長年、ダイハツが培(つちか)ってきた軽のノウハウを惜しげもなくぶっ込み、開発した普通車がトールである。
実は今、このハイトワゴンが日本の新車市場で存在感を強めている。その使い勝手と走りを自動車ジャーナリストの藤島知子が徹底リポート!
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日本の狭い道路環境などを踏まえると、コンパクトなモデルが魅力的に思えてくる。だからなのか、昨年、日本で最も売れた乗用車(軽除く)は13万6324台を売った日産のノートだった。が、実は隠れ人気車がある。ダイハツが企画・開発・生産を行なっているトールだ。
トヨタではルーミーにタンク、スバルではジャスティの名で販売されているモデルである。そして、この4兄弟の販売台数を合計すると、18万8590台でぶっちぎりトップに立ってしまう。なぜこんなに売れているのか?
もともとトールはダイハツのコンパクトハッチバックモデルである、ブーンのプラットフォームを応用して開発された、2列シートの5人乗り、5ナンバーサイズの背高系ワゴンだ。後席には両側スライドドアを備えていて、床は低く、天井は高いため、車内はヘッドクリアランスが広く、全体的にゆとりを得ることができる。まさに"ミニ・ミニバン"と呼ぶにふさわしい優れたスペースユーティリティがこのクルマの最大の魅力。
また、小さなクルマに日常で使ってうれしい機能を盛り込むあたりはダイハツの得意技で、その実用装備の数々は世界のメーカーがアッと驚くほど充実している。例えば、ドリンクホルダー。前席用はインパネに回転式のホルダーが設けられていて、ペットボトル、ペーパーカップのコーヒーが収まるだけでなく、四角い紙パックまでホールドできる。
さらに、使わないときはスマホを差し込めるという、2WAYの仕掛けが。前席の足元には500ミリリットルのペットボトルが2本収まる収納ボックスが存在し、ゴミ箱として使うことも可能だ。
一方で、後席は左右の座席が50:50の独立式で前後にスライドする。荷物が少ないときは後席の膝回りを広くとり、荷物が多いときには前方にスライドさせると、後席に乗員が座った状態で荷室のスペースが稼げる。さらに、後席を畳むと低床の荷室フロアが現れ、26インチの自転車を2台積めてしまう。
また、雨天時に濡れて汚れた荷物を積んだ後のフロア掃除においては、後席を倒した際に荷室の床板を反転し背面に備えた防汚シートを敷くと、簡単に汚れが拭き取れるフロアが出現。趣味や遊びの道具も汚れを気にせず積める。
スライドドアも乗降性が考え抜かれていて、柱には大型のアシストグリップがついている。径が細い下部は子供がつかみやすく、上部は大人用になっている。中央はご年配や体が不自由な乗員が上から手を置け、体重を支えて乗り降りできる。
ダイハツといえば、走りの基本性能にこだわるメーカーだが、トールは重心が高く見える割に、カーブではフラつきが少ない。小回り性も高く、車両感覚がとらえやすいから、ウイークデーにハンドルを握るママでも安心して運転することができそうだ。
さらに、トールにはダイハツが誇る衝突回避支援システム「スマアシⅢ」が設定されている。スマアシは2012年にムーヴへ初搭載した後、搭載車種が拡大し、昨年11月末には累計200万台を突破して話題を集めた。
ちなみにメッキで武装したイケイケの顔は迫力満点!
旬な装備を搭載したトール。注目を集めるのも納得だ。