古舘茂氏(左)は初代N-BOXの商品開発責任者代行。昨年登場したN-VANの開発責任者でもある。右は自動車ジャーナリストの小沢コージ 古舘茂氏(左)は初代N-BOXの商品開発責任者代行。昨年登場したN-VANの開発責任者でもある。右は自動車ジャーナリストの小沢コージ

2013年にデビューしたホンダの軽ハイト「N‐WGN」が8月9日にフルモデルチェンジした。チマタでは早くも、「人気爆発確定じゃん!?」というウワサでもちきり。そんな新型の魅力を自動車ジャーナリストの小沢コージが、開発責任者であるホンダ・古舘茂(ふるだて・しげる)氏に聞いた。

■初代N-WGNは売れていなかった!

──現行N―BOX、もはや破竹の勢いで快進撃もいいとこじゃないスか! 4年連続で軽年間販売トップをかっさらったと思ったら、上半期はさらに2.9%増で5年連続のトップです。しかも、Nシリーズ全体だと累計230万台を突破しているんですよね?

古舘 おかげさまで。

──この勢いに乗って出たのが今回発表となった新型2代目「N―WGN」です。ズバリ、ホンダはこの新型でニッポン軽自動車市場を総ナメにするんスね?

古舘 いやいやいや(笑)。そんな簡単な話じゃないです。初代N-WGNは販売実績でいうと、N-BOXほどの売れ行きではなく......コレがその内部資料なんですが。

──ホントだ。昨年の販売を見るとかつての軽販売ツートップ、ダイハツ・ムーヴやスズキ・ワゴンRのほうが売れていて、日産デイズやスズキのハスラーにまでN―WGNは抜かれている! 

古舘 実はそうだったんです。

──けど、初代N―WGNのプラットフォームはN―BOXと同じで、クルマのデキは良かった印象がありますが。

古舘 まったくそのとおりで、われわれにも明確な解答があるのかっていうと難しいのですが、分析してみるとやはりN-BOXはほかのスーパーハイト系と比べても違って見えているんじゃないかと。ところが初代N-WGNはライバルとの明確な差別化ができていなかった。

ホンダ・新型N‐WGN。2017年に登場した2代目「N-BOX」、昨年登場した「N-VAN」に続く、ホンダ次世代軽乗用車の第3弾となるのが「N-WGN」 ホンダ・新型N‐WGN。2017年に登場した2代目「N-BOX」、昨年登場した「N-VAN」に続く、ホンダ次世代軽乗用車の第3弾となるのが「N-WGN」

──なるほど。私の愛車は2代目N―BOXですが、ダイハツのタントやスズキのスペーシアにサイズは近くても雰囲気が全然違っている。やっぱりどことなくホンダらしさがあるというか。

古舘 まさにそのとおりで、初代N-WGNは軽ハイトワゴンのど真ん中を狙った"ホームラン軽"というコンセプトで造られ、デザインから装備まで思いきり競合他社を意識していました。

だから出した直後は評判が良かったんですけど、他社がモデルチェンジするたびに埋没してしまった。われわれは「Nシリーズ」というブランドを築こうとしていたのに、気がついたら世の中にはN-BOXブランドができていた。

──わかるような気がします。確かにサザンオールスターズは偉大なバンドなんですけど、実際のところは桑田佳祐とその仲間たちなんですよ!

古舘 NシリーズもN-BOXが強すぎて実態はN-BOXと仲間たち的になってしまった。そこがホンダの反省点で。

──要するに他社を意識しすぎたのが初代N―WGNの失敗だったと。

古舘 そうなんです。お客さまの声を拾うと、街中で見ていると、どれがN-WGNだかわからないと。ところがN-BOXはひと目でN-BOXだとわかるという声が多い。

──実際、街中ですれ違うと「あっ、またN―BOXだ!」と思う。自分の愛車という点を差し引いても、N―BOXには圧倒的な個性がある。

古舘 それからN-BOXは売れ方が違うんです。最初から売れているんですが、そこからさらにまた伸びていく。購入動機をお客さまにお聞きすると、「近所の人が乗ってた」「親戚が乗っていたから」という声が多いんです。

──要するにN―BOXの大ヒットは口コミマーケティングにあると。N―BOXの一番のセールスマンはN―BOXユーザーなワケですね?

古舘 ええ。購入されたお客さまからの「いいね!」がとにかくスゴく多いんです。

──とはいえ、初代N―WGNは広さ、燃費、質感はほぼクラストップでしたよね?

古舘 そうなんですが、デザインの方向が違っていた。N-BOXはどちらかというとタイムレスでシンプルなものを目指したのに対し、N-WGNは時代に合わせた流行のデザインを採用したんです。その結果、埋没してしまったワケです。

■新型N-WGNがゴツ顔じゃないワケ

──今回新型となった2代目N―WGNの狙いは?

古舘 正直、今回はデザインを含めてライバルとの競争はしていません。ハスラーやワゴンRに対して「負けないようにしよう」という発想はそもそもなく、いかにNらしさを突きつめるか。お客さまの言葉に対してどう反応していこうか。それをじっくり考えました。そうじゃないと自然と競合車に寄ってしまうので。

──ノールック作戦?

古舘 ほかをまったく見ないわけじゃありませんが、まずつくり込んだのはデザインです。かわいいだけじゃダメで、「タイムレス」と「シンプル」をキーワードに長く乗れるカタチに磨き上げました。

──まず驚いたのはエクステリアで、イマドキの軽の毒路線と完全に決別しています。これはずいぶん思いきった戦略だなと。

古舘 線をむやみに足すのではなく、時間をかけて造形しました。開発初期のデザインと後期のデザインだとパッと見は大して変わらないんですけど、質感が全然違う。われわれはなじむデザインって言っていますけど、見れば見るほどよく見えてくる造形になっています。

──なかでもワイルドなはずのカスタムの顔に驚きました。丸目のノーマル顔に対して、角目で確かにボクシーなんだけど、いわゆる流行の毒っ気がない!

古舘 時代的に初代N-BOXは威圧感を出していたんですが、いかにも見栄(みえ)張っているようなのはやめようと。今回のN-WGNはシックに仰々しくなく、けれど高級感がある。そういうデザインを狙いました。

──しかし、けっこうな勝負を仕掛けましたね。だって今年出た三菱のeKクロスもそうですが、軽自動車はゴツ顔路線が大爆発していますよ。

古舘 かつてはミニバンのアルファード、ヴェルファイアを頂点にそれをまねるのが軽自動車の世界だったんですが、時代はもう次にシフトしているなと。

ホンダ・新型N‐WGN CUSTOM。デザインは「普段の生活になじむ親しみやすいイメージでまとめました」というだけあり、カスタム系も流行のゴツ顔ではない ホンダ・新型N‐WGN CUSTOM。デザインは「普段の生活になじむ親しみやすいイメージでまとめました」というだけあり、カスタム系も流行のゴツ顔ではない

──なるほど。室内の広さは?

古舘 もちろん新世代プラットフォームでエンジンルームが小さく、車内が広いというのがホンダの基本的アドバンテージですから。ただ、新型はN-BOXより背が低くなり、ドライビングポジションが乗用車ライクになっているので今回、ステアリングにホンダの軽では初となるテレスコピック&チルトステアリング機構を標準装備しました。

それからホンダ車はあまりやらないのですが、比較的柔らかいシートも採用しました。軽ユーザーは女性が多いので。

──走りはどうでしょう。これまた現行N―BOXで新設計されたエンジンで、燃費もパワーも両取りしてると思うんですが、あえて軽以上の質感を目指したと聞いています。

古舘 燃費とパワーはそのとおりですが、乗り心地やハンドリングに関していうとフィットほど走りには振っていません。軽自動車は街乗り中心ですから、乗り心地のよさに比重を振っています。

──この新型N―WGN最大のアドバンテージは先進安全の「Honda SENSING」だと思いますが、今回さらに進化したそうですね?

古舘 新たに電子パーキングブレーキがつき、渋滞時の完全停止が可能となりました。

──それはスゴい! というか、私がN―BOXを買った理由のひとつがHonda SENSINGです。どうにか5万円で最新のHonda SENSINGにアップデートできませんかね?

古舘 もちろん、無理です(笑)。

進化した「Honda SENSING」搭載の新型N-WGNは自転車の飛び出しに対応 進化した「Honda SENSING」搭載の新型N-WGNは自転車の飛び出しに対応

──やっぱし! ちなみに日産デイズに搭載された先進運転支援技術「プロパイロット」は、高速の自動ステアの利きがスゴかった。

古舘 今度確かめようと思ってますが、N-WGNとは値段が違いますからねぇ。

──そう、デイズのプロパイロット付きは156万円以上なのに対して、N―WGNはHonda SENSING標準装備で130万円を切るというウワサですが?

古舘 実はこれでもスズキさん、ダイハツさんと比べると「高い!」と言われていますが、軽の世界でN-BOXはひとつ上にいるのかなと。今回のN-WGNはN-BOXのいるポジションを目指しているので、使うべきところにお金を使っています。

──当然、軽自動車の1位を狙っていますよね?

古舘 取りたいと思っています。ただ、今回のN-WGNはスタートダッシュもそうですが、ジワジワと長く売れてほしいです。

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