1996年度に続いて、過去2番目の高水準だった昨年をさくっと上回り、2年連続で30万台超をマークした輸入車。
その人気の理由を自動車ジャーナリストの塩見サトシががっつり解説!
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■ミニが3年連続モデル別1位のワケ
――輸入車の販売が好調で、昨年は前年度比1.2%増の30万7682台と4年連続のプラス。しかも登録車のシェアも9.2%と過去最高を記録。まさに元気びんびんス!
塩見 微増を続けている程度なので元気とまでいってよいかどうかわかりませんが、堅調ですね。
――堅調な理由は?
塩見 ひとつは300万円台の頑張れば手が届く系の選択肢が増えていて、国産車からの乗り換え組が増えている。クリーンディーゼルやPHV(プラグインハイブリット)といった次世代パワートレーンの選択肢が国産車より多いことも追い風でしょう。
――で、JAIA(日本自動車輸入組合)が発表した昨年のモデル別ランキングでミニが3年連続首位に輝きました。
塩見 まず理由というか事情があって、ミニはひとつの車種ではなく実質的には複数車種の集合だということ。コレは俗にいう"なんでもカローラ大作戦"のミニ版です。
――どういうことスか?
塩見 1994年あたり、トヨタはセダンのカローラのみならずワゴンにカローラワゴン、4ドアクーペにカローラセレス、2ドアクーペにカローラレビン、ハッチバックにカローラFX、カローラⅡと、いろんなモデルにカローラの名前をつけて統計上の販売台数を伸ばしました。
――ミニもカローラ的に?
塩見 そう! 3ドアハッチ、5ドアハッチ、コンバーチブル、ワゴンのクラブマン、SUVのクロスオーバーなどのすべてを「ミニ○○」という車名にすることで、統計上は1車種としてカウントされています。ライバルのメルセデスでいうAクラス、Bクラス、CLAクラス、GLAクラスの4車種をまとめてカウントしているようなもの。
――それで3年連続1位?
塩見 とはいえ、プロダクトが非常に優れているのは大前提です。頑張れば手に届く価格帯に集中してバリエーションを増やしています。また、ミニは指名買いが多く、新車効果にあまり左右されないという特徴を持っています。登場から3年、4年たったモデルも安定して売れる。このブランド力もナンバーワンを維持できる理由でしょう。
――でも、ずっと同じモデルを売り続ければ販売台数は鈍るんじゃないスか?
塩見 そこで定期的にオーナー心をくすぐる限定車を出しています。ミニの客はこだわりが強く、自分仕様の一台を持ちたがります。限定車や豊富なオプションを用意することで、"売れているのにかぶらない"ようにしてる。
――なるほど。ほかにモデル別新車登録台数ランキングで気になることはありますか?
塩見 ここのところドイツ車とボルボしか売れていなかった輸入車ですが、18年は魅力的な新車を得た非ドイツ車勢が徐々に存在感を見せてきた年ですね。ベスト10には入っていませんが、長年放置されて瀕死(ひんし)状態だったところへ2年連続でジュリアとステルヴィオという後輪駆動および4WDの"らしい"新車を得たアルファロメオ、そしてEペイスという"絶対売れる"ミドルクラスSUVを得たジャガーも頑張ってます。
■ブランド別でベンツが最強のワケ
――ブランド別ではメルセデス・ベンツが4年連続で首位です。なぜこんなに強い?
塩見 まずモデル数が極めて充実していることです。
――具体的には?
塩見 メルセデス・ベンツは33車種168モデルもあります。意外に思われることが多いですが、これはどの国産メーカーよりも多い。このため毎年どのモデルかがモデルチェンジの時期を迎え、毎年新車効果を見込むことができる。
――ほかには?
塩見 実は店舗数が216店と輸入ブランドの中では断トツ多い。クルマは店から客へ届ける前に一台一台陸運局へ持ち込み登録する必要などがあるため、いくらモノが優れていてもスタッフが確保できないと多く売れない。つまり、店舗数が多くないとクルマも多く売れません。
――メルセデス・ベンツはユニークなサービスに取り組んでいるらしいじゃないスか?
塩見 そうです。「シェアカー・プラス」といって、メルセデス・ベンツを正規ディーラーで買うと3年間で3回までほかのモデルを試乗(事実上のレンタル)することができる。セダンオーナーが旅行の際にクーペを試したり、スマートオーナーが団体移動のためにVクラスを試したりすることも。
――それは便利ス!
塩見 便利だし、買い替え喚起にもつながりますよね。18年には1800件の利用があったそうです。ちなみに輸入車業界としてメルセデス・ベンツが最初にウェブ注文を始めています。
――クルマをウェブ注文?
塩見 もちろん購入となるとリアル店舗へ引き継がれますが、最初の取っかかりをウェブで気軽に始められるメリットは大きいと思います。18年に9000件の申し込みがあり、7割以上が成約につながったそうです。
――4年連続首位の理由はよくわかりました。最後に今年の輸入車はどんな感じに?
塩見 今年はジャガー、アウディ、メルセデス・ベンツが電気自動車(EV)を手がけます。テスラ一択だった1000万円超のラグジュアリーEVの販売競争が激化するでしょう。
――EV売れそうスか?
塩見 まぁ、価格が桁違いなので、EVは台数こそたかが知れていますが、各ブランドの先進イメージをブーストしますから、従来のパワートレーンを使ったモデルにも好影響を与えるはず。
また、輸入プレミアムブランドを中心にさまざまな購入の形を客に提示し始めています。ボルボの「スマボ」といった税金やメンテナンス費用なども盛り込んで定額支払いとするリースなど、クルマを購入するというより利用に対して支払うような時代への移行が始まると思います。
●塩見サトシ
1972年生まれ、岡山県出身。関西学院大学文学部卒業。1995年に山陽新聞社入社。『ベストカー』編集部を経て、04年に二玄社『NAVI』編集部に入社。09年『NAVI』編集長に就任。11年に独立。執筆媒体多数。ラジオやイベントの司会なども手がける。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。公式Twitter【@Satoshi_Bagnole】