「実燃費がハンパない」とウワサの新型ヤリスハイブリッドを公道で徹底試乗したら、空前絶後の異次元燃費をマークした! なぜこんな燃費が出せるのか? 自動車ジャーナリストの小沢コージが解説する!
■リアルガチで31.9㎞を記録!
走り始めて30分、オザワは思わず感嘆のため息をついた。マジかよ、ホントに出ちまったぜ、実燃費リッター30㎞突破のとんでもリザルトが! そいつは今のコロナ騒ぎにもかかわらず、初期受注で3万台超の大台を記録したトヨタの新型コンパクトカー、ヤリスの目玉グレードであるハイブリッドだ!
2月の新車発表時にある程度はスゲェー実測値を叩き出すと予想はしていた。なぜなら最も燃費のいい「ハイブリッドX」のWLTCモード燃費が36㎞/Lで、試乗した「ハイブリッドG」が35.8㎞/L。ちなみに現行プリウスが実燃費とかけ離れたJC08モード燃費で40.8㎞/Lを記録したが、アレはマユツバ。
何せ車重を軽くするために燃料タンクやウォッシャータンク容量まで削っているからだ。事実、ノーマルプリウスのモード燃費は37.2㎞/Lで実燃費もリッター20㎞台前半。片やWLTCモードは実測値から2割とズレないことも多く、もしやリッター30㎞台の壁越えも狙えると思っていたら、ホントに達成よ!
高速道路の追い越し車線を飛ばすとリッター30㎞を切るけど、20㎞台後半の燃費を保つ。ちなみに同業者に聞いたら、実燃費でリッター40㎞を記録した猛者も。確かにオザワも都内の一般道を時速60キロをキープして走っていたら33㎞/Lを達成。それも普通にエアコンはもちろんナビやカーラジオもつけた状態でだ。
では、なぜヤリスのハイブリッドはここまでガチで高性能なのか。秘密はトヨタの三つどもえの開発体制にある。実はひと口にフルモデルチェンジと言っても新車開発は案外順番に行なわれるもので、今回はプラットフォームを新しくしたから、パワートレインは据え置きで次回の大改良時にやるって話も多い。
しかし今回のヤリスは違う。偶然の巡り合わせもあるが、車名をヴィッツからグローバル名のヤリスに変えて、スポーティにイメチェンするためにガチすぎる全取っ替えが行なわれたのだ。プラットフォームとパワートレインを一気に新しくしたので実質2世代分ぐらい進化!
特にスゴいのがパワートレイン。ハイブリッドはザックリ言うと、エンジンとモーターなどのパワーユニットとバッテリーで構成されている。これまたたいていどれかひとつが進化すればいいが、今回はこちらも同時進化!
エンジンは同じ1.5Lのまま4気筒から3気筒のロングストロークタイプにダウンサイジング。気筒数を減らした分、フリクションが減り全域でトルクが増している上、熱効率が2%アップ。モーターも出力3割増しと同時に伝達損失3割減。同じ電気エネルギーを使いながらトルクが3割も増えている。
加えて、圧倒的なのはバッテリーの進化で、かつてのヴィッツハイブリはニッケル水素電池を使っていたが、今回はついに効率のよいリチウムイオン電池に! 愛と信頼のトヨタだけにあえて伝統の技術を使ってきたがやっとアップデートされた。さらに細かく言うと、パワーコントロールユニットも小型化と同時に、電力変換損失を低減している。
これらを合わせると単純にパワートレインのみで旧型比3割ぐらい能力がアップしている計算になるが、さらにハンパないのがボディ骨格、つまりプラットフォームの進化だ。
ボディ剛性を高めつつ、全体で50㎏ほど軽量化して、事実ヤリスの車重はガソリンモデルで1tを切り、ハイブリッドでも1tちょい。ボディを軽くした上、パワートレインの効率アップがなされているわけだから驚異的な燃費向上も当然なのだ。
どうしてココまで超絶進化したのかというと、ヤリスは今年11月に日本で復活予定のWRC(世界ラリー選手権)に出場するスポーティコンパクトであり、燃費以上に速さや楽しさで推していくクルマという位置づけだからだ。
だからヤリスはことさら燃費性能をうたっていないのだが、チーフエンジニアいわく、「新型はパフォーマンスを15%上げつつ、燃費性能も20%上げています」とのこと。
事実、今回乗ってみて燃費の良さ以上に、走る楽しさの濃厚さにビックリした。まず電動感が強まっているのが印象的で、モータートルクの3割アップはダテじゃなく、発進時はアクセルを軽く踏むだけでモーターパワーがグンと立ち上がる。
同時にステアリングの効きとノーズの軽さもハンパじゃなく、正直、ヤリスはちょっとしたEVスポーツカーといっていい。それもメチャクチャエコで環境にいい5人乗りスポーツカーだ。
■ヤリスハイブリッドのライバルは次期アクア
面白いのが、くしくも同じ2月に登場したライバルの4代目ホンダ・フィット。こちらはこちらでハイブリッドシステムを一新しつつも燃費自慢を一切やめている。
しかし、事情はヤリスとは微妙に異なっており、フィットは速さ以上に「生活の道具」であることをうたっている。つまり燃費は実質リッター20㎞を突破すれば十分という立場で、せっかく新型の2モーターハイブリッド、e:HEVを導入しつつもWLTCモード燃費は最良29.4㎞/L。旧型よりは伸びているが、ヤリスの36㎞/Lにはとても届かない。
新型フィットは生活の道具であり、ヤリスほどのスポーティ感はなく、ある意味カラダに優しいおかゆを食べているくらいのフィーリングだが、これまた乗ってみると実質リッター20㎞を超えるどころか、ゆっくり走ると25㎞にけっこう近づく。
ちなみに新型フィットはヤリス同様かそれ以上に電動感が強まっており、アクセルを軽く踏んでいるといつまでも滑らかなモーター駆動を続ける。しかもヤリスとは違い、エンジン完全断絶のEV走行ができるので静粛性の高さはスゴい。
ちなみに3年連続コンパクトカー首位の日産ノートはWLTCモード燃費未公表で古くさいJC08モード燃費のまま。ぶっちゃけフィットにも負けるレベルだろうが独特の味わいがウケて売れている。
オザワに言わせると、現状ハイブリッドカーはどんなに燃費スペックが良くても実燃費はリッター20㎞台、それも前半がいいとこ、が実情。例えばヤリスハイブリが出る前のWLTCモードチャンピオン、トヨタのカローラスポーツは最良モード燃費30㎞/Lだけど、実燃費リッター23㎞程度。ヤリスの前身たるヴィッツハイブリッドも同じ。
ヤリスハイブリッドは世界を変える一台だと思う。何しろフルタンク36Lで軽く1000㎞は給油なしで走れてしまうからだ。ガソリンスタンドに行く回数は確実に減る。しかも、コイツが200万円ちょいで買える!
そして超注目なのは来年の発売が予想されているトヨタの新型アクアだ。ヤリスと同じプラットフォームを使い、その特性をより燃費に振る可能性がある。するとWLTC燃費で40㎞/L台突破も可能だし、実燃費リッター35㎞台もありえると予想する!