今年で「誕生50周年」ということで大改良を受け、2020年型へと進化したGT-R。その最強モデルに自動車ジャーナリストの河口まなぶがドイツで試乗。その進化に迫りまくってきた!
* * *
■アウトバーンで300キロに挑戦!
その圧倒的な速さに「日本人として誇らしい!」と思えたのが、日産GT-R NISMOの2020年モデルだ。
7月にドイツのベルリンで開催された国際試乗会で試したこのモデルは、そう表現できる一台だった。
といっても日産GT-Rが登場したのは2007年のことで、今からもう12年も前の話だ。実は生産中止はけっこう前からウワサされている。だが、次期型が開発されているという声は聞こえてこず、現行モデルだけが進化を続ける。
今回の試乗会はある意味、まだGT-Rが超一流であることを証明するために行なわれたともいえる。
では、なぜ今回ベルリンで試乗会が開催されたか。当然、ドイツにはアウトバーンという、場所によっては速度無制限区間が存在する世界屈指の超高速走行が可能となる道があるからだろう。
実際、試乗はベルリンの街中から始まって、郊外にあるサーキットまでを約1時間半走るルートが設定された。日産は何も言わないが、ここで時速300キロを試せということか。
そうして渡された日産GT-R NISMOの2020年モデルは、実はエンジンの最高出力600ps、最大トルク652Nmと数字はそれまでと変わらないものの、細かなところまで徹底して手が入れられたという。
クルマを受け取って街中を走り始めると、GT-Rで最もハードなモデルにもかかわらず、想像以上に乗り心地がよく、しっとりした感触すらあることに驚いた。もちろん路面の継ぎ目やマンホールのフタを通過するだけで内臓まで揺すられるほどのハードさだが、サスペンションの動き自体にはストローク感があり、動きもスムーズだ。
そうして街中を抜けて郊外へ。ベルリンから離れるほどに、アウトバーンを走るクルマは少なくなってくる。ペアを組んだ同業者と「これはいけるね」と確認して、アクセルを全開にする。
エンジンは数値に変化はないが、ターボ関係のパーツを変更したとのことで、アクセル操作に対しての反応はさらに優れたものとなり、気持ちよくエンジンは高回転へと吹け上がる。
そして車体は速度が上がるにつれて、路面に吸着するかのように押しつけられていくわけだが、これもカーボン製となったフロントフェンダーに開けられたエアアウトレットやその他空力性能も見直された恩恵だろう。
そしてGT-R NISMOはアッという間に時速250キロに達したが、同業者と僕が車内でバカ話ができるほど、極めて高い安定性と安心感を与えてくれていた。
アウトバーンでは追い越し車線をダラダラ走るクルマは皆無で、仮に追い越し車線をかなりのスピードで走っていても自分より速いクルマが後ろから来たら即座に譲る。そういうルールが徹底されているので、ドライバーはとても走りやすくて安全だ。
しかしながら、あくまでも公道なので、時速300キロを出すには徹底した注意と判断力が求められる。なぜなら追い越し車線を走る他車が200キロを出していても、それよりさらに100キロ速いスピードで走ることになるからだ。
300キロに挑む場合、前方を見たときにほとんどクルマが存在しておらず、見通し自体も良くなければならない。そして200キロ以上で巡航していても、チャンスが訪れてアクセルを全開にしてから、300キロに到達するまで約30秒は時間が必要になるのだ。実はそうした状況が整う瞬間はなかなかない。
が、今回は本当にラッキーで、そうした瞬間をとらえることができた。目の前がオールクリアとなって「よし!」と心決めてアクセルを床まで踏み込む。
250、260、270、280、290、300......とついにメーターは300の数字を表示。まだいける、と思い踏みつける。「305、307、309、310」と同業者が隣でメーターを読んでくれたところで、はるかかなたにバスを発見し、アクセルを閉じる。
300キロ超の速度域でアクセルを急に閉じると、クルマによっては姿勢が急激に不安定になるが、GT-R NISMOは微動だにしない安定性を見せてくれたし、時速300キロ領域でも安心感があった。
そんな日産GT-R NISMOの2020年モデルだが、価格は2420万円と高価だ。しかし、すでに今年度分の生産枠は埋まっているというウワサも。スゴッ!
●河口まなぶ
1970年生まれ、茨城県出身。日本大学藝術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌(モーターマガジン社)アルバイトを経て自動車ジャーナリストに。毎週金曜22時からYouTube LIVEにて司会を務める『LOVECARS!TV!』がオンエア中。02年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員