小説家・羽田圭介(はだ・けいすけ)がクルマを買うまでの"異常なまでの試乗回数"が注目され、あの人気番組『おぎやはぎの愛車遍歴』に出演することに。(4月25日〈土〉放送回にも出演!)
番組出演時のドキュメントからおぎやはぎさんと語るクルマ愛まで、『週刊プレイボーイ』の人気連載『羽田圭介、クルマを買う。』が一回限りの復活!
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おぎやはぎのお二人(小木博明・矢作兼)と竹岡圭さんがやられている番組、『おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR,NO LIFE!』(BS日テレ)に出演させてもらえることとなった。
本誌で連載していた『羽田圭介、クルマを買う。』が始まったきっかけはそもそも、矢作さんがMCをやられていたテレビ朝日の深夜番組にある。
専門外の人が特定の専門的な仕事をやってみる、という企画において、挑戦者三人中、二人がそれぞれ、『週プレ』と『SPA!』でグラビア撮影のカメラマンをやるというものだった。そこで僕は、本誌にてカメラマンをやることとなり、今は芸能界を引退された大川藍さんのグラビア撮影を行った。
その際編集者から、最近気になってることで一〇回分くらいのエッセイを書いてみないか? と提案された。車を買おうか迷っているんですよね、と話したところ、一〇回分書いてみることとなった。
それがなければ、最初のマツダのディーラーにはいつまで経(た)っても行かなかったかもしれない。一〇回分の原稿では終わりそうもないと言ったところ、単行本化できてしまうほど、試乗で散々悩みながら、連載を続けることとなった。
だから、車好きたちが今最も出たい番組、『愛車遍歴』に出ることに、おぎやはぎさん繋(つな)がりという縁を勝手に感じていた。
平日の朝、BMW 320dに乗り、千葉県の撮影場所へ向かう。三年弱乗ってきた車は、たまに長距離を走ると、ものすごく楽に走れる車だと実感する。言い換えるなら、都内を短い距離走るくらいでは、以前ほどの楽しさは覚えなくなってきた。
ディーゼルエンジンの特性もあるだろう。高速域で余裕があり本当に楽なのだが、信号だらけの都内の狭い下道では、繊細なガソリンエンジン車のほうが、加減速を楽しめるのではないか。
収録が始まると、かつて所有していたホンダ トゥデイに、久々に乗った。僕も含め、おぎやはぎのお二人、竹岡さんの四人で乗ると、狭い車内だったが、二〇代前半の頃の楽しい記憶が甦(よみがえ)った。
「この、足回り硬めの乗り心地が、好きなんですよ」
「足回りは、ぶよぶよですよ。サスのストロークが短くて、すぐ底つきしちゃうだけかと」
竹岡さんに言われ、初めて気づいた。僕はずっとトゥデイの足回りが硬く車体軽めのゴーカート感覚が原体験としてあり、だからこそそういう車が好きなのだと思っていたが、そもそもトゥデイの足回りはぶよぶよの柔らかめだったのだ。
小木さんからはルノーのトゥインゴ、矢作さんからはスズキのスイフトスポーツのMT仕様をすすめてもらい乗ってみると、トゥインゴに関しては小さいながらもRRによる尻から前へ押し出される感覚が面白く、スイフトスポーツは硬めの足回りとシフトフィールが心地良かった。
二台の最新の車に乗ってわかったのは、トゥデイという自分の大切な思い出の中にあった車より、現代の車のほうが、走らせて楽しいということだ。
ポルシェ 911GT3にも乗ったが、カッチリとハマった精密な工業製品という感じのする乗り心地は、見事だった。ブレーキの効きもとんでもなく素晴らしい。やはりポルシェはいい。買いたいという思いが再び湧いてきた。
そして、今の僕が最も気になっているものの、まだ試乗していない車、アルピーヌ A110も用意してもらった。
「俺も気になってたんだよ」
矢作さんがそう言う。サーキット内を走らせてみると、車内は窮屈でもないのに本当に車重が軽く、軽快感のある走りが楽しい。数周回った後、運転を矢作さんに代わると、僕よりかなりメリハリのあるアクセルワークで慣れたようにコースを走り、興奮されていた。
「いい! ポルシェと全然違う!」
「どう違うんですか?」
「ポルシェはカッチリしてて、これはラフだけど軽快感がある! またポルシェに戻る前に、いったん、この車を挟もうかな」
以前911カレラ4に乗られていた矢作さんに言われると、説得力がある。番組の収録が終わっても、あまりにも矢作さんが絶賛するものだから、今度は小木さんも一人でコースを回っていた。
素晴らしい車だった。アルピーヌなら数キロくらいの短い距離の移動でも楽しく、今より車に乗る機会が増えるかもしれない。『愛車遍歴』に出演してきた多くの著名人たちと同じように、僕も二年くらいのスパンで車を買い換えるべきなのだろうか。車の買い換えは金がかかるものの、環境に悪いという感覚はあまりない。壊れない限り、中古車市場で長い間出回るからだ。
安い家具を買ってすぐ粗大ゴミに出すほうが、環境には悪いと思っている。だからそういった点での罪悪感はないが、アルピーヌのために八〇〇万円以上出していいものかと、迷う。ひとまず、BMW 320dの買い取り価格を調べてみようとは思った。
その後、特別におぎやはぎのお二人へのインタビューの時間を設けていただいた。
「この番組は、いつもお二人とも、ご自身の車で自走されてくるんですか?」
「そう。俺は運転が全然苦じゃないんだよね。でも小木はちょっと腰が悪くて」
「車種によっては、腰が痛くならないんだけど」
「じゃあ、小木さんがいま乗られている車の決め手というのは、腰が痛くない?」
「腰痛くないのが大事。俺、旧車が好きだったんだけど、この番組のせいで長距離を運転する機会が増えて、旧車をぜんぶ手放しちゃった。それが辛(つら)い」
「じゃあ、都内で自宅からテレビ局を行き来するくらいだったら、旧車でも平気ですか?」
「うん。旧車、いずれは興味出てくると思う。若いうちのほうがいい。旧車は疲れちゃうから」
「おぎやはぎさんって、若手の頃からずっと車に乗られている印象なんですが、車へのモチベーションって変わります?」
質問に対し、まずは矢作さんが答えてくれた。
「車はずっと好き。旧車に乗りたい時期とか、最新の車が好きなとき、あとマニュアル車に乗りたいときとか、移り変わったりはする」
「モチベーションは変わらないな。でもホントね、俺は旧車が好きだったし、ハイテクな車に興味なかったんだけど、矢作がすごいハイテク好きなの。あの機能がすげえとか、長距離にはこれが楽だぜ、とか。それで矢作のせいで、オートクルーズとか覚えちゃったの。レーンキープとか、色々な機能を。そうしたら俺の中で車って、最新機能がある車じゃないと乗らないものになっちゃった」
でもまた旧車に回帰する可能性もあると矢作さんが述べつつも、小木さんが次のように続けた。
「旧車はどうだろうなぁ。俺、ガソリンエンジンの音が好きだったんだよね。ドドドド、って。けれども矢作が、テスラがどうのこうのって言いだして」
「ぜんぶ俺のせいじゃん」
「電気自動車とかプラグインハイブリッドとか、走りだして音がしないのがいいとか言ってて。今の車に買い換えたら、プラグインハイブリッドで、走りだし三〇キロくらいまで音がしないんだよね。スー、って。音がしないストレスフリーがたまんなくてさ。エンジンの音が心地良いとか、そういうのじゃないんだよ。今までエンジンの音がストレスだったってことに、気づかされたの」
「数十年間、エンジン音好きだと思っていたんですね」
「好きだと思ってたことが、矢作のせいで......」
「なんで俺のせいなんだよ!」
「スーっていう音が、気持ちいいんだなと」
「エンジンってさ、バカみたいじゃん。だって電気のテスラの一番速いやつ、止まった状態からベタ踏みすると、ストーン、っていくじゃん。エンジンのブゥーンっていったいなんなんだろうと」
「そういう感じで言ったら、自動運転とかはどうなんですか?」
「抵抗感あるよ。でも、矢作がどのタイミングで手をつけるかどうかだよね。そう考えると矢作の存在が、怖いんだよ」
「俺はテスラみたいな電気自動車の良さをわかったけど、小木みたいにエンジン嫌いにはならないから。俺、バイク好きでもあるしね」
「そうなんだよ、ズルいんだよ。俺はバイクの免許もってないの。一緒に旧車好きでやってきたのに、矢作に電気が良いといわれてプラグインハイブリッド買って、そしたら矢作だけエンジンのバイクで楽しみだして。俺は取り残されたの、急に」
「本当のエンジンの楽しみはバイクだから。だって、股の下にエンジンがあるんだよ。色々な車に乗って、水平対向だ、V型だとか言ってきたけど」
「それを知らないで俺は電気に行っちゃったんだよ」
「バイクのほうが、エンジンそのものを楽しめるからね。エンジン楽しみたかったら、車よりバイク」
「ミッドシップがどうのとか、RRとか言ってたけど、そんなのバカっぽいよ。よく考えたら」
「僕もそう感じて去年久々にバイク買って、最近はバイクに乗っちゃってます」
「じゃあ俺だけだ、残されてるのは」
「両方もってたほうがいいと思うよ、バイクと車。あと俺は最近、オフロードに興味もってる。レース好きな人はサーキットで二〇〇キロとか三〇〇キロ出したりするじゃん、そんなのは危ない。オフロードは三〇キロくらいで走って、怖(こ)えー、とか言いながら楽しめるし。二五〇㏄くらいのオフロード買って、オフロード会を作ろうと思ってる」
「オフロード会って聞いたことないですね」
「関東の林道を制覇しようと思ってるんだ。だって、林道ってどんどん整備されて、なくなっていっちゃうんだよ」
「たしかに昔のツーリング地図を見て行こうとしたら、なくなってる林道多いですもんね」
「そうでしょ、今のうちにやっておかないと。そうしたら、『プレイボーイ』で林道の連載やってもいいし。バイク雑誌でやってください、って言われるだろうけど」
インタビュー終了後、出演者全員が、自分の車で帰った。僕は帰宅すると、アルピーヌの販売価格や、BMW 320dのざっくりとした買い取り価格、そして二五〇㏄のオフロードバイクについても、早速調べてしまった。
●羽田圭介(はだ・けいすけ)
1985年生まれ、小説家。2003年、高校在学中に発表した小説『黒冷水』で文藝賞を受賞。1年半のサラリーマン生活を経た後、専業小説家に。『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞。『羽田圭介、クルマを買う。』(集英社)が好評発売中
■『羽田圭介、クルマを買う。』(本体1300円+税、集英社)好評発売中!
芥川賞作家・羽田圭介氏が約60台もの試乗を繰り返し、初めてマイカー購入を果たすまでのドキュメント作品『羽田圭介、クルマを買う。』。羽田氏のエキセントリックなまでの試乗のこだわりに、芸能界での作品ファンも多数! 車好きならずとも楽しめる"試乗エンターテイメント"
■『おぎやはぎの愛車遍歴NO CAR,NO LIFE!』
(BS日テレ、毎週土曜21:00~)出演:おぎやはぎ、竹岡圭
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