『インプレ!』100回記念ということで、今回はジャガーの最強モデルに乗った。ジャガーといえば、英国の歴史ある超高級メーカーだ。なかでも注目はクーペのFタイプ。美しいシルエットで、優れた走りを披露するモデルだ。昨年6月に日本導入5周年を迎えて話題を集めた。
ただ、今回紹介するFタイプは強烈なモデルだ。その名はFタイプ SVR。2016年6月に登場したSVRは、ジャガー・ランドローバーのSVO(スペシャル・ビークル・オペレーションズ)チームが開発を手がけた超高性能モデルだ。ちなみにこのSVR、ジャガー史上最もパワフルなモデルでもある。
搭載されるエンジンは5リットルの排気量を持つV型8気筒のスーパーチャージャー付きである。最高出力は575馬力で、最大トルクは71.4を発生。3.7秒で時速100キロに到達する。
見た目もかなりイカつい。美しいクーペフォルムはそのままだが、フロントバンパーは大きく口を開け、足元には20インチの極太タイヤを備え、それを組み合わせたホイールの奥には巨大なキャリパーが鎮座する。
そして極めつきは、その流麗なルーフラインをブチ壊している!?と、思うほどの存在感を放つ、巨大なリアスポイラーだ。さらにリアバンパーには4本のマフラーが光る。
キルト加工が施されたレザーシートに滑り込み、エンジンスタートボタンを押す。V型8気筒エンジンが「フォン!」と覚醒する。そのボリュームはハンパなく、正直、住宅街ではホントに迷惑すぎ......な音だ。
トランスミッションはZF社製の8速ATだ。Dレンジに入れて走りだすと、その見た目とは裏腹に、予想外の乗り心地のよさであった。
足元の20インチサイズの極太タイヤは路面の荒れたところや段差ではそれなりの衝撃を伴う。しかし基本的にはフラットな乗り味で、普段使いは完全にOK!
だが、アクセルを踏み込んでみると、「ファーン!」といきなりエンジンは元気がよくなり、切れ味鋭く回転を高める。
SVRの駆動方式は4WDなので、余すことなくパワーとトルクを路面へと伝え、この獰猛(どうもう)なクーペを加速させる。まさにリアルなスポーツカーのそれであった。ポルシェ911ターボがライバルといわれているだけに、本物の速さが確かにあった。
もちろん、ハンドリングも秀逸で、決して小さくも軽くもないこのボディを気持ちよくコントロールして見事な姿勢をつくり出す。サスペンションの印象はあくまでも車体をこれでもかと路面へ押しつけるタイプではなく、ある程度クルマの動きを出してコントロールするという、実に巧みなハンドリングだ。
ちなみにこのSVRを僕は、1週間くらい試乗したのだが、最初はハイパフォーマンスなモデルだけに、毎日大トロを食べるようなものかと思っていて途中でギブアップするかも、と思っていたが、意外と普段乗りで気持ちがいい上に、乗るほどにクルマがドライバーになじむ感覚があった。しかもエンジンは単にパワフルなだけでなく、普段使いの低中回転でもとっても滑らかに回ってくれたのだ。
ちなみに、このFタイプ、はやりのアダプティブ・クルーズ・コントロールなどは備わらない。が、特に苦はなかった。
いずれにせよ、こんなハイパワーなV8は今後登場しないかも。そういう意味では、とても価値ある貴重な一台である。
●河口まなぶ
1970年生まれ、茨城県出身。日本大学藝術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌(モーターマガジン社)アルバイトを経て自動車ジャーナリスト。毎週金曜22時からYouTube LIVEにて司会を務める『LOVECARS!TV!』がオンエア中。02年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員