ベースはボルボXC40のLynk&Co新型セダン「03」

10月19日、富士スピードウェイは中国メディア関係者でごった返していた。その数ナント400人!

お目当ては、吉利汽車(ジーリー)×ボルボの新ブランド「Lynk&Co」の新型セダン。中身はボルボなのに11.68万元(約190万円)という激安価格に加え、前代未聞の永久無料保証や月額定額制などを導入するという。コイツは衝撃だ。

日本には入ってくるのか? そもそもなぜ日本で発表を? 全貌を探るべく、小沢コージが潜入した!

* * *

■すでに累計販売台数15万台に迫る!

飛び交う中国語に、集結した約400人もの中国メディア&インフルエンサーたち......10月19日夜、富士スピードウェイに着いた小沢は、一瞬「ここはどこ!? 私は誰?」と中華街にいるかのような妙なトリップ感を覚えてしまった。中国の吉利汽車(ジーリー)とボルボが共同開発した新興グローバルブランド「Lynk&Co」の新型セダン「03」のワールドプレミアである。

Lynk&Coは、2016年10月にブランド設立を発表。翌17年11月には1号車となるSUV「01」が中国でデビューし、わずか2分強で6000台をオンライン受注! 世界最速販売記録を樹立した。

そして、今年の3月にはコンパクトSUV「02」をアムステルダムで発表。居並ぶ欧州ジャーナリストに「かつての日本車、韓国車のような衝撃」と言わしめた。今では両モデルを合わせて月1万5000台を売り、年間累計販売台数は15万台に迫る勢い!

Lynk&Co 01 Lynk&Coの記念すべき量産1号車。こちらもボルボXC40がベースとなっている。わずか2分で6000台を売り上げた

人気の秘密は、今年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーにも輝いたボルボXC40と同じ、安全・高品質のプラットフォームを使いながらも、車両価格は約半分という点もあるが、それだけじゃない。

独自のポップなデザインや、オンライン中心の販売方式に加え、今後はサブスクリプション(月額定額制)やカーシェアの本格導入を明言しているのだ。

さらに驚くのは、ワンオーナーで所有し続ける限り、一部消耗品を除く基本メカニズムの保証やロードサービス、コネクテッド利用の永久保証をうたっている。メーカーからモビリティ企業への転換を図るトヨタやVW(フォルクスワーゲン)グループより一歩先に「サービス中心の自動車ビジネス」を始めようとしているのだ!

果たして、クルマをスマホのように売る新ビジネスに勝算はあるのか!? エグゼクティブ・バイスプレジデントのアラン・フィッセル氏を、記者団と共に富士で直撃した。(なので、質問内容には小沢コージのほか他記者のも含まれます。ご了承ください!)

会場には、ランウェイのような道路や都会の映像を映す巨大モニターの数々が。これだけの規模で演出する例はまずなく、サーキット関係者も「富士史上最大規模では」とうなる

■目指すは自動車界のネットフリックス

――なぜ、400人もの中国メディア関係者を招いてまで、日本で販売予定のない03を富士で発表したのでしょうか。

アラン まずは皆さんをビックリさせたかったというのが本音です(笑)。グローバルブランドとして打ち出すには、世界中の都市でローンチ計画を立てる必要があります。東京のようにクールで先進的な大都市を皮切りにするのが適切ではないかと思ったんです。

――03は初のセダンですが、主なターゲット地域は?

アラン セダンがよく売れる中国はもちろんですし、20年に欧州、21年には北米でも展開していく予定です。細かい地域はまだ定めていません。

――中国では、01の予約開始から2分で6000台のオンライン受注が入ったとか。

アラン そうです。そのときの購入者データを見ると、購入の動機や過去の所有車、教育や収入水準といった膨大な情報が詰め込まれており、マーケティング的成功も収められています。現在の顧客は、若くて余裕のある富裕層。想定外の結果です。

――自動車メーカーではなく、モビリティカンパニーとうたっていますが、他メーカーとの差別化はどのように?

アラン 今はどこのメーカーも自動運転やカーシェアに躍起ですが、結局のところ、彼らが目指すのは販売台数です。しかし、Lynk&Coは最初からモビリティサービスを中心に考えており、欧州や北米ではサブスクリプション方式による販売を考えています。私たちは、自動車業界におけるネットフリックスやスポティファイのような存在になりたいのです。

――斬新でユニークな発想ですが、その考えはいつから?

アラン 設立当初からです。今の世の中に、新しい自動車ブランドはこれ以上必要ありません。この100年間、自動車業界は製品を改良し続け、より優れたクルマを生み出してきました。ですが、今はクルマの進化よりも、より良い新しい使い方や、あり方が求められています。

――具体的に言うと?

アラン 私たちは、これまで若いお客さまを中心とした多くのターゲットカスタマーにヒアリングをしてきました。すると、現在の購入スタイルでは、多くの負担や煩雑さを伴い、選択肢が多すぎると感じている方が多いことがわかったんです。同時に、もっと自分のライフスタイルや好みを反映したクルマを望んでいることもわかりました。しかし、現実的には当たり障りのないクルマ選びを強いられてしまっています。

――確かに、日本でも購入時に時間や費用が多くかかるほか、若者がクルマから離れているともよくいわれています。

アラン そこで、私たちがまず重要視したのはデザインです。パッと見たときに、誰にでも認知されやすい独自性を持ったフロントマスクにしました。私たちにはボルボXC40と同じ信頼性の高いプラットフォームがあるので、そこに、今までにない独自のテイストを加えています。

――そこはLynk&Co最大のメリットでしょうね。

アラン そうです。それから、先ほども申し上げたサブスクリプション方式。これは商品代金を毎月定額で支払うだけでなく、毎月の保険代、駐車場代も同時に支払うため、非常にシンプルで煩わしさがないのです。

それだけではありません。例えば、Lynk&Coのクルマを月500ドルで借りているとします。あるとき出張が入り、使わない期間を空港の利用者に5日間貸したとします。すると、一日のレンタル料金が30ドルであれば最大150ドルも儲けることができるんです。これで、その月の利用価格を350ドルに抑えられることにもなります。

モータージャーナリストの小沢コージ氏(左)とエグゼクティブ・バイスプレジデントのアラン・フィッセル氏(右)

■開発スタッフの約半分が元ボルボ

――一方でカーシェアはどうでしょう。シェア目標は?

アラン 具体的な数字は言えませんが、カーシェアは世界的に伸びていますし、特に若い人たちはクルマを所有することにこだわりがなく、代わりに、モビリティサービスや、そのブランドがクールかどうかということへの関心が高い。

私たちは、公共交通機関の代替となるシェアリングを目指すのではなく、友人間や家族間といったコミュニティの中で上手にLynk&Coのクルマをシェアしていくビジネスモデルを考えています。

――資本は吉利汽車ですが、本社はスウェーデンにあるそうですね。

アラン 本社だけではなく、開発拠点もデザインセンターもスウェーデンにあります。今は2500人の開発スタッフがいますが、その約半分が元ボルボのスタッフで、中国のエンジニアはひと握りです。平均年齢は34歳と若く、自動車業界出身ではない者も非常に多くいます。

――ある意味モビリティのスタートアップに近いと。

アラン そうです。

――ところで、「Lynk&Co」という名前にはどのような由来が?

アラン 由来についてはさまざまな説が飛び交っていますが、実はそれほど深い意味はなく、なんとなくカッコいい名前だと思って命名しました。Coは「カンパニー」の略でも「コラボレーション」の略でもありません。

また、数字続きの車名に関しては、私とデザイナーのアンドレアスが、シンプルを極めたいという結論になり、あのような名前になりました。

――海外のショーでは、ファッションやコスメ用品を前面に出したディスプレイでしたが、あれもまた本気なのでしょうか。

アラン 私たちはクルマという枠にとらわれずに、ライブ感のある生き生きとしたスタイルを打ち出していますから、必ずしもクルマだけではなく、ファッションやギアを提供することも考えています。

――日本にも参入してきたら面白くなりそうですね。

アラン 今のところは未定ですが、数年以内には参入できればと考えていますよ。

来年からはWTCRにも本格参戦。元ボルボの優勝ドライバーが乗り、ツーリングカーレースの最高峰にも出場する。さすが、富士を貸し切るだけのことはある!