4月7日、千葉県のサーキット場にて"二輪界のテスラ"の異名を取る米ゼロモーターサイクルズの最新モデルを緊急試乗。
気になる電動車の現在地と今後を、モータージャーナリストの青木タカオが濃厚解説する。
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■電動バイクは普及するのか?
――バイクの電動化って、正直、どうなんスか?
青木 走れる距離を伸ばすためにはバッテリー容量、つまり大きいスペースが必要なので、四輪に比べて二輪はかなり不利なんです。
――バッテリーの小型化がカギを握っていると。
青木 はい。それでも着実に開発は進んでおり"バイク業界のテスラ"と呼ばれる新興EVバイクメーカーも出現しています。米カリフォルニアに本社を置くゼロモーターサイクルズという会社なのですが、今回そこの最新モデル「SR/F」をサーキットで試乗しました!
――試乗した率直な感想は?
青木 強烈な発進加速にシビれましたね。しかもシフトチェンジは不要で、シームレスにスピードが上がり10秒ほどで最高速190キロへ。しかも時速100キロ到達は3秒台ですからスーパーカー並みのダッシュ力なんですよぉぉぉ!
――もしや電動二輪最速?
青木 ハーレーのライブワイヤーと互角です。昨夏、米国で乗りましたが、サウンドにもこだわっていて甲高いモーター音は男を刺激する逸品。気になる日本導入ですが、年内発売と耳にしています。
――なるほど。ガソリン車と比較すると走りは?
青木 トップスピードはエンジン車にかないませんが、短距離走なら負けません。それは発進直後にピークトルクに達するモーター駆動特有の出力特性のためで、回転数が上がるにつれてトルクが出るエンジン車とは異なります。
――乗り味は?
青木 立ち上がりは鋭いですが、あとは一定のパワーで滑らかに走る感覚です。シフトチェンジが不要なので、操作がイージーなのも魅力です。
――旋回などの運動性能も気になります。
青木 車重はSR/Fが約220kg、ライブワイヤーが249kgで、従来の大型バイクと車重はさほど変わりません。ただ、ハンドリングは軽快ですが、コーナリング中に重要な前後輪の接地感が乏しい傾向がある。エンジン車はクランクシャフトが車体の重心付近で回転し、ジャイロ効果となって車体を安定させる働きがあります。
そして燃焼爆発の間隔によって瞬間的にエンブレがかかり、タイヤが路面に食いつくフィーリングが得られるんですが、モーターで同じ感覚を再現するのは現状ではかなり難しいのかなと。
――航続距離は?
青木 乗り方や条件次第で変わってくるんですが、両車とも実質的には150kmまでには充電する感じです。ちなみにライブワイヤーは急速充電に対応しており40分で80%、1時間でフルチャージできます。SR/Fは200V電源を使って4時間半、100Vだと8時間半......。
――米の電動車2台の価格は300万円以上です。もしや、ちょい乗り富裕層向け?
青木 そのとおりです。
――ちなみにニッポンの電動車は現在どんな感じスか?
青木 お笑い芸人の出川哲朗さんが充電させてもらいながら旅するテレビ番組が人気ですが、そこで乗っているのがヤマハのイービーノです。50ccに相当する原付一種モデルで、クルマの普通免許で乗れて手軽でクリーン。見た目もかわいいのはいいんですが、テレビで見るとおりバッテリー切れの不安と戦いながら走らなければ......近所の買い物に使うなら全然アリですが!
――ホンダが郵政におろした電動バイクもありましたね?
青木 ベンリィイーは、すでに新宿、日本橋、渋谷、上野の郵便局に200台が導入済み。今年度中に2000台が採用される予定です。ただ、郵便配達用のバイクは全国で約8万5000台が走っていますので、現状だとまだほんの一部の納入にすぎませんが。
――郵政カブとの違いは?
青木 実はベンリィイーはGPS付き通信モジュールを搭載しているんです。これにより車両管理はオンライン化。走行記録を集められますし、事故などが多発する危険な場所を共有することもできる。運転日報も電子化で手間いらず。バイクのIoT化はどんどん進んでいます。
――ズバリ聞きますが、電動バイクは普及します?
青木 ガソリン車と車両価格を比較すると不利ですし、急伸する状況にはありません。しかし、欧州各国が2030~2040年に純内燃機関車の新車販売を禁止する方針で、これは二輪も例外ではないはず。二輪メーカーは開発の手を緩めないと思います。
――研究は進んでいると。
青木 技術進歩に競技は欠かせません。すでにロードレース最高峰のモトGPでも電動クラス「モトE」が昨年始まりました。また、伝統あるマン島TTレースでも10年以上前から電動クラスがありタイムはもう600ccスーパースポーツに匹敵しています。
――航続距離を除けば電動車の性能はもうかなり高い?
青木 今後、航続距離を含め、さらに進化しますよぉぉぉ!
●青木タカオ
1973年生まれ、東京都出身。法政大学卒業。バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。バイク専門誌を筆頭に執筆媒体多数。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。実は現役の専門誌編集長だったりする