復活したスープラが世界のクルマ好きを熱くたぎらせている。ということで、自動車ジャーナリストの塩見(シオミ)サトシが復活希望のスポーツカー(スペシャルティカー)10台を独断と偏見で選んだ!
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あの夏、もうクルマが無邪気でいられる時代は終わったんだなと心の中で葬式をした。2002年8月、排ガス基準が厳格化され、新基準をパスできないトヨタ・スープラ、日産スカイラインGT-R、シルビア、マツダRX-7と日本を代表するスポーツカーが販売中止となった。
当時の自動車メーカーにハイパワーを維持しながら排ガス基準をパスする技術力がなかったわけではないが、多大なコストをかけてまで販売を継続する意味がないと判断されたわけだ。
これからは環境に配慮したハイブリッド、EV、ミニバン、軽自動車などが主流になるのだろう......大事なことだ、スポーツカーもパワー自慢ではないマツダ・ロードスターのような方向へかじを切るのだろう......それもまたよし。そう自分を納得させた。
あれから17年たった2019年のデトロイト・モーターショー。「スープラ・イズ・バック」という豊田章男社長のかけ声とともに、スープラが華々しく復活した! 登場を記念し、生産第1号車がオークションにかけられ210万ドル(約2億3000万円)で落札された。
こう言っちゃなんだが、フェラーリやブガッティじゃなくスープラだ。日本のスポーツカーの復活に対し、世界最大のスポーツカー市場、アメリカがここまで熱狂し、盛り上がってくれるとは、日本人として純粋にうれしい。
翻ってここのところの日本国内のクルマの話題といえば、電動車、完成検査問題、自動運転、それにトップの不祥事疑惑......どれも重要な問題だが、正直パッとしない。"スポーツカーの復活を210万ドルで落札して祝う"といった祭り感がない。待てども待てども北島三郎が出てこない紅白を見せられているようなモヤモヤがある。
これじゃいけない。直面するさまざまな問題には対処しつつも、自動車には夢がなくてはならない。自動車にとっての夢とはスピードであり、スポーツカーはその具現だ。生身の人間にはとうてい不可能な速さでどこへだって移動できるという可能性としてのスピード。そのスピードを純粋に追求するスポーツカーを、やはり絶やしてはいけない。思い切って日本にイマイチ停滞感があるのはスポーツカー不足が原因だ! と、言い切ってしまおう。
そもそもある時期まで日本はスポーツカー天国だった。スープラ以外にも復活すべきスポーツカーがたくさんある! というわけで、シオミが独断と偏見で復活すべきスポーツカーをピックアップした。
■日産が誇るビッグネーム3台!
1位はフェアレディZだ。復活というかZはまだ現役で販売されているが、古い! 現行型は08年末に登場。先代よりも排気量を増してパワーアップし、サイズは逆にコンパクト化してより本格スポーツとして登場した。MTの回転合わせをクルマが代行してくれるシンクロレブマッチングは画期的で、多くのMT車が追随した......のはよいが、その後10年間ほぼそのまんまで売りっぱなしになるとは思わなかった。
Zは長い歴史を持つスポーツカーだが、80~90年代の放漫経営がたたって00年についに販売が中止された。
それを02年にわずか2年で復活させたのは1999年にルノーから送り込まれたカルロス・ゴーンCOO(当時)だ。彼は就任後、冷徹なコストカットで債務を圧縮したが、同時にスポーツカーのZを復活させ、日産復活のシンボルとした。最初はまじめだったのだ!?
新生Zの2代目に当たる現行モデルは引き続き日産のフラッグシップスポーツとしての役割を担うはずだったが、07年にGT-Rが復活し、一気に日陰に追いやられた。ゴーン被告が復活させたZだけにゴーン被告の退場とともにひっそり販売中止になるのではないかと不安にもなるが、もともとZはゴーン被告のものなんかじゃなく日産と、世界中のZファンのもの。今こそあらためて新生日産を印象づけるド級の性能を持った新型Zが必要なのではないだろうか。
どんどんいこう。次も日産だ。2位はシルビア。多くの人にとって頑張れば手が届く価格帯のスポーツカーとしてクルマ好きに人気があった。
ロータリーエンジン搭載計画があった2代目(オイルショックで幻に)やスタイリングが絶賛された5代目あたりが印象深い。7代目が02年の排ガス規制強化によって消滅したのは前述のとおり。一度やめたスポーツカーを復活させるのは技術的にもビジネスの面でも難しいのはわかる。
だが日産にはゴタゴタしているとはいえルノーと三菱というグループ企業がある。ルノーはこのほどアルピーヌブランドのミッドシップスポーツを復活させたばかりだ。これを使わない手はない。この際エンジン搭載位置には目をつむろうじゃないか。
3位はスカイラインGT-R。続いても日産だ。マジで日産はクルマ好きを夢中にさせてきた、他社が羨(うらや)むビッグネームを多数抱えるのに放置しすぎだっての! ノートにリーフもいいが、それじゃ物足りない。やはりぶっ飛んだ「6気筒」や「ターボ」でオレらをイカせてほしい。
現行GT-Rは07年に登場し、世界中を驚かせ、ポルシェを焦らせた。だが本気になった世界のキャッチアップは早かった。今では数ある速いクルマの一台として埋没している。次期型のウワサがないわけではない。ミッドシップスーパースポーツというウワサも聞こえてくる。だが電気大好きの日産が今から出すなら電気仕掛けのGT-R、その名もET-Rでどうだろう。もちろん名前はスカイラインGT-Rに戻す! 11年前、無慈悲に速く世界をあぜんとさせたときの興奮を、今度は電気モーターで味わわせ、世界を"感電"させてほしい。
■スープラに続け!セリカ、MR2
4位はセリカ。スープラはもともと、セリカXXというセリカの兄貴分だった。6気筒のスープラに対し4気筒のセリカ。兄貴が復活したなら弟のセリカも復活すべし!
くしくも新型スープラはBMW Z4ベース。Z4に4気筒がある関係で、スープラにも4気筒がある。ならばそれにセリカを名乗らせるのはどうだろうか。復活ついでに世界中から消えたリトラクタブル・ヘッドライトで登場してくれたら話題性抜群だと思うのだが......。
5位はMR2。スープラ発表の場で豊田社長は「これ(スープラ)だけが将来トヨタから出す唯一のスポーツカーにならないことを願う」と述べた。願うって、自分がハンコ押せばいくらでも出せるだろッ!というツッコミはさておき、これを聞いて頭に浮かんだのはMR2だ。ミッドシップ2シータースポーツが80~90年代のトヨタにも存在した。バブル時代真っ盛りの89年に登場した2代目は当時の2リットルターボとしては最もハイパワーだった。
スバルのソリューションで86をつくったように、またBMWのソリューションでスープラをつくったように、エンジンを供給しているロータス・エリーゼをベースにMR2を出したら面白いと思うが。
■懐かしのスペシャルティカーも復活せよ
6位はランエボだ。ランエボのキーテクノロジーは、4WDをトラクション確保のみならず曲げることにも活用するスーパーAWC(オール・ホイール・コントロール)にある。その技術は今も各モデルに最適化されて活用中だ。
なかでもアウトランダーPHEVは、前後モーターと各輪のブレーキを駆使してエンジン駆動車には絶対できないきめ細かさで各輪をコントロールする。つまり、この駆動系をセダンに搭載してモーター出力を上げれば、すぐにでもエレクトリックランエボは出来上がるのだ。そしてこれは日産の次期GT-RならぬET-Rにも採用できるはずだ。日産三菱で電気仕掛けのスーパー4WDスポーツをブチかまし、ルノー主導などという寝ぼけた提案をしてくるフランス人を黙らせるというのはいかが!?
7位、ユーノスコスモ!
マツダが直6エンジンのFR車を開発中というのはもはや公然の秘密だ。そんな壮大な計画が進んでいるのなら、フラッグシップ2ドアクーペもお願いしたい。その名はコスモ以外にありえまい。もっと言えばマツダはかつてV12エンジンを開発し、アマティというラグジュアリーサルーンに載せて発売寸前までいった過去を持つ(バブル崩壊で計画はオジャン)。直6があるならそれをV字に2基くっつけて12気筒のコスモを開発してほしい。
8位はプレリュード。先般ホンダから出たグッドデザインのハイブリッドサルーン、インサイトの登場を見て思う。2ドアクーペ化し、プレリュードをつくればいいじゃん。日産に「シルビア復活させよ!」と注文した以上、ホンダにもスペシャルティカー復活をお願いしよう。
9位はエクリプス。背をプラスしたSUVのエクリプスを出したのなら、背の低い往年のエクリプスを出してもいいじゃないか!
ラスト、10位はアルシオーネSVX! かつてスバルにはアルシオーネSVXという水平対向6気筒エンジンを搭載した本格的GTが存在した。とはいえ、現在のスバルに新たに6気筒をつくれというのは酷。ただ、トヨタがBMWから直6を調達してスープラをつくったのなら、スバルも現在唯一の水平対向6気筒をつくっているポルシェに頼み込んで供給してもらおう。
国産自動車メーカーよ、今こそ新型を出してくれ!
(写真協力/トヨタ 日産 ホンダ マツダ SUBARU 三菱自動車)
●塩見サトシ
1972年生まれ、岡山県出身。関西学院大学卒。山陽新聞社、『ベストカー』編集部、『NAVI』編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員