10月24日に発売開始となり、注目を集めているマツダの新型SUV「CX-30」に、気鋭のジャーナリスト・塩見 智(しおみ・さとし)がガッツリ試乗。ガソリン車とディーゼル車の出来栄えを含め、ありとあらゆる角度から徹底検証した!
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■見た目の追求がハンパない!
CX-30はマツダ3の背が高い版、いわゆるクロスオーバーだ。マツダ3は恐ろしいほどにスタイリングを優先した結果、ハッチバックとしては異例のカッコよさを手に入れたが、代償として車内の広さを潔く諦めた。
最低限の空間は確保されているものの、ライバルのVW(フォルクスワーゲン)ゴルフやトヨタカローラスポーツに比べると明確に後席や荷室が狭い。
ゴルフやカローラが実用性を追い求めつつカッコよさもできるだけ盛り込もうとしたのに対し、広島の伊達(だて)メーカー、マツダは背の低いのと高いのと2種類造ってお客さんに選んでもらうことにしたというわけだ。
とはいえ、写真を見ればわかるとおり背の高いほうのCX-30も決してカッコ悪いわけではない。五角形グリルの周りにクロームのシグネチャーウイングがあしらわれ、切れ長のヘッドランプへとつながっていく、いつものマツダの"世界観"だ。
ボディの下のほうとフェンダー周りを黒い樹脂で覆うことでボディの天地の厚みを目立たないようにしている。鼻を高く見せるノーズシャドウみたいなものか。ボディサイドには光の映り込みまで計算したうねりを持たせ、"見た目"への追求がハンパない。
エンジンはマツダ3同様、1.8リットルディーゼルターボエンジンと2リットルガソリンエンジンが設定される。ディーゼルのほうは4気筒としてはかなりスムーズに吹け上がり、ノイズも小さい。ディーゼルということを意識しないで乗ることができる。
助手席、後席の住人はディーゼルと気づかないのではないか。その代わりトルクもりもりというわけでもない。力強さを求めて選ぶと肩透かしを食らうかも。
ガソリンエンジンははっきり言ってとらえどころがなくフツー。ただしガソリンを選ぶとMTを選択できる。シフトレバーをコキコキと操って走らせればエンジンはどうあれ楽しいもの。MTを選ぶためにガソリンにしたというならそれもあり。
マツダはスタイリングにもこだわるが、同じくらいドライバーの運転環境にも大いにこだわる。シートは背骨がS字を描く姿勢を保つ設計となっていて、歩いているときのように体が自然にバランスを取ることで運転中の頭部の移動量を減らしているという。
また、快適性と安全性を重んじて両足を自然に伸ばしたときの姿勢を保つことができるペダルレイアウトに。地味な取り組みだが効果的で、CX-30は実に運転しやすい。ステアリング、シート、ペダル、それにメーター位置などが、あつらえた洋服のように実にしっくりくる。
ボディもただ単に剛性を高めたという感じではなく、しなやかな印象。聞けば路面からの入力の吸収をダンパーだけに担わせるのではなく、ボディやタイヤなどあらゆるパーツに分担させているそうだ。
リアサスにはトーションビームという簡素なタイプが用いられ、何度か悪条件がそろってガツンと低級な突き上げを食らうこともあったが、おおむね良好な乗り心地だ。
最近のマツダは、「カッコいい」「速い」「安い」といったことよりもその先、あるいは奥にある"そこはかとない良さ"を追求している。そうやって近道せず、じわじわとロイヤリティ(次もマツダを買おうという忠誠心)を高めていこうとしているのだろう。
そして実はCX-30(とマツダ3)にはまだもうひとつ話題が残っている。世界中のメーカーが研究を続けながらまだどこも実用化に至っていない技術を用いたエンジン、スカイアクティブXを採用し程なく発売するのだ。
この技術は、ガソリンエンジンを用いながら、軽油を用いるディーゼルエンジンのように混合気を圧縮によって自着火させ、高い効率を得ようというもの。正確には混合気にスパークプラグで火花を飛ばして最初に小さく爆発を起こし、それによって燃焼室内の圧力を高め、同時多発的に自着火を起こす。
ディーゼルエンジンのように低回転域から大きなトルクを得られ、それでいてガソリンエンジンのように高回転域まで伸びやかに回ることを目的としている。そこにマイルドハイブリッドシステムをくっつけてさらに効率を上げ、パワーも燃費も獲得する......という触れ込みだ。
まだ製品化されたスカイアクティブXエンジンが搭載されたCX-30に乗っていないのでなんとも言えないが、触れ込みどおりなら大変なこと。夢の内燃機関を実現したマツダの評価は爆上げになること必至だ。反対に大したことなかったら......試す前から悲観的になるのはよそう。
スカイアクティブXを搭載したCX-30の価格は明らかになっていて、ガソリンエンジン搭載車よりも約70万円高く、ディーゼルエンジン搭載車よりも約40万円高い。これだけ高いと期待値も上がる。実力がわかり次第リポートしたい!
●塩見 智(しおみ・さとし)
1972年生まれ、岡山県出身。関西学院大学文学部卒業。1995年に山陽新聞社入社。『ベストカー』編集部を経て、04年に二玄社『NAVI』編集部に入社。09年『NAVI』編集長に就任。11年に独立。執筆媒体多数。ラジオやイベントの司会なども手がける。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。公式Twitter【@Satoshi_Bagnole】