9月17日にフルモデルチェンジしたカローラ。その大変身がチマタの話題を集めている。ということで、自動車ジャーナリストの小沢コージが、トヨタ自動車MS製品企画ZEチーフエンジニア・上田泰史(うえだ・やすし)氏にその理由を聞いてきた!
■3ナンバーになっても使い勝手は変わらない!?
――のっけからスイマセン。実は昨年6月にハッチバックのカローラ スポーツが出たとき、私は「カローラは日本を捨てたのか?」と思ったんです。サイズは3ナンバーになっちゃったし、価格も200万円を超えてしまったので。
上田 全然捨ててません。
――ちなみにカローラ スポーツの開発リーダーを取材したとき、「カローラシリーズは国内販売で1位を狙う!」と宣言していました。しかし現状は旧型のセダンとワゴンに新型スポーツを合わせても国内販売は8位前後です。セダンの新型カローラ、そしてワゴンのツーリングの開発トップである上田さんの狙いは?
上田 おっしゃるようにカローラは前の前の世代からグローバルモデルと日本モデルを分けています。日本専用のカローラは5ナンバー枠にこだわって造ってきましたが、今回からグローバルプラットフォームの「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を使い、全グレード3ナンバーになりました。しかし、日本の道路環境や使い勝手にはとことんこだわって開発しています。
――見た目的にはグローバルモデルと同じに見えますが。
上田 よく見てください。セダンもワゴンもボンネット以外は全部海外モデルと違いますから。例えば中国仕様はホイールベース2700mmのところを日本仕様は2640mm。つまり60mm短くなっている。全幅も中国仕様が1780mmのところを1745mmと35mm狭くなっている。
――ホントだ。けど、その違いがえらくわかりづらい。
上田 まさにそのとおりで造った僕らも、並べると「どっちがどっちだっけ?」と思うくらいで(笑)。室内の空間を同じにしたまま、外側をいかに小さく扱いやすくしたかが今回のポイントなんです。
――その結果、顔が全部で4種類。ボディタイプは5種類も用意されたワケですか。
上田 そうなんです。グローバルで言うと確かにワンプラットフォームでひとつの価値を提供しているんですが、顔は大きく分けて日本のスポーティ顔がふたつあり、アジアのプレステージ顔がひとつあり、アメリカにもう少しダイナミックなデザインの顔がひとつあります。
ボディタイプもセダンは日本専用とグローバルモデルがふたつあり、ワゴンは日本専用と欧州モデルがふたつあり、さらにハッチバックがひとつあります。
――グローバルでありつつ、日本も捨ててないことを証明するためにものスゴい手間がかかっていると。もしやイチから別々に造るより大変?
上田 そうかもしれません。例えば今回は日本専用ボディのドアミラーの位置を、グローバルモデルに比べて上に16mm持ち上げ、内側に17mm近づけています。結果、ミラーを格納したときの横幅は旧型と比べて1cmしか大きくなっていませんから。
――まさに涙ぐましい努力です。要するに見た目は3ナンバーになって大きくなったけど、使い勝手は変わらんと。
上田 ドアを開けたときの開口部もグローバルモデルに比べて腰の位置のドアトリムを16mm薄くした。乗客がなるべく少しのドアの隙間で出入りできるようにし、リアコンビランプも日本専用です。
――その一方で販売価格はやはり高くなりました。
上田 普段使いのカローラということを考え、今回はラインナップに1.8Lのノンターボも追加しました。
――それがセダンの一番安いモデルで193万円台です。確かに大台200万円は切りましたが、お高くないスか?
上田 おっしゃるとおりですが、お客さまには認められると思っています。何しろ現状カローラのお客さまはワゴンは60代、セダンは70代がユーザーの平均年齢なので。
――ヤバッ! 完璧におじいちゃんカーっていうか、人生を締めくくるクルマになってるじゃないスか!
上田 より若いワゴンですら60代というのはわれわれにとっても非常に驚きでした。で、国内におけるカローラブランドの意味や将来を今回しっかり考え直しました。
――このまま国内でカローラブランドを続けても先がないし、だからといってトヨタのおじいちゃんブランド=カローラに甘んじていちゃいかんと。そういう話ですか。
上田 そうです。カローラはこれまで50年以上続いてきた、トヨタにとって非常に大事なブランドです。だからココでカローラをやめるのではなく、カローラブランドをどんどん成長させようと。グローバルと同時に日本でもさらに光り輝かせようと。
――とはいえですよ、現代の国民車として新型カローラを冷静に見るとどうなんスか。ホンダのN-BOXが月に2万台売れ、日産ノートe-POWERという電動色の強いハイブリッドがたくさん売れている。今、カローラはどうあるべきなのか。カローラは33年連続で国内乗用車登録1位に輝いたクルマですし。
上田 国民車であり大衆車って話でいくと当然台数の話が出てくるし、われわれにもこだわりはありますが、実は大衆車という言葉に縛られたくないかなと。何よりカローラの原点は、初代モデルにある。
当時はプラス100ccの余裕ですとか、お客さまが大衆車と定義するところを少し超える価値を提供してきました。極端に大きいジャンプじゃないけど、期待を超えるワクワクやドキドキを盛り込んできたクルマがカローラなのです。
――なるほど。販売台数という記録以上に、記憶に残るスゴいクルマだったと。
上田 大衆車だから割り切ろう、国民車だから割り切ろうではなく、"プラスα(アルフア)"が大切なのです。ですから、新型は本来あるべき正しいカローラの位置に戻ったんです。
■「VWのゴルフとガチンコ勝負をしたい」
――では、その原点回帰の結果、今回のカローラが目指したものとはなんですか。
上田 僕らは時代進化に伴い、現時点で最高のコンパクトカー用プラットフォームを使うと同時に、走りやデザイン的な良さとか安全装備の面で今持てるすべてを投入してきました。そういう意味で言うなら最強のカローラです。
――歴代最強のカローラ! それを聞いてやっとしっくりきました。どうにもカローラって「安くて燃費いい」とか、「いまいちカッコよくないけど壊れず使いやすい」みたいなイメージでしたけど、実はそっちが間違っていたってことですよね? そもそもカローラはライバルより一歩上を行く最強の上質カーだったと。
上田 そうです。「大衆車」と言われると、逆に安っぽく聞こえ、ちょっと違うかなと。
――具体的なライバルは?
上田 改めてこのCセグメントで言うならば、VW(フォルクスワーゲン)のゴルフとガチンコ勝負をしたいと思っています。彼らは欧州で強いですし、良いクルマであることは僕らも十分知ってるので、そのゴルフに勝つんだという思いで造ってきました。
――ついに言っちゃった。具体的にどこが勝ってますか。
上田 ハンドリングや乗り心地ですが、ドライバーが意図したとおり、操作したとおり素直にクルマが動いてくれる部分では負けていない。好き嫌いはあるので、ズバ抜けて勝っているとは思いませんがソコは自負しています。
――ハイブリッドも目玉?
上田 やはりハイブリッドはトヨタの強みですし、地域によって多少載せる載せられないはありますが、あれほどパワーと実燃費を両立できるものは現時点ではないかなと。
――なるほど。それと私はずいぶん前から言ってますが、トヨタがカローラ スポーツから取り入れたコネクティッドの性能ですが、これもキモだと思う。今後、クルマが"走るスマホ"になるためには絶対に必要な機能です。
上田 そうだと思います。ウチの子供もそうですけど、一日中スマホを見ている(笑)。そんなヘビーユーザーがクルマに乗ってもシームレスで危なげなく、運転に集中しながらもしっかりとスマホとつながり続ける。それがわれわれの狙いのひとつですから。
――新型カローラはLINEとトヨタが共同開発したLINEカーナビが使えます。かなりスマホ的に使えてコイツは画期的だと思います。
上田 どうしても新型カローラから投入したかったんです。時代時代で違いはあると思いますが、お客さまの期待を上回る性能をカローラという名前に盛り込みたいなと。
――カローラは常に大衆の夢ってことですかね。
上田 そうありたいです。