9月に発売された新型スカイラインは、日産のCMでもおなじみのハンズオフ機能を搭載。8月下旬に河口湖で行なわれた試乗会で自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が手放し運転を初体験。その結果は、マジハンパなかった!
■右足の置き場所に困った手放し運転
――新型スカイラインが話題です。受注台数が早くも目標の8倍とか?
竹花 7月19日の受注開始から約1ヵ月がたった8月25日の時点で1560台も受注。日産の販売計画では月販200台の約8倍で、昨年度の年間販売台数の75%に相当するから、好調なスタートを切ったと言っていいだろうね。
――どのタイプが人気?
竹花 新型スカイラインには、従来モデルと同様のハイブリッドと、304PSを発揮する新設定の3LV6ツインターボを搭載したV6ターボ、そして3LV6ツインターボを最高出力405PS、最大トルク475Nmにパワーアップした400Rという3タイプが用意されているんだけど、現時点では受注全体の48%がハイブリッドで、V6ターボは27%、400Rは24%と、約半分がハイブリッドになっている。
――クルマ好きとしては400Rが気になりますね!
竹花 400Rは価格が552万3120円と決して安くはないけど、やはり注目の的のようで、20、30代の若い層からの受注が多いらしい。
――それはスゴい! で、新型スカイラインの注目ポイントは?
竹花 日産はあくまでも"新型"って言ってるけど、実際はビッグマイナーチェンジ。デザイン的には、新デザインのフロントグリルや、これまで海外仕様のインフィニティQ50と同じだったフロントエンブレムが、新型から日産マークに戻ったり、伝統の丸型テールランプが復活したくらい。だけど、テクノロジーの点では大注目の一台なんだ!
――例のアレですね!
竹花 そう、ハイブリッド版に搭載された、世界初のハンズオフを実現した「プロパイロット2.0」。
これまでもインテリジェントクルーズコントロールとステアリング支援を組み合わせたプロパイロットはセレナとエクストレイル、そしてリーフに設定されていたけど、今回登場した「2.0」は、これまでのようにステアリングを走行中に保持し続ける必要がない「ハンズオフ」、つまり「手放し」が可能になったんだ!
――完全自動運転ってこと!?
竹花 いや、残念ながらプロパイロット2.0は、まだ自動運転とは言えない。自動運転のレベルとしては、これまでと同じ「レベル2」で、運転補助技術の範疇(はんちゅう)。一定の条件下で運転の主導権を完全に受け渡すレベル3にも達していない。だから日産も自動運転とは呼んでいないんだよね。
――なるほど。では、ハンズオフはどんな場所で使える?
竹花 ステアリングから手を離すことができるのは、基本的に高速道路上で制限速度内で走行している場合に限る。しかも「3D高精度地図データ」がカバーしているエリアだけ。9月中には全国で2万9200kmの区間がカバーされる予定になっている。
――そのエリアであれば、いつでもハンズオフが可能?
竹花 残念ながらそうもいかないんだ。「3D高精度地図データ」のカバーエリア内でも、中央分離帯がない対面通行の区間とか急カーブ、分岐や合流が多い区間、料金所の前後、トンネル内、工事区間、あと3D高精度地図データと実際の白線が異なっている場所などでは、音と表示で「ハンズオン」が促されて、ドライバーがステアリングを操作する必要がある。
――けっこう多いですね(笑)。これまでとあまり変わらないように聞こえますが。
竹花 いやいや、そんなことはないよ! プロパイロット2.0は、「3D高精度地図データ」とカメラやレーダー、ソナー、GPSによる「360度センシング」、そして周辺の交通状況も表示する「インテリジェントインターフェイス」という3つのキーテクノロジーを統合することで、かつてない高度な運転支援を実現している。
ココが従来のプロパイロットとの最大の違い。目的地をナビに設定すれば、ルートガイドに沿って分岐や出口に連れていってくれるし、遅いクルマがいるときには車線変更も自動的にやってくれる。長距離移動は間違いなく楽になる。
――ちなみにハンズオフといえば、BMWも8月に日本に導入しましたよね?
竹花 うん、でもBMWの「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能」は、渋滞時、具体的には車速が60キロ以下のときに限るから、制限速度内で作動するプロパイロット2.0より機能が大きく限定されているので、いつでも使えるワケじゃない。
――ただ、自動車線変更はメルセデス・ベンツやBMWなどが数年前から実現している技術ですよね?
竹花 そうだね。でも遅いクルマがいるときに車線変更を促してくれるわけじゃないし、分岐や出口に導いてくれることもないので、プロパイロット2.0の先進性は群を抜いていると言える。
――しかし、なんでスカイラインに初採用されたんスか?
竹花 それはスカイラインだけが、ステアリングの動きを電気信号に置き換えてタイヤを操舵する「DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)」を搭載しているから。ドライバーの操作なしにステアリングを操作するプロパイロット2.0には、この技術が欠かせなかったんだよ。
――スカイラインにはすでにベースとなる技術が搭載されていたと。
竹花 そういうこと。
――で、実際に乗ってみてどうでした?
竹花 とてもよくできてたよ。高速道路に乗ってしまえば、すぐにハンズオフが可能になって、車線の中央を維持し続けてくれるし、分岐や出口の案内もスムーズ。今回は道がすいていたので自動追い越しは経験できなかったけど、長距離移動は絶対に楽だろうね。
――気になった点はありましたか?
竹花 ステアリングから手を離しているんだけど、インテリジェントインターフェイスの様子などを見ていると、ダッシュボード上にあるドライバー監視カメラが脇見運転していると判断して、すぐに「前を向いてください」と注意されてしまう。
まあ、レベル2だから仕方ないんだけど、まったく運転操作をしないのに、前を見続ける必要があるのは、ちょっと違和感があるよね。レベル3へ進化すればこの機能はなくなるはず。あと右足の置き場所に困った。
――どういうことスか?
竹花 左足用のフットレストはあるけど、右足用はないでしょ? アクセルもブレーキも操作しないときのために、右足用フットレストが欲しい。
――確かにそうですね。で、クルマ自体の乗り味は?
竹花 正直言ってちょっと古さを感じた。ハンドリングはスポーティで、ステアリングフィールもスッキリしているんだけど、特に乗り心地がゴツゴツしていて上質感に欠ける。登場から20年近くたつFMプラットフォームを使っているから仕方ないんだけど、せっかくの最新テクノロジーがもったいない。
――今後プロパイロット2.0はどう進化しますかね?
竹花 ハンズオフが可能なエリアを一般道まで広げるのは、レベル2では難しい。だからレベル3が解禁になるまでは、大きな飛躍は期待できないかもね。でも、日産を含む国内の自動車大手やサプライヤーは、将来を見越した技術をどんどん開発している。だから国や保険業界などを含む調整がどう進むかにかかっている。
――だとすると、当分の間は大きな変化はない?
竹花 そうとも言い切れない。今回のプロパイロット2.0をきっかけに、画期的なアイデアやニーズが出てくる可能性は十分にある。レベル2の中でもまだ進化するはず。
■テクノロジーでぶっちぎり!
――ところで、スカイラインって世界市場ではぶっちゃけ、どんな状況なんスか?
竹花 インフィニティQ50として販売されているんだけど、メイン市場は北米と中国だね。ヨーロッパでも売っているけど、実はインフィニティ・ブランド自体の存在感がなくて、排ガス規制への対応コストを理由に来年に撤退する予定なんだ。
――残念です。
竹花 デザインの評価は高いんだけどね。英国サンダーランド工場でコンパクトカーを造っていたので、撤退はブレグジットの影響も大きい。
――あと、気になったのは従来モデルはダイムラー製のエンジンを積んでいましたよね? アレは消えちゃった?
竹花 日産の開発陣は、日本市場とスカイラインらしさを考えて4気筒モデルを落としたと言っていたけど、オーラ・ケレニウス氏のダイムラー新CEO就任以降に協力関係が変化し始めているのかもしれないね。
――今回の新型でスカイラインは完全復活と呼んでいい?
竹花 開発をまとめた日産の伊藤博文さんも言ってたけど、現時点で他メーカーはすぐに追いつけない技術が盛り込まれている。テクノロジーの点では、まさに"ぶっちぎり"。ライバルを完全に出し抜いたね!
●竹花寿実(たけはな・としみ)
1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌や自動車情報サイトのスタッフを経てドイツへ渡る。昨年まで8年間、ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍