日産が誇る電気自動車「リーフ」をベースに開発された、マジで超カッケー2座席レーシングカーに自動車ジャーナリストの塩見サトシがびんびん試乗。その実力に迫ってきたぜぇ~!
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■リーフベースのレーシングカーの全貌
新車は少なくお家騒動ばかりの日産。近頃は自動車専門誌よりも新聞経済面や経済専門誌に取り上げられる機会のほうが圧倒的に多い。自動車メーカーの広報は、企業そのもののPRや不祥事への対応を担う企業広報と新車PRを担う商品広報とに分かれる。
「企業広報は忙しそうだけど商品広報はそうでもなさそう」とわれわれ自動車ジャーナリスト連中が軽口を叩いていたのが漏れ伝わったのか、商品広報から「次の新車発表(秋に予想される、条件付きで手放し運転可能なスカイラインのマイチェンのこと)までまだしばらく時間がありますが、ここらでひとつレーシングカーに乗りませんか?」との声がかかった。
というわけで6月某日、神奈川県の大磯プリンスホテル(大駐車場)に集合。ポロリがお約束の芸能人の水泳大会は行なわれていなかったが、2台のレーシングカーが待ち受けていた。その正体は「リーフ・ニスモRC02」。市販車のリーフのコンポーネンツを使って開発されたEVレーシングカーだ。
日産のモータースポーツ活動を担うニスモが開発。市販リーフを想起させるスタイリングが採用されているものの、全長4546mm、全幅1942mm、全高1212mmというロー&ワイドな外寸からわかるとおり、骨格はまったくの別物だ。
市販リーフにも採用されるEM57モーターが前後車軸に1個ずつ組み込まれ、4輪を駆動する。各モーターの最高出力は120kWで、システム最高出力は240kW、同最大トルクは640Nmに達する。車両重量は1220kg。
時速100キロ加速は3.4秒だが、これは市販タイヤによるもの。レース用ハイグリップタイヤを装着すればもっと速い。最高速は220キロに制限されている。
ドアを開け、幅広いサイドシルを乗り越えて低く設定されたバケットシートに座る。シートポジションを合わせ、4点式シートベルトをスタッフに締めてもらう。乗り込みにくいが、シートに収まってしまえば車内は狭いわけではない。視界も前後左右とも良好だ。
ステアリングホイールには多数のスイッチと液晶画面があり、ウインカーやワイパーなどを含むほとんどの機能をステアリングスイッチで操作する。
ステアリングスイッチにあるダイヤルセレクターでDを選んでスタート。市販リーフ同様、あっさりスタートできる。遮音材などが省かれているため、市販リーフほど静かではないが、エンジン音がないので、液体燃料で動くどのレーシングカーよりも静か。
実はこのクルマに乗るのは昨冬に続き2度目。ニスモは全部で6台のリーフ・ニスモRC02を製作し、世界各地の日産関連イベントで使われているのだが、このほど2台が日本に帰国したタイミングで再度試乗会が開かれたという。
前回の試乗時と仕様は変わっていないとのこと。ただ前回の記憶ではアクセルのオンオフに連動してギアのバックラッシュ音がけたたましく車内に響き渡っていたが、今回は少しその音量が小さく感じられた。フォーミュラEと同種のEV特有のヒューンという高周波音は相変わらずよく聞こえる。
ハイパワーを発揮するマシンだが、われわれの試乗時にはパワーを絞った状態にしてあるため、ストレートでアクセルを深く踏んでも加速力自体はびっくりするほどではない。
ただし、レスポンスは超絶びんびんレスポンシブ。アクセル操作が即座に挙動となって表れる。市販リーフ同様トランスミッションがないので、変速による加速の途切れが一切ない。これが気持ちEのだ!
低く座ったドライバーの背後に駆動用バッテリーが置かれる構造で、前後オーバーハングには重量物はない。前後重量配分は50:50。レーシングカーとして理想的なレイアウトによってほとんどロールせず、非常に素直なハンドリングを味わうことができる。これも超気持ちE!
リーフのコンポーネンツを使ってこんなに楽しいレーシングカーができるのなら、もっとスポーティな市販EVを出してくれてもいいじゃないか日産さんよ。それがすなわち電動時代のGT-Rということになるのだろうか。となれば車名はズバリET-Rだ。ゴタゴタを早く片づけて、やっちゃえ、日産!
●塩見サトシ
1972年生まれ、岡山県出身。関西学院大学文学部卒業。1995年に山陽新聞社入社。『ベストカー』編集部を経て、04年に二玄社『NAVI』編集部に入社。09年『NAVI』編集長に就任。11年に独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。公式Twitter【@Satoshi_Bagnole】