相次ぐ高齢ドライバーの事故で関心が高まっている自動運転。そこで自動車ジャーナリストの小沢コージが、自動運転技術を開発するベンチャー企業・ZMPの谷口恒(たにぐち・ひさし)社長に最新事情を聞いた。
■空港でレベル4実現を目指す?
──まずロボタクシーの最新事情を分析していただきたいのですが、今年4月、テスラのCEOであるイーロン・マスクが「来年には100万台を超えるロボタクシーが公道を走っている」と発言しました。
谷口 僕は人がやっていることまでわからないし、とやかくは言えませんが、それって本当に無人運転なんですか?
──そうだと思いますが。
谷口 「実際には高速道路限定の話では?」という気がしますが。
──なるほど。ちなみにZMPがアメリカの自動運転バトルに参加することはない?
谷口 考えていません。今はウェイモもGM(ゼネラルモーターズ)もそれぞれ自分たちのホームでレベル4の自動運転を実現しようと一生懸命で、われわれと競争関係にはないです。
──そうなんですか。もっと激アツな世界的競争になってるんだと思っていましたが。
谷口 小沢さん、そこはスゴい勘違いされていますよ。自動運転はまず自分たちのホームエリア内でレベル4を最初に制したものが世界を制するんです。世界適合はその後の話なんですよ。
──同じフィールドで一斉には戦わないと?
谷口 正確には戦えないんです。そんなレベルじゃない。基本的に自動運転は難しすぎて地域を限定しないと実現しません。限定を狭めれば狭めるほど実現性は高まります。
──それはなぜ?
谷口 人間の運転環境は不確定要素が多すぎるんです。予測不能なドライバーや歩行者、環境など、そんなのが1年や2年、たかが100台のテストカーを走らせただけでわかるわけがない。サンプルが少なすぎるんです。
──自動運転は地域限定がマストだと?
谷口 自動運転は人の命を預かるんです。粗削りな技術で人の命は預かれません。だって「完全自動」ということは、地域限定でも運転席に人がいない。無人なんです。さすがにみんなそう簡単には乗らないです。
だから僕らはホームである日本で徹底的に鍛える。逆に東京でできないものがカリフォルニアでできるわけがない。まず集中してホームで成功させないといけない。
──ホームの「民族性」や「習慣」も肌でわかりますからね。そのレベルの情報が必要になる?
谷口 ええ。ただ、人材が足りません。自動運転を新たに開発できる人なんてそうそういません。エース級はどの分野でも10人いればいいほう。もっと言うと数人かもしれない。それを日本仕様やバージョン違いにするのに何百人という開発者がいますが、骨格はごく少数の人間が動かしている。まずは雛型(ひながた)を完成させないとダメなんです。
──さらに自動運転は地域性の塊でもあると。
谷口 ええ。社会そのものがひとつの製品ですから。東京の街で自動運転が成立したらそれが環境、サービスも含めて製品になる。
──ちなみに一般人が完全自動運転を最初に体験できるのはやはりマイカーじゃなくロボタクシーですよね? そもそも自動運転車に必要な高性能カメラやセンサー、チップをフルに載せたら一台何千万円になりますし。
谷口 それは間違いありません。ただ、僕には持論があって、自動運転のフェイズにはまず「地域限定」があるって言いましたが、その次はユーザーを限定をすること。使い手を絞り込む。なんでiPhoneが成功したかって、機能を絞り込んだからです。そうやって結果的にはユーザーを絞り込んだ。
──自動運転もミスの発生確率をなるべく減らしていくために、人を絞り込むと。
谷口 すでにZMPでもやっているんですが、運転するのはプロのタクシードライバー限定。それもZMPのトレーニングを受けたドライバーしか運転しません。
──なるほど。
谷口 でも、それも仕方なくて、現状ウチのクルマのインターフェイスはメンテナンスを含め、誰もが使いやすいインターフェイスになっていません。まずは完成度を高めるためにプロユースから入り、技術が熟成されてきてから一般に入ります。
──地域限定からプロドライバー限定、次はユーザー限定。社長の目には自動運転の進化のステップがリアルに見えているんですね?
谷口 ええ。
──ただ、自動運転というのは報道に振り回されっぱなし。世界は進んでいて、日本は遅れているとか。
谷口 僕はアメリカに見に行ったわけじゃないし、直接調べたわけじゃないですけど、やっぱりウェイモが先行しているとは思います。
──あ、そうスか?
谷口 でも、まず僕はZMPが日本で成功するのが目的ですから、ほかの庭を見ていてもしょうがないし、まったく関心ないんです。他社との競争じゃないので。これは僕の人生観でもあるんですけど競争はしたくないんです。
──正直、それは意外でした。日本でも日産がDeNAと組んだり、SBドライブがハンドルがない自動運転バスで公道実験をしたりしています。
谷口 気にしていません。そもそも競争だと思っていないし、僕は僕の信念を貫くだけです。心は揺らがないです。他社が成功したらそれはそれで社会が良くなるから全然いいんです。
──そんな信条のZMPの進歩具合を教えてください。昨年は大手町─六本木間で世界初の自動運転タクシーのサービス実証をして話題となりました。で、気になるのはその後の分析とか、次の計画です。
谷口 技術的な進捗(しんちょく)状況を言うと、自動運転レベル4のシステムはかなり完成度が上がっています。昨年やった手放しの実験と、レベル4では大きな違いがあるんです。レベル4には、万が一、コンピューターが壊れたときの暴走を防ぐための非常停止ブレーキも自社開発してつけています。
──まったく別系統のブレーキがついていると。
谷口 そのとおりです。独自のフェイルセーフ機能で、昨年の実験車にはついていないし、他社がつけていると耳にしたことはありません。
──昨年からかなり進化していると。
谷口 われわれの自動運転はハードウエアの「ロボビジョン」と、ソフトウエアの「アイザック」がコア技術なんですが、共に進化しました。特にロボビジョンの性能や認識能力は飛躍的に高まり、判断能力が増しています。
──具体的には何ができるように?
谷口 ついに念願の無人運転レベル4が視野に入ってきました。先ほど言った「地域限定」のレベル4ですが、僕はエリアをさらに絞って、空港を狙ったんです。
──なるほど。空港内なら人も少ないだろうし、通行コースも限定できる。どこの空港でいつやったんですか?
谷口 実は昨年末から今年の年始にかけて運輸会社と組んで成田空港と中部空港でレベル4の実証実験をしたんですが、成功を収めています。
──スゴい!
谷口 まだ完全無人の営業走行こそやれていませんが、国交省の試験では20項目以上の検証が行なわれ、ZMPの車両は全項目をクリアしました。
──念願のレベル4の具現化のメドがついてきた? それができたらついに自動運転の世界でトップに立てる!
谷口 まだ世界でも地域限定でレベル4を実現しているところはありません。僕は「東京五輪までに必ずレベル4を実現して、海外からのお客さまを驚かせたい」と言ってきました。なので、まもなく無人カーを走らせます。空港でもショッピングモールでもなんでもいいので実現させます!
──本当に商業として成立するレベル4を実現させる?
谷口 はい。実験ではなく完全に営業としてのレベル4です。これはそのへんをちょろっと走って、マスコミに派手に報道されるデモンストレーションとはワケが違いますから。本当に無人だから失敗するとガーンと行っちゃう。レベル4は本当に腹決めないとダメ。精神的にもシステム的にもレベルがまったく違う。
──それに比べて、最近話題に出てきませんが、レベル3ってなんだったんでしょうか。
谷口 僕は5年前ぐらいからずっと言っていますが、レベル3、つまり部分自動運転なんて現実的にはありえません。人が眠ったとか、失敗したなどを見張るモニタリングコストがそもそもムダだし、結局、ここから先はロボットの責任で、ここから先は人の責任だなんて切り分けられない。クルマと人の協調なんて夢です。
──結局、レベル3はある種の逃げなんですね? レベル4と言い切る度胸がないから、半分は人間のせい、残りは機械のせいにみたいにしてんスかね?
谷口 そのとおり。逃げです。
──その昔、女のコを口説くときに「半分付き合おう!」と言ったことあるんです。もちろん、女のコからは「それどういうこと? 彼氏なの? 彼氏じゃないの? どっち?」と詰め寄られ、うまくいきませんでした......それと同じ感じですかね?
谷口 それそれ(笑)。やはり自動運転を目指すんなら腹を決めて「レベル4やります!」と言い切るしかない。
──楽しみにしています!