに変わらず丸形だからクラシックに見える。
実は、新しくなったのは「ドアハンドル」「スペアタイヤカバー」「ヘッドライトウォッシャーノズル」の3点だけ。なのにそうは見せない。古いデザインを最新技術で造っているのが新型Gの最大のキモなのだ。
さらに面白いのは乗り味。古さの残し方で前述のガシャン!と響くドア開閉音、ガッチャン!と響くロック音はそのまま。ていうか、あえてそう作り込んでいる。それでいて加速感や走りは全然別物になっているからマジでズルい。
驚くのは上質な乗り心地で、この手のラダーフレームはボディとフレームによじれが生じ、ピョコピョコするもんだけどその手の安っぽさはほぼ皆無。そして素晴らしいのはエンジンでリアルスポーツのAMG GTにも積んでる422馬力の4リットルV8ツインターボは超滑らか。軽くなったとはいえ車重2tの巨漢なのでスポーツカーほどには走らないが実に気持ちいい。
新設計したフロントのダブルウィッシュボーンサスとラック&ピニオン式のステアリングがもたらすハンドリングの手応え、そしてレスポンスは共に極上! まさにスポーツカーがはだしで逃げ出すレベル。過去、オザワはこんなに走って楽しいクロカン4WDに乗ったことがない!
見た目はシュワルツェネッガーで動きはロナウド。これはあながち言いすぎじゃなくって、マジでそれくらいのいいとこ取りをしている。この新次元のリッチなエロさに反応しないお金持ちを見てみたい。
ついでにインテリアも武骨かつオシャレで、12.3インチ×2枚のモダンなワイドディスプレイがついてるわ、この世代から追従式クルーズコントロール機能「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」、走行中に斜め後ろをケアする「ブラインドスポットアシスト」、車線逸脱を警告する「アクティブレーンキーピングアシスト」などを標準で備えていて先進安全機能もアップデート。
唯一の難は1562万円スタートの価格。久々に心底お金持ちがうらやましくなったぜ!
●小沢コージ
1966年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。90年に自動車誌の編集者に。著書に『マクラーレンホンダが世界を制する!』(宝島社新書)など多数。TBSラジオ『週刊自動車批評』レギュラー出演中。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員