メルセデス・ベンツ EQC 400 4MATIC(4WD) 価格:1080万円

7月に発表されて男たちの注目を集めているのが、メルセデス・ベンツ初の量産型電気自動車だ。今回、自動車ジャーナリストの竹花寿実が都内で試乗、その実力に迫ってきた!

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■メルセデス初となるEVの実力は!?

3年前の2016年9月、ダイムラーAGのディーター・ツェッチェCEO(当時)は、パリ・モーターショーで「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」という、将来のモビリティを考える上で重要なキーワードを発表した。

このときすでにヨーロッパの自動車業界では、カーシェアリングや自動運転、ITを駆使した次世代モビリティサービスなどが話題の中心となっていたので、「CASE」自体はコンセプトとしてとてもわかりやすいものだったが、「エレクトリック」だけは現実味が薄かった。

チェックポイント1 インパネはメルセデスそのもの。パドルシフトでは回生ブレーキの利きを調整できる

もちろん日産リーフやBMW i3などはすでに販売されており、ダイムラーもスマートにはED(エレクトリックドライブ)というEV(電気自動車)も用意されていたが、まだまだ航続距離や充電インフラの問題が大きく、ヨーロッパの自動車ユーザーにとってEVは、「企業や自治体が試験的に導入するもの」という認識だった。

だが自動車メーカーには危機感があった。特にプレミアムブランドであるメルセデス・ベンツにとっては、大西洋の向こう側でプレミアムカーのシェアを食い荒らす新興EVメーカー「テスラ」の急成長は、無視できない状況になりつつあった。

チェックポイント2 駆動用電気モーターは、前後に各1基の計2基で、合計で408PSと765Nmを発揮する

さらに現在は130g/kmのEUにおけるCO2排出量規制が、2021年には95g/kmに一気に強化されるが、2016年当時のダイムラーのCO2排出量は1台当たり124.7g/kmと、他メーカーに対して後れを取っていた。CO2排出量がゼロのEVの市販化は、彼らにとってもはや待ったなしの状況だったのである。

そこでダイムラーは、メルセデス・ベンツの電気自動車を広く認知させるべく、サブブランド「EQ」を立ち上げ、「CASE」のコンセプトとともに市販前提のコンセプトカー「ジェネレーションEQ」を発表したのだ。

このコンセプトカーはその後、昨年9月にメルセデス・ベンツ初の市販EVとなるEQCとして正式発表。日本市場ではこの7月に導入がアナウンスされた。

EQCは、ミドルサイズのSUVである。プラットフォームはGLCにも採用されている「MRA(メルセデス・リアホイール・ドライブ・アーキテクチャー)」と呼ばれる後輪駆動モデル用プラットフォームを採用しているが、全体の85%は新設計だという。

EQCが基本設計をGLCと共用した理由は、GLCやGLCクーペなどと同じ独ブレーメン工場の生産ラインで生産できること。そしてボディタイプがSUVとなったのは、SUVが現在世界で最も幅広く受け入れられているからだそうだ。SUVであればフロア下に巨大なバッテリーも搭載しやすく、実用性を犠牲にせずに済む。

チェックポイント3 EVなのでリアにマフラーはない。ラゲッジスペースは通常時で約500リットルを確保

かくして登場したEQCは、プロポーションこそGLCに似ているが、コンセプトカーのデザインの多くを継承した、個性的なルックスを纏(まと)っている。とはいえ、知らない人にはパッと見てEVとわかるような特徴は少なく、なんだかツルッとしたデザインのSUVといった印象だろう。 

インパネ周辺も専用デザインだが、エアコンルーバーなど一部にEVであることを感じさせる特徴的な意匠が盛り込まれているが、横長の大型ディスプレイやさまざまなスイッチ類が備わったステアリングホイールなどは、ほかのメルセデス・ベンツと変わらない。EVだからといって特別扱いは特にないのだ。

その印象は走りだしても変わらない。EQCは、前後アクスルに合計で300kW(408PS)と765Nmを発揮する電気モーターを搭載した4WDなのだが、発進直後から猛烈な加速に内臓がよじれるようなことはない。もちろんアクセルペダルを深く踏み込めば、時速100キロ到達は5.1秒というスペックにたがわぬ加速を味わえるが、基本的に加減速はジェントルだ。

チェックポイント4 交流普通充電と直流急速充電(CHAdeMO規格)の2種類の充電口が備わる

ハンドリングもSUVらしく過度な過敏さがない自然なフィーリングながら、狙った走行ラインを正確にトレースでき、とても安心感が高い。乗り心地もとてもフラットで、毛足の長い絨毯(じゅうたん)の上を走っているような感覚。低重心のためローリングやピッチングも少なく、もちろんEVだけに静粛性も文句なく高い。すこぶる快適なのである。

つまり、EQCは新世代のEVでありながら、ドライバーやパッセンジャーに、EVであることを「感じさせない」クルマに仕上がっているのだ。

これはミヒャエル・ケルツ氏が率いた開発チームも目指したところで、旧来のメルセデスユーザーには受け入れられやすいかもしれないが、新しい物好きの層には物足りなく感じられるかもしれない。プロダクトの出来栄えは申し分ないが、メルセデス初のEVとしてのインパクトはやや弱いと感じてしまうのも正直なところだ。

果たしてこの戦略が吉と出るのだろうか。日本のみならず、海外の反応も含めて今後の動向が気になるところだ!

EQCは全長4761mmのミッドサイズSUV。80kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、航続距離はWLTPで400kmを実現

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌や自動車情報サイトのスタッフを経てドイツへ渡る。昨年まで8年間、ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍