今年1月に発表されたばかりのポルシェの最新モデルを気鋭のモータージャーナリスト・竹花寿実(たけはな・としみ)がポルトガルでガッツリ試乗。さらにポルシェの開発陣に直撃取材を敢行。世界的な環境規制のなかで、ガソリンエンジンは今後どうなるのかにも迫った。
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■ポルシェが誇る最新6気筒に乗った!
――ポルシェの最新モデルに乗ったらしいじゃないスか!
竹花 うん。ポルトガルのリスボンで、最高に楽しいクルマに乗ってきました。
――どんなクルマなんスか?
竹花 今年1月に発表されたばかりの、718ケイマン/ボクスターに新設定されたGTS 4.0っていうモデルです。走りはもちろん、いろんな意味で非常に興味深い一台でした。
――というと?
竹花 実は現行のタイプ982と呼ばれる718ケイマン/ボクスターって、それ以前のタイプ981の改良版なんだけど、車名に「718」がついただけじゃなくて、燃費改善とCO2排出量低減を理由に、エンジンがそれまでの自然吸気6気筒から4気筒ターボにライトサイジング化している。
――ええ。ポルシェファンの間では、いろいろ物議を醸しましたよね。
竹花 それが今回乗ったGTS 4.0では、自然吸気6気筒エンジンが復活! しかも排気量はタイプ981のGTS(3.4リットル)やGT4(3.8リットル)を超える4.0リットルと、ポルシェの歴史においても最大級の排気量なんです。
――なるほど! 走りはギンギンでした?
竹花 まあそう焦らないで。その前に、実は昨年、ポルシェの世界新車販売台数は前年比10%増の28万台(18年は25万6225台)と絶好調だったんです。
――高級ブランドなのにスゲェー! でも軽自動車天国の日本ではどうなんスか?
竹花 日本市場でも7192台(18年は7166台)と過去最高をマークしました。ポルシェは、日本では10年連続で販売台数が伸び続けている唯一のブランドなんです。
――そんなに売れているんだ。
竹花 でもポルシェジャパンは今後、「○年連続過去最高!」とか強調しないようですけど。
――それはなぜ?
竹花 単純に数字を追いかけるのではなく、いっそうの顧客満足度向上を図ると。で、話の続きです。今回は、オープンカーの718ボクスターGTS 4.0を一般道で試乗して、クーペの718ケイマンGTS 4.0でエストリルサーキットを走ったのですが、やはり水平対向6気筒エンジンは、ポルシェにとって重要なんだと再確認しました。
――やはり6気筒は違うと。
竹花 最高です! 別に4気筒ターボがポルシェらしくないというワケではないのですが、新しい自然吸気6気筒エンジンの乾いたサウンドや、精緻でこの上なくスムーズな回転フィールは、「これぞポルシェ!」と。
――で、走りは?
竹花 今回は6速MT車のみの試乗だったのですが、ミッドシップスポーツカーらしい俊敏なハンドリングを楽しめる、とても豪快で快適なグランドツアラーといった感じです。
ポルシェの「GTS」というネーミングは、「グランツーリスモスポーツ」という意味なのですが、ハイレベルなサーキット走行にも対応しながら、ロングドライブもまったく苦にならないスポーツカーで、まさに「GTS」の名にふさわしいクルマだと思いました。
――これまでのGTSと比べると?
竹花 やはりエンジンが違うので、走りのキャラクターが異なります。従来のGTSは、もっとサーキット走行寄りというか、曲がりくねった道で振り回すのが楽しいクルマだったのですが、今回のGTS 4.0は、最高出力400PS、最大トルク420Nmと、従来のGTSより35PSもパワーアップしているので、ストレートでいっそう伸びやかな加速も楽しめる、どこか大排気量のアメリカンマッスルカー的な雰囲気もある。
――マジおもしろそう!
竹花 特筆すべきは乗り心地の良さで、GTSのセオリーに沿って、車高が20mmローダウンされて、エンジンの出力向上に応じて足回りは引き締められているのですが、乗り心地がとても滑らか。直接同じ道で比較したワケではないのですが、もしかしたら従来のGTSより快適かも。
――ルックスもいいです。
竹花 ランプ類や前後バンパー、20インチのアルミホイールなどのディテールがブラックで、アルカンターラのスポーツステアリングやシートなどのインテリアもブラック基調なのは従来のGTSと同様ですが、リアのマフラーがセンター2本出しから左右セパレートに変更されて、いっそうパワフルな印象に。
■ポルシェが考える今後のガソリン車
――試乗以外にもおもしろい話を拾ってきたらしいスね!
竹花 実はポルシェの今後のエンジン戦略を聞いてきました。燃費とCO2が理由で4気筒ターボを採用したケイマン/ボクスターに、また自然吸気6気筒を載せるって変だと思いませんか?
――確かに。CO2排出量規制は大丈夫なんスかね?
竹花 そう思いますよね。そこでポルシェのエキスパートに直接聞いてみたら、「ポルシェは自然吸気6気筒エンジンをやめるつもりはない!」と断言されたんですよ。
――ほう!
竹花 その理由は、「重量やパッケージングの点で、内燃エンジンはスポーツカーにとってメリットが大きいから」って言うわけです。
――とはいえですよ、つい先日イギリス政府が2035年にはハイブリッド車も含めてガソリン車とディーゼル車を販売禁止にするって表明するなど、電動化が潮流です。
竹花 もちろん、ポルシェは世界的な環境規制や電動化への流れも理解しています。それでも内燃エンジンを造り、今後も開発し続ける考えです。
――それだけ勝算があると。
竹花 ええ。CO2排出量については、以前からプラグインハイブリッドの販売割合が多く、ピュアEVのタイカンも発売したので、すでに目標値をクリアするめどは立った。しかし、規制値や罰金は今後も年々厳しくなる可能性が高い。でも内燃エンジンは、それさえも問題にしなくなる可能性を秘めているそうです。
――ん? 具体的には、どういうことスか。
竹花 まず燃費性能は、今回の4リットル自然吸気6気筒エンジンには低負荷走行時に3気筒状態になる気筒休止機構が備わっていて、これによってCO2排出量を最大11g/km削減しています。
――なるほど。
竹花 このように、今後も内燃エンジンの効率は、少しずつですが向上するはず。
――それだけで足ります?
竹花 私も同じ質問をしました。すると彼らは「最も大きな変化は燃料の側に起きる!」と言うわけです。
――燃料が変わると。
竹花 そうです。これは同じVW(フォルクスワーゲン)グループのアウディの研究が最も進んでいるのですが、彼らはバイオマスをもとに2段階のプロセスを経て、原油に依存せずに液体イソオクタンからなる新燃料の製造に、すでに成功しているんですよ。
――マジか!?
竹花 はい。しかも、その「e-benzin」と呼ばれる新燃料は、硫黄やベンゼンが含まれていないので、排出ガスがとてもクリーン。テストベンチでは、すでに燃焼試験が行なわれていて、耐ノッキング性能が非常に優れているので、圧縮比を高めることが可能な、とても優れた合成燃料になっていると。
――その新燃料だと、お値段も張るんじゃ?
竹花 現時点では一般に販売していませんし、もちろん安くもありません。ただ、彼らは、「1リットルの値段が5ユーロ(約600円)もするなら普及しないが、ゆくゆくは普通に買える値段になる」と。
――遠い未来のお話ですか。
竹花 最短で5年、遅くとも10年後には現実になると。現時点でそれくらいのタイムスパンで実用化できる見通しだそうです。本当にこの新燃料が実用化されれば、パラダイムシフトが起きます。
――ただ、原料がバイオマスだと、穀物を使うってことスよね? 食糧への影響は?
竹花 彼らはそこもしっかり考えていて、バイオマスを使用しない生産プロセスの開発にも着手しており、「いずれは再生可能エネルギーと空気中から回収したCO2からガソリンが生産される時代になる」と。
そのうち内燃車が最も環境に優しく、CO2ニュートラルなモビリティになる可能性があるということです。だからポルシェは6気筒エンジンを造り続けると。
――要するに環境規制が厳しくなっても、スポーツカーの未来は明るい?
竹花 ポジティブに考えていいと思いますよ!
●竹花寿実(たけはな・としみ)
1973年生まれ。東京造形大学卒業。自動車雑誌のスタッフなどを経てドイツへ。ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。輸入車のスペシャリスト