昨年3月、テスラが発表した小型SUV「モデルY」の脇に立つイーロン・マスクCEO。自信満々だ。標準タイプは3万9000ドル(約440万円)。今年からの納車を予定している。ちなみにモデルYは5人乗りのSUVだが、7人乗りへの変更も可能だ 昨年3月、テスラが発表した小型SUV「モデルY」の脇に立つイーロン・マスクCEO。自信満々だ。標準タイプは3万9000ドル(約440万円)。今年からの納車を予定している。ちなみにモデルYは5人乗りのSUVだが、7人乗りへの変更も可能だ

昨年、36万台超を売り、絶好調の米テスラ。今年発売予定の新型EVは世界的な話題になっている。果たしてニッポン勢はその牙城を崩せるのか? 自動車ジャーナリストの小沢コージが迫った。

■時価総額世界2位! 絶好調のテスラ

ついに宣言しちまったか! 1月20日、スバルは東京本社で技術ミーティングを開催。中村知美社長は報道陣に「スバルは2030年までに全世界販売台数の40%以上をEV(電気自動車)とHV(ハイブリッド)にする」と宣言した。

同時にトヨタと共同開発で2020年代前半にバッテリーEVを市場投入するとも明言し、実車大モックアップまで公開した。バッテリー積載量、モーター出力は不明だが、売れ筋のCセグメントSUVで、デザインは最新スバルのダイナミック×ソリッド路線と、相当本気。ライザップで「体重を落とす」と宣言したタレント同様、上場企業としては後に引けない状況だ。

だがスバルといえば、先進安全アイサイトのイメージこそあれ、基本、伝統の水平対向エンジンとAWD技術を守り抜くガンコな群馬メーカー。要するに不器用な田舎のコが上京して「モデルになる!」と宣言したようなもん。実際問題、「どこまで勝算あんの?」って疑問が浮かぶ。

だが、オザワ的には可能性を感じるし、もはや逃れられない日本自動車メーカーvs海外メーカーの宿命のEV覇権争いという側面もある。

スバルの中村知美社長は「アライアンスを活用しながら、基幹技術の開発を加速したい」と語った スバルの中村知美社長は「アライアンスを活用しながら、基幹技術の開発を加速したい」と語った スバルが発表したトヨタと共同開発中のEVのコンセプトモデル。発売は2020年代前半を予定 スバルが発表したトヨタと共同開発中のEVのコンセプトモデル。発売は2020年代前半を予定

近年、「EV開発で世界に遅れてる」と揶揄(やゆ)されてきたニッポン勢。しかし、ここ数年は猛反撃中で、昨年の東京モーターショーではホンダがホンダeを、マツダがMX-30というバッテリーEVを発表。どちらも年内に発売する予定だ。そして今回スバルもEV宣言したわけだが、ここには明確なつながりがあり、メッセージを感じる。

というのもホンダeとMX-30でくしくも共通するのは35.5kWhという容量の電池だ。今のEV界の常識からすれば異様に小さく、フル充電状態から200㎞程度しか走れない。これはテスラのモデルSの最大容量100kWhから考えると、とんでもない戦略で、わざわざ負け戦を買って出たようにも見える。 

なぜなら、事実上世界初の量産EVである日産リーフの初代が2010年末に発売されてから今年で10年。EVの勝利の方程式が見えてきたからだ。要するにEVはプレミアムかつ大容量でなければほとんど成功しない。

実際、テスラは12年にモデルSを発売すると、(利益はさほど出てないものの)兄弟車であるモデルXと合わせて年間最大約10万台を売った。この数字は当初、最大30kWhの電池しか搭載せず、年間6万台程度で足踏みしていた初代リーフよりも上の実績である。

つけ加えると、リーフは17年に最大で総電力量62kWhの2代目モデルに切り替わったが、19年に世界累計40万台を達成するのが精いっぱい。年平均にすると約4万台レベルであり、片やテスラが1000万円クラス、リーフが400万円クラスの車両という点を含めて考えると、テスラひとり勝ちは明白な事実だ。

テスラの快進撃は続いており、16年にはモデル3を発売して大ヒット。これは日本価格511万円スタートのEVミドルセダンのセミプレミアムで当初は生産が遅れて「テスラの危機だ」と叫ばれたものだが、18年あたりから生産は軌道に乗り、昨年のテスラ世界販売は前年比5割増の36万台超を記録している。

ちなみにモデル3はそのうちの25万台以上を売ったともいわれ、EV史上過去最高。年間8万台レベルの日産リーフと比べると3倍以上だ。

当然、テスラ株は急上昇。今年1月22日には、生産台数がトヨタの約24分の1なのにもかかわらず、時価総額1000億ドル突破で独VW(フォルクスワーゲン)を抜き、トヨタに次ぐ世界2位に躍り出た。この数字はGMとフォードの合計をも上回る。

次世代のエコカーであるEV造りには、日米欧をはじめ、世界中のメーカーが挑んでいるが、利益を収めているのはテスラのみ。VWも今年、ピュアEVのID.3を発売するが、本格的な量産は21年からと、まだ先が見えない状況だ。

一方でテスラは年内にモデル3ベースのSUV・モデルYを発売予定で、さらなる成功が見込まれている。このモデルYはモデル3とフロア面積は同等だが、背が高いためにオプションで7人乗りを選択することができる。

それでいてスタート価格は400万円台をキープ。多人数乗車好きの日本人にもウケそうだ。ちなみにモデルYは中国・上海工場での生産が決定している。

■大容量EVはエコカーではない!?

だが、ここで本当に面白いのはニッポン勢のクソガンコ戦略だ。勝利の方程式を理解していても、EVをプレミアム化しようとも、大容量化しようとも思っていない。

それはホンダe、マツダMX-30の戦略はもちろんのこと、今後発売されるスバルEVも、安全やファン・トゥ・ドライブを自負こそすれど、長距離性能は叫ばないし、電池の大容量化にもまず踏み込まないと、オザワはにらむ。

そこにはトヨタの意図が透けて見える。実はホンダを除けば、マツダとスバルはEV戦略をトヨタと共にしている。

そもそもスバルとトヨタのCセグEVの共同開発が明言されたのは、トヨタが昨年6月に行なった「EVの普及を目指して」の説明会だったし、そこでトヨタが発表したのは今年国内発売予定のふたり乗りの超小型EVのみ。EVの巨大市場である中国向けにこそ、SUVのC-HRのEVとその兄弟車を発表したが、売るのは中国だけ。

トヨタが今年の冬までに発売を予定しているふたり乗りの超小型EV。最高速度は60キロ、一回の充電で約100㎞の走行を可能としている トヨタが今年の冬までに発売を予定しているふたり乗りの超小型EV。最高速度は60キロ、一回の充電で約100㎞の走行を可能としている

また、マツダも17年にトヨタやデンソーと、EVを効率的に共同開発するEV C.A.スピリット社を立ち上げ、その後、ダイハツなども巻き込みつつ、現在も活動は続いている。

つまり、ニッポン勢はEV開発において、トヨタを中心とするほぼオールジャパンともいえるフルラインナップ戦略を取っているのだ。

構造が比較的簡単で政治力が問われる超小型EVこそトヨタは自社で開発するが、走りの質感が問われるCセグメントのEVはスバル。変幻自在の少量生産が問われるコンパクト&小型トラック部門はマツダ。軽自動車クラスはダイハツで、インド向けEVはスズキと組むと目されている。

こうして、あらゆる日本のクルマ造りのリソースを巻き込んで、全方位にエコで効率的な魅力あるEVを造り、テスラに対抗するつもりなのだ。しかも、その根本には「EV=小容量電池」という基本概念がある。今後も日産を除くニッポン勢は、テスラ的な大容量EVは造らないだろう。

今年発売されるホンダ初の量産EV・ホンダe。後輪駆動というパッケージングが話題 今年発売されるホンダ初の量産EV・ホンダe。後輪駆動というパッケージングが話題

というのも、そこには美しい理想がある。以前、マツダ技術開発陣トップの廣瀬一郎氏を取材したら、「リチウムイオン電池の製造時には大量の電気を使い、CO2が発生します。1kWhの電池を造る際に平均163kWの電力が必要になる。仮に100kWhの電池だったら1万6300kWの電力を使う」と話していた。

要するに、開発時に使用したエネルギーを回収できるEVでなければ"真のエコカー"とは呼べない。だから大容量EVを否定しているのだ。ニッポン勢は大容量EVのムダに気づき、さらに言えば車重が2t以上になるEVを疑問視している。

クルマが大容量電池で重くなればなるほど、加速に電気を食い、重さを支えるためにボディが頑丈になって重くなり、さらに電気を食う。そんな悪循環がEVにはつきまとうからだ。

すでに欧州では予約開始されているMX-30。日本では9月に予約開始という情報も。ちなみにリアドアは観音開き式だ すでに欧州では予約開始されているMX-30。日本では9月に予約開始という情報も。ちなみにリアドアは観音開き式だ

■ニッポン勢がニッチEVを造るわけ

そして現在のEVバトルを語る上で避けて通れないのが、10年前に起きた事件だ。

実は10年5月、当時トヨタはテスラとEV開発で業務資本提携を結んでいた。そして12年からトヨタRAV4に、テスラのバッテリー、モーター、充電システムなどを搭載したRAV4 EVを造って、アメリカで試験発売した。ところが、当初3年間で2600台を造る予定だったものの計画は頓挫。14年にプロジェクトは終わっている。

おそらくそのとき、トヨタとテスラは電池容量に代表されるEV造りの方向性で衝突――ぶっちゃけ、ケンカ別れしたとオザワは考えている。

何せ各国の道交法も変わってないのに「2020年には完全自動運転車が走ってる!」などと言い切る唯我独尊のぶっ飛びCEO率いるテスラだ。クソがつくほどマジメで謙虚な日本の自動車メーカーとわかり合えるはずがないのだ。

確かに大容量EVは、充電切れが気にならず精神的にラクだし、バカっ速(ぱや)く、スマホみたいに楽しくて、売れるに決まっている。本質的にエコじゃなくても楽しいことに人間は弱い。それでもニッポン勢は、売れるとわかっていてもエコでない大容量EVは造りたくないのだ。

ニッポンEV勢はプレミアムでも大容量でもない、環境に優しいEV造りを推し進めるだろう。よってEV大市場たるアメリカや中国で爆発的に売れることはない。

だが、ニッポンEVは、ニッチでユニークで、持った人だけがわかるような、走る100円ショップのような面白いEVを造る。バカみたいに儲かりは、しないと思うけど。