3月20日、ホンダはフルモデルチェンジで超絶進化した新型スーパースポーツ「CBR」を発売した。新型はどんな進化を遂げたのか? 二輪ジャーナリストの青木タカオがガッツリ解説する。
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■怪物バイクが誕生したわけ
――218馬力という最強すぎるエンジンを引っ提げて、新型CBRがニッポン発売ス! けど、今ってカワサキのZ900RSを筆頭に往年の名車をモチーフにしたネオクラシックが人気で、レーサーレプリカ系は影を潜めているんじゃ?
青木 いやいや、スーパースポーツ(以下、SS)も元気イッパイです。
――レーサーレプリカじゃなくSSって言うんだ。
青木 レーシングマシンを模倣し、機種によってはまんまレーサーな公道向けモデルがレーサーレプリカでしたが、SSは競技用車両からフィードバックしたものではなく、開発段階から市販車を想定している競技用車両なんです。
――なるほど。
青木 1992年に、大排気量スポーツ車の概念を根底から覆したのがCBR900RRファイヤーブレードです。
レースレギュレーションなど無視した排気量設定で、抜群の運動性能を発揮。ナナハン以上は車重が増すため、サーキットでは一線級の走りはできないとされてきた常識を打ち破り、世界的に大ヒット。2004年には1000cc化し、プロダクションレースを戦う体制が確立されました。
――そんな背景を持つCBRの新型を濃厚取材したと。
青木 はい。今回のオールニューモデルはダブルアールから超絶進化し、ついにRR-Rになりました。3つ星ならぬトリプルアールの誕生です。
――ズバリ、どこがスゴい?
青木 まず、999cc直4エンジンを完全新設計し、高強度アルミ鍛造ピストンやチタンコンロッドなどによる徹底した軽量化に加え、フリクション低減も徹底化。ボア×ストロークをモトGPレーサーRC213Vと同じ81×48.5(従来型よりボア径を5mm広げたショートスローローク設計)となり最高出力は218PSに!
――完全に化け物ですね。
青木 金属表面をナノレベルの薄膜で覆うDLCコーティングをカムシャフトに施すのは、これまで量産市販車だと車体価格2190万円で売り出されたRC213V-Sだけでしたが、200万円台のRR-Rがコイツを採用。開発者を直撃したら、未処理の物と比較するとバルブ駆動ロスを約35%削減しているとのこと。
また、カムがバルブを直接押し下げする直打式もやめて、モトGPマシンと同じフィンガーフォロワー式のロッカーアームにしたことで、約75%バルブ系慣性重量を低減したという話でした。
――車量は201kgしかないし、こんな馬力だとアクセル開けたらウイリーしてサオ立ち状態確実じゃ!?
青木 大丈夫です。まず、エアマネジメントを追求したカウルには、ハイスピード領域で車体を路面に押しつける方向に空力を発生させるウイングレットが側面につき、加速時のフロントタイヤ浮き上がりを抑え、減速時の車体姿勢の安定化などにも寄与しているので。
――モトGPマシンがこぞって設けるカウルの羽が生かされていると。
青木 はい。アルミプレス製のスイングアームも30.5mm長くして、リアタイヤの接地性と旋回性能が向上。そして極めつきは、最先端6軸IMU採用の電子制御です!
――6IMU軸って?
青木 車体の前後、左右、上下の3軸に加え、ピッチ、ロール、ヨーの3軸方向も検知できる慣性計測装置のことです。つまり、走行中のバイクがどんな姿勢になっていて、ナニが起きているかを3次元的に把握できるわけです。
――簡単に言うと?
青木 200PS超えの怪物バイクなのに、扱いやすく安全に速く走れると予想します。
――なぜホンダはこんなガチすぎる新型を誕生させた?
青木 実は現在のSSリッタークラスは、各社が凌(しの)ぎを削る超激戦区。80年代のレーサーレプリカブームの頃と熱さは変わりません。
最近はパワー競争が復活しつつあり、2019年にカワサキ・ニンジャZX-10RRが204PS、続いてドゥカティ・パニガーレV4Rが221PSを出すと、ホンダが今回、国産勢初となるダクトウイング付きで218PSを投入したというわけです。
――世界大戦状態であると。
青木 しかも、全日本JSBや鈴鹿8耐常勝マシンのヤマハYZF-R1もエンジンや足まわり、電子制御など全身をバージョンアップし、CBRの迎撃準備完了! 夏前には日本登場もありそう。
――ちなみに新型CBRのびんびん試乗はいつ頃スか?
青木 4月にサーキットで乗ってきます!
●青木タカオ
1973年生まれ、東京都出身。法政大学卒業。バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに。バイク専門誌を筆頭に執筆媒体多数。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。実は現役の二輪専門誌編集長でもある