今年で38回目を迎えた「東京オートサロン」(2020年1月10~12日/幕張メッセ)。438社が参加、出展されたド派手な800台のなかから、最高に刺激的な5台を、自動車ジャーナリストの塩見 智(しおみ・さとし)が独断と偏見で勝手に選んでみた!
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■男がしびれる改造車はどれだ!?
初日、朝9時半からのトヨタGR(ガズーレーシング)の記者発表には黒山の人だかり。友山茂樹トヨタ副社長の長いスピーチに聴衆がやや飽き始めた頃、一台のクルマが披露された。
ベールがはぎ取られて出現したのはヤリス。だがただのヤリスではなくフロントマスクには四角く大きなラジエターグリルが開いている。しかも3ドア。これはトヨタがWRC(世界ラリー選手権)に投入するマシンのベース車両として開発したGRヤリスだ。
1.6リットル直3ターボの小さなエンジンから最高出力272PS、最大トルク370Nmのハイパワーが生み出され、専用の4WDシステムで駆動する。張り出したリアフェンダーは場内のどのキャンギャルよりもグラマラス。
WRCに投入する車両は、一定以上の台数を販売するモデルがベースでなければならない。つまりWRCで勝つには、よい素性のベース車が必要。トヨタはヤリスはヤリスでも中身はほぼ別モノのGRヤリスを開発した。
ハイパワー&4WDであるだけでなく、ボディの随所にアルミやカーボンのパーツを用いて軽量化した結果、価格は普通のヤリスが2台買える396万円スタートだが、予約は殺到しているという。
トヨタのド派手な発表で開幕した「東京オートサロン」。今年も場内を歩き回り、独断と偏見で気になるクルマ5台を選んだ。トヨタの本気に敬意を表して1位はGRヤリスとした。
毎年取材するオートサロンだが、今年、変化を感じた。カスタマイズがおとなしいのだ。数年前にはサモトラケのニケみたいな羽根を生やしたミニバンやVIPカーが跋扈(ばっこ)していたが、今年は度が過ぎるモデルが少なく、全体に抑制が利いていた。
理由はいくつか考えられる。まずカスタマイズには景気と同じように波があり、デコラティブ期とスムージング(クルマの凹凸をなくす手法)期がある。ここのところ続いていたデコラティブ期が下降曲線に入ったのかも。
単なる波ではなく、根本的な理由も考えられる。それは高齢化。東京エキサイティングカーショーの名で1983年に始まった東京オートサロンも、今や38年の歴史をもつ。"ノーマルじゃ飽き足らない"というのはエネルギーのほとばしりだ。だがカスタマイズするほうも楽しむほうも年を取り、業界のリビドーが落ち着いてきた可能性も。
自動車メーカーがもはやカスタマイズの余地なしといった派手な商品を出し始めたのも大きい。例えばタイヤ&ホイールの大径化はカスタマイズの第一歩であり、業者の飯の種だったが、最近では20インチのタイヤを標準装着したクルマがゴロゴロしている。エアロパーツもしかり。
それを受けてカスタマイズ業界は新たな鉱脈を見つけた。それはスズキ・ジムニーのカスタマイズだ。安価なジムニーなら、カスタマイズする側も楽しむ側も気軽に取り組むことができる。今年はどこもかしこもジムニーのカスタマイズカーを出展していた。
数あるジムニーのカスタマイズのなかで、最もグッドセンスだったのは、ジムニーカスタムの老舗APIO(アピオ)と、自社パーツが映画『ワイルド・スピード』の劇中車に使われて有名になったDAMD(ダムド)が組んで開発した「ドロンコ」と「ザ・ルーツ」だ。
フォード・ブロンコを模したカスタマイズだからドロンコ! ザ・ルーツはその名のとおり初期型ジムニーの顔を復元したカスタマイズだ。いずれも40mmリフトアップ、鉄チン風アルミホイールが装着されるなど、やりすぎていないのが今風。このコラボに2位を進呈!
3位はアジア初公開となった新型シボレー・コルベット。1953年に登場したコルベットは一貫してフロントエンジン、リアドライブのレイアウトを採用し、それが欧州スーパーカーとの差別化となってきたが、新型はパフォーマンスを優先させ、ついにミッドシップとなった。
フェラーリ風になったのは否めないが、依然としてカッコいいので許す。内向きなトランプ大統領に内緒で(!?)右ハンドルを用意し、国際化を果たした点もマルだ。デリバリーは21年春。価格は1180万円からだ。
4位はスバル「レヴォーグプロトタイプSTIスポーツ」。昨秋の東京モーターショーで新型レヴォーグの姿は明らかになったが、オートサロンではトップグレードのSTIスポーツが発表された。プロトタイプとついているが、今年のどこかでこの姿のまま発売される。
渋滞時のハンズオフを可能とする新世代アイサイトや、1.8リットルターボの新型エンジンなど、話題満載。インプレッサもフォレスターも販売面でいまいちパッとしないスバルの救世主として期待される。
第5位は大手カスタマイズブランドのリバティーウォークのスーパーシルエットスカイラインだ。取ってつけたようなエアロパーツは往年のシルエットフォーミュラ(70~80年代に行なわれたレースカテゴリー)スカイラインそのもの。赤黒のボディカラーが懐かしい。
当時のオリジナルはR30型スカイラインがベースだったが、これはR34型をベースとしており、それでいてエンジンはL型というハチャメチャなコンセプトだが、オートサロンに理屈を持ち込んでも仕方ない。目を引けば勝ちなのだ!
僅差で次点としたのは埼玉自動車大学校の生徒が製作したS-ROCK。巨大タイヤを装着したジムニーのシャシーにホンダS660のオープンボディを載せるという実にもったいない、もとい贅沢な作品。
きっとミルクボーイなら「巨大タイヤを履いたオフロードどんとこいの軽自動車やねん」「ほなジムニーやがな」「でもカッコいいスポーツカーやねん」「ほなジムニーちゃうがな」とやりとりするに違いない!?
●塩見 智(しおみ・さとし)
1972年生まれ、岡山県出身。関西学院大学文学部卒業。新聞社、自動車誌編集長を経て、2011年に独立。執筆媒体多数。ラジオやイベントの司会なども手がける。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。公式Twitter【@Satoshi_Bagnole】