昭和を駆け抜けた懐かしのオートバイが中古市場で絶賛高騰中。なかには500万円以上の値をつけるモデルも! いったいなぜ!?
専門家・佐川健太郎(さがわ・けんたろう)がその理由と、買って損ナシの10台をガッツリ紹介する!
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■昭和の名車が高騰しているワケ
――最近、昭和の絶版車の価格が高騰しているらしいスね。
佐川 特に人気のモデルには数百万円というプレミアム価格がついています。車種的には1970年代から1980年代にかけて発売され、その高性能ぶりで若者たちをビンビンにさせた大型スポーツモデルや2ストレーサーレプリカなどが目立っていますね。
――日本で空前のバイクブームが巻き起こり、メイド・イン・ジャパンが公道でもレースでも世界を席巻していった時代スね。
佐川 国産バイクが最も輝きを放っていたのがこの頃でした。価格高騰の理由としては、過去の名車もさすがに絶版から数十年がたち、程度のいい個体が少なくなってきたこと。加えて、こうした絶版車へのノスタルジーが募る今の40代、50代の層が経済力をつけてきて、当時憧れたモデルをカネに糸目をつけずオトナ買いしているからと思われます。
また、最近のネオクラシックブームに触発された当時を知らない若者層が"本物"を求めて10年ローンで、なんて話も耳にしています。
――昭和の人気絶版車は、単なる中古車ではなく四輪で言うところのクラシックカーと同じ価値観で見られるようになってきたと。
佐川 ええ。ある意味で昨今の絶版車人気は日本におけるバイク文化の成熟度を表しているとも言えます。
――なるほど。ということで、独断と偏見で勝手に選んだベスト10をお願いします!
佐川 はい、ズバリ1位はホンダのスーパーカブです。
――は? えっと、どういうこと?(笑)。スーパーカブといえば実用車の代表格。郵便配達かそば屋の出前といったイメージしかないし。
佐川 2017年に世界累計生産台数1億台を達成したことも記憶に新しいですし、60年以上にわたる社会への貢献度を考えれば断トツのナンバーワン。プレス鋼板でできた頑丈な車体に超低燃費の空冷4スト単気筒49ccエンジンを搭載。自動遠心クラッチと足だけで操作できるロータリー式変速機を備えることで、まさに「そば屋の出前が片手で運転できる」を最初から想定して設計されたという話で。
――燃費の良さは有名です。リッター100km走ったりとか。
佐川 ほかにも「エンジンオイルの代わりに天ぷら油でも走る」とか「ビルの5階から落としても走れた」などカブの並外れたタフさを伝えるエピソードは枚挙にいとまがありません。ほかの絶版名車とはちょっと意味合いが異なりますが、昭和を代表する名車であることは間違いありません。
――なるほど。で、2位は?
佐川 ホンダのCB750FOURです。1966年にロードレース世界選手権5クラス完全制覇したホンダがその技術力を世界に誇示すべく総力を挙げて開発した当時の最先端スーパースポーツモデルです。
世界初となる直4エンジン搭載の量産大型バイクで、当時の最高速度記録200キロオーバーを達成。航空機用のディスクブレーキをバイクに初めて採用したのもこのCBで、北米では当時高性能で知られた英国車を追い落とし日本でも爆発的なヒットを記録。これ以降CBはナナハンの代名詞となり、ほかの国産メーカーもこぞって直4のナナハンの開発に着手。まさにベンチマーク的存在でした。
日本製バイクの優秀性を世界に認めさせ、現在につながる直4スーパースポーツの礎をつくったモデルです。
――続いて3位は!
佐川 カワサキのZ1&Z2です。69年にCB750FOURが登場する以前から実はカワサキも4気筒ナナハンを計画していたのですが、ホンダが先出ししたCBがスゴすぎてこのままじゃ勝ち目がないと計画を中断。打倒CBを目標にイチから設計し直したのがZ1です。
だから排気量も900ccにアップしDOHC化(CBはOHC)。高回転・高出力化を狙うとともに流線形タンクやその後トレンドになるダックテール形のシートカウルを採用するなどデザイン的にもナウ(死語)かった!
――ほうほう。
佐川 レースでも活躍し、鈴鹿8耐黎明期(れいめいき)に優勝争いを演じたモリワキ・モンスターもZ1がベース。その後Z1000へとアップグレードされ、エディ・ローソンらの名手により全米スーパーバイク選手権で年間タイトルを獲得するなど優秀性を見せつけました。
一方、Z2(ゼッツー)は国内向けにZ1の排気量をスケールダウンした仕様でこちらも人気爆発。中古車市場では最低200万円以上のタグがつくなど絶版車の中でも横綱級の人気となっています。
――最低200万円! 最新の輸入モデルが買える......。
佐川 自分も昔Z1-Rに乗ってましたが、底値で手放してしまったことを今でも激しく後悔しています(泣)。
――気を取り直して第4位はスズキのGSX1100Sカタナ! 昨年デビューしたKATANAのご先祖さまです。
佐川 80年の独ケルンショーでデビューし、当時のスズキのフラッグシップGSX1000Eをベースにドイツ人デザイナーのハンス・ムートが設計した前衛的なフォルムで世界の注目を集めました。マンガやテレビにもたびたび登場するなど一世を風靡(ふうび)しました。
――日本刀をオマージュしたキレのあるデザインは、今見ても超カッコいいっス! 続いて5位は!
佐川 はい。84年に登場したカワサキのGPZ900R、通称ニンジャです。今でこそカワサキはNinjaのペットネームをつけまくってますが元祖はこのGPZ900R。カタナ同様、海外ウケを強く意識したネーミングです。Z1から始まる空冷Zシリーズは排気量を拡大しつつGPZ1100まで発展しましたが、巨大化しすぎてツアラー的なキャラになっていました。
――はいはい。
佐川 そこで、Z1で目指した世界最速のスーパースポーツという原点に立ち返って新たに開発されたのがGPZ900R。
水冷並列4気筒DOHC4バルブに、エンジンを剛性メンバーの一部として利用するダイヤモンドフレームという現代的なレイアウトを採用、航空力学を応用したフルカウルなどにより最高速度は当時のギネス記録である250キロをマーク。映画『トップガン』(86年)で主人公のパイロット役を演じたトム・クルーズの愛車として登場し、世界中で熱狂的ファンを獲得。
■中古で800万円! 大人気のヨンヒャク
――6位以降はサクサク進めます。
佐川 6位はホンダのNSR250Rです。83年登場のスズキのRG250γ(ガンマ)から始まったレーサーレプリカブームはヤマハのTZR250やカワサキ・KR250などと共に若者の間で一大ブームを巻き起こしましたが、そのなかでもカリスマ的な人気を誇ったのがNSR。
理由はズバリ速かったから。レースでも公道でもNSRの速さは際立っていました。特に"ハチハチ"と呼ばれる88年型は市販レーサーと基本的に同じ造りで、世界初の電子制御PGMが採用されレプリカ純度は超濃厚!
――そして7位は!
佐川 2ストレプリカブームの序章となったヤマハのRZ250&RZ350です。カウルを持たないのでレプリカとは呼ばれないですが、性能や走りはギンギン! 何せ当時の市販レーサーとして最もポピュラーだったTZと同じエンジンを積んでいたわけで。
特に強烈だったのは"サンパン"の愛称で親しまれたRZ350。250とほぼ同じ車体ながら最高出力は10PSアップの45PSで弱点だったブレーキもダブルディスクに強化されていました。2スト特有の爆発的な加速力と軽快なハンドリングで"ナナハンキラー"の名をほしいままにしました。
――8位は最近ホンダが発表したCB―Fコンセプトの元ネタであるCB750F!
佐川 79年に投入された第二世代のCBナナハンで、耐久レーサーRCB譲りの空冷直4エンジンはDOHC4バルブに最新化。前後ディスクブレーキになり外観もスポーティで最新感のあるフォルムにリファインされています。
レースでも活躍し、デイトナ100マイル優勝などで一躍有名になったフレディ・スペンサーが駆ったシルバーにブルーラインのCB750Fは「スペンサーカラー」と呼ばれ今も大人気です。
――9位は?
佐川 免許法改正により大型二輪免許が簡単に取れなくなったことで80年代前半にヨンヒャクブームが到来。そのなかで当時最新の直4DOHCエンジンを搭載したニューマシンとして彗星(すいせい)のごとく登場したカワサキのZ400FXが9位です。
"漢(おとこ)カワサキ"を地でいく直線基調のカクカクとしたデザインは当時の暴走族にも一番人気で、それがZのワルなイメージを定着させてしまった感も否めません。ただし、コストをかけて造られた高性能エンジンとしっかりとした車体で走りの性能も本物でした!
――ラスト10位は?
佐川 昭和のヨンヒャクブームの頂点を極めたホンダのCBX400Fでしょう。開発のきっかけは前述のZ400FXが爆発的人気を博したことでした。
「ヨンヒャクはやはり直4だ!」ということでヨンフォア以来の直4マシンをホンダが新設計。最後発だけにアンチダイブ機構やプロリンクサスなど数々の新機構を投入した豪華装備が魅力でした。空冷ヨンヒャクの最高傑作と呼ばれ、今なお信じられない相場で取引されています。
●佐川健太郎(さがわ・けんたろう)
1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業後、編集者を経て、二輪ジャーナリストに。また、「ライディングアカデミー東京」校長や、『Webikeバイクニュース』編集長も務める。日本交通心理学会員。交通心理士。MFJ認定インストラクター