ロールス・ロイスと肩を並べる日本の超高級車が新型にフルモデルチェンジ。早速、自動車ジャーナリストの小沢コージが開発者を直撃、その魅力に迫ってきた!
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■世界的にもレアなショーファーカー
つくづく今年はニッポン自動車界にとってのまさに当たり年だ。それもカルトな意味での当たり年。そう、20年ぶりに登場の本格軽クロカン4WDの4代目スズキ「ジムニー」、そして19年ぶりに登場のホンダの新型軽商用「N-VAN」がバカ売れ。
それらに続きとんでもないカルトカーが21年ぶりにフルモデルチェンジした。その名はトヨタ、センチュリー! クルマ好きなら知っているトヨタのクラウン、レクサスLSを超えるニッポン人が生んだ、ニッポン人のための、ニッポンの高級車だが、実はその全貌は知られていない。
一流企業の偉い人が乗るクルマでしょ? せいぜいそれくらいの認識だろう。確かにそのとおりだが、そのレア度っつうのがハンパないのだ。
新型の価格は1960万円。クラウンはもちろんレクサスLCを超えるトヨタグループ車国内最高価格。2370万円というホンダのNSXを別にすれば国内最高価格カーだ。しかも基本ショーファー、つまり運転手付きの高級車だ。
よって月産はわずか50台。何より初代が30年間! 2代目が20年間!も造り続けられた超細く長く売られるクルマで、ロールス・ロイスやベントレーなど、この手の高級サルーンが、少量とはいえ全世界的に発売されていることを考えると、不思議なくらいの内弁慶。
実際、かつてこの手の国産ライバルに日産プレジデントがあったが今は撤退。おそらく月販数十台レベルじゃ1台2000万円でも儲からない。要は商売にならないジャンルなのだ。
だが、センチュリーの出来はため息が出るほどスゴい! 骨格はレクサスLS600h、つまりHV(ハイブリッド)の旧型をわざわざ起用したのは、シルキーな5リットルV8エンジンをあえて使うためだ。
小沢も試乗取材してみたが、その静かさ、滑らかさ、豊かな加速感はマジでハンパない! ロールス・ロイス、ベントレーを一部は超えるレベルで、イメージ的には雲の絨毯(じゅうたん)に乗っているかのようだった。HVだから発進はモーターでほぼ無音だし、エンジンがどこでかかったのかもほぼわからない。
そして内外装は、柾目(まさめ)材の本杢(ほんもく)パネル、手彫りの鳳凰エンブレムに七宝文様グリルなど和の抑えられた上質さが隅々まで行き渡ってジミだけど豪華!
旧型LSを使う意味はもうひとつある。信頼性だ。実はセンチュリーのお得意さまは一流企業だけではない。皇族もお得意さまなのだ。天皇陛下が乗ったクルマがエンストするわけにはいかないっつうわけ。もはや「文化」ともいえるセンチュリー。開発責任者の田部正人氏を直撃した。
■開発時に意識したのは"お手振り"!?
――新型センチュリー、こんなにスゴいクルマなのになぜ海外に出さないんですか。デザインはモダンにカッコよくなったし、中身はV8のHV。燃費も13・6km/リットルと相当いい。記者会見でも外国人記者から質問が殺到していました。
田部 海外の方に評価していただけたのはうれしいんですけど、輸出は現状あまり考えておりません。よほど人気が殺到すれば別ですけど。
――センチュリーを世界で売らないのはもったいないですよ。日本は隣国に世界で最も貪欲な高級車マーケット、中国を抱えているんです。試しに輸出してみたらどうです?
田部 うーん......そもそも海外に出すとなると、左ハンドル車を造らなければならないし、ものすごく大変です。インパネやステアリングのギア回りを変える必要もあります。
――輸出するとなると、間違いなくド派手な内外装も求められるでしょうしね。中国向けだったら赤地に金の龍の刺繍(ししゅう)がついた革シートとか(笑)。
田部 このクルマは初代が30年間、2代目が20年間販売され、「大きなところを変えちゃダメ」っていうのが最終的な結論なんです。
――どういうユーザーをターゲットに? というか誰が買うんスか?
田部 当然、皇室がお使いになることも考慮しています。小沢さんも御料車ってご存じですよね? 天皇陛下がお乗りになるクルマでセンチュリーロイヤルといいますが、私はそれも担当していて、そちらと隊列で走ることも考えているんです。
――センチュリーの開発時に皇室を意識する?
田部 ええ。まずは"お手振り"ですね。
――お、お手振り?
田部 後席に乗った際、いかに乗客がキレイに見えるか。ポイントは後席サイドウインドウの位置とサイズです。上に行きすぎたら見えなくなるし、下に行きすぎたら手をたくさん動かさなければいけない。かといって大きすぎたら見えすぎる。新型はベルトラインを旧型比で15mm上げていますが、これがギリギリでドアに厚みと張りを持たせてモダンに見せています。
――そこまで考えると。
田部 当然です。それから先代モデルからアルミのドアフレームを踏襲しているんですが、これも後席の人がキレイに見えるようにするためで。
――もしや額縁効果?
田部 そうです。ドアのインサイドハンドルもわざわざ亜鉛の塊にしていて、触るとどっしり重くて冷たい。アルミ素材じゃこうはいきません。
――超細かいですね。
田部 ドアパネルはその前に偉い方が立って写真を撮られたりする。エクステリアデザイナーはドアに反射フィルムを貼って何度も何度も確かめましたね、姿がキレイに映り込むかどうかを。
――となると塗装は?
田部 塗装にはメチャクチャ手間暇かけています。旧型が5層コートのところを新型は7層コートで、塗装工程だけで約40時間。日数にして5日間ぐらいですから塗装ブースに1週間ほど置きっ放しです。
――職人さんが水をかけてボディを磨くそうですね?
田部 水研ぎです。1台1.5時間やるんですけどそれを3回繰り返します。レクサスは1回だけやりますけど、ほかのトヨタ車はやりません。
――職人技術の塊ですね。それも今回また進化している。利益って出ているんですか?
田部 旧型は出た当初、月に140台売れていました。モデルライフ通期では平均月40台ぐらい。利益度外視とはいいませんが、スゴく儲けようとしていないということだけはいえます(笑)。日本の様式美みたいなものを追い求めているクルマですから。
■後部座席で新聞が読めないとダメ
――新型は全体的にツルッとしたデザインになりました。
田部 ひと目でセンチュリーとわかるようにしながら、新しさもないとダメ。初代と2代目は遠目に見てほとんど違いがわからなかったので、3代目はそれを避けようと。
――なるほど。この3代目センチュリーのベースは旧型のレクサスLSハイブリッドですね。これは?
田部 ユーザーの方からすると環境対応車、つまりHVでないっていうのがダメなんです。皇族の方も乗られますが、センチュリーのユーザーの大半は企業のトップですから。
――社会的責任があると。どこまでLSがベースです?
田部 大きいのはフルタイム4WDだったのをリアの二輪駆動にしていることです。一番気にしたのは乗り心地で、そうやってフロントサスペンションにスペースを作り、ダンパーに別体のエアチャンバーをつけました。そのままだとセンチュリーの乗り心地が確保できないと判断しまして。
――レクサスLSの乗り心地でも足りないと。加速は?
田部 絶対パワーを求めるクルマではないので、いかに滑らかに静かに走るかを追求しました。特に走りだしですよね。アクセルを踏んだときにバーンとトルクが立ち上がるのではなく、いかに滑らかに立ち上がるか。それからEV走行でスタートして、途中でエンジンがかかる瞬間ですね。
――後部座席だとEVからエンジンへと切り替わるタイミングは気づきませんでした。
田部 あとは乗り心地です。旧型は足を柔らかくした分、ボディがフワフワ動いた。それがいいって人もいますが、今回は柔らかくしつつも、フラットライド感を狙いました。ウチの上のほうから「センチュリーは後ろで新聞読めなきゃね」と言われまして。
――高級車として「世界イチ」と言いきれる部分は?
田部 国産車に限れば静粛性は間違いなく1位だと思います。ロールス・ロイスのファントムを比較車として欲しかったんですが、あまりに高くて買えなかったんです。
――3代目センチュリーは国際化を狙って、ロールス・ロイスやベントレーを意識したっていうウワサがあります。
田部 ネットではそう書かれているようですが、こちらはまったく意識していません。センチュリーはやっぱり「和」です。日本人が茶室に感じる安らぎというか。大企業のトップの方々には、センチュリーに愛着を感じていただいております。
レクサスLSが出ても、「やっぱりセンチュリーが最高級車だね」と言っていただける。そういう方々に僕らはセンチュリーを提供していかなければならない。宮内庁にもお届けしなければならない。企業としての責任、社会貢献ではないですけど、継続的に出していかなければならない。匠(たくみ)技術の伝承という意味もある。そこは商売とは関係なくですけどね。