新型コロナ禍が続くなか、欧州ではEVの販売が好調だ。特に米テスラの勢いがハンパないという。いったいなぜ?
欧州の自動車業界に詳しいジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)がガッツリ解説する。
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■EVの一番人気はテスラモデル3
――欧州でEVが好調とか?
竹花 はい。4月末から徐々に生産が再開されているものの、3月以降は新型コロナ禍で自動車メーカーが軒並み生産を停止していましたし、販売店もほとんど営業していませんでした。にもかかわらず、EVだけは好調なんです。
――どういうこと?
竹花 その前に、まず欧州27ヵ国の今年1~3月の新車販売を説明すると、前年同期比で25.6%もの減少となりました。特に3月はコロナウイルスの感染爆発が起きた主要国で落ち込みがヒドく、スペインが69.3%減、フランスは72.2%減、イタリアに至っては85.4%減です......。
――マジか!
竹花 4月はもっとヒドくて、欧州27ヵ国は前年同月の76.3%減。フランスが88.8%減、スペインは96.5%減、イタリアは97.6%減と壊滅的です。欧州では、「もはやスペインとイタリアには自動車市場がない」とまで言われているほどです。
――なのにEVは売れた?
竹花 はい。売れていたというよりは、数ヵ月前に受注したクルマが予定どおり登録されたというのが正確ですが。
――コロナ禍のなかでEVはどれくらい登録されている?
竹花 1~3月に欧州で登録されたEVは、16万7132台で、前年同期に対して100.7%の増加、つまり2倍以上となっています。シェアも前年同期の2.5%から6.8%まで拡大しました。
主要国では、イギリスが前年同期の118.9%増、ドイツは124.9%増、フランスは144%増、イタリアに至っては268.5%増と、前年同期の4倍に迫る勢いです。すでにEVの普及が進んでいるスウェーデンやオランダなども、軒並み大幅増です。
――なぜEVが売れている?
竹花 昨年は欧州で新世代EVの市販バージョンが多数お披露目されました。それらの多くはすでにデリバリーがスタートしていて、欧州の消費者の意識をEVに向かわせるきっかけになっているのは確かでしょう。
――ほかに理由は?
竹花 実は公共施設や都市部の集合住宅などに、充電インフラが加速度的に整い始めたことで、EVを所有できる環境にある人が増えています。ただ、EVが欧州で売れている最大の理由は"お得感"です。財布に優しくないとクルマは売れないのは万国共通です。
――でも、EVはけっこうなお値段ですよ。
竹花 欧州では安く乗れるんです。EUは2050年までにCO2排出量をゼロにすることを政策目標に掲げていて、加盟国は昨年末までに提出した削減計画を実行しなければなりません。
また欧州委員会は自動車メーカーに対して、年々厳しくなる平均CO2排出量の基準を設け、これを超えると罰金を科す。だから各国とも、EVに対する購入補助金や税制の優遇措置が年々充実してきているんですね。
――ぶっちゃけ、どれくらいお得なんスか?
竹花 EVの価格自体も年々安くなっていますが、例えば購入補助金はイタリアが最高6000ユーロ(約72万円)、フランスは一律5000ユーロ(約60万円)、ドイツは最高6000ユーロ、イギリスは3500ポンド(約47万円)ですが、商用であれば8000ポンド(約107万円)ものサポートが受けられます。
しかもイギリスは、19年にPHEVに対する補助金を打ち切ったので、EVへの関心が急激に高まっているんです。
――なるほど。
竹花 しかも、ドイツではEV需要の大半を占めるカンパニーカーに課せられる走行税も、PHEVの半分、ガソリンやディーゼル車の4分の1。当然、企業はEVを買います。
――EVの一番人気はどれ?
竹花 テスラ モデル3です。モデル3は昨年第4四半期から急激に生産台数が伸びたので、事前に注文していた欧州の顧客に一気に納車された可能性が高いですが、それにしても1~3月に2万3659台と売れに売れています。
――ズバリ日本メーカーに勝算はある?
竹花 十分にあると思います。ホンダeは2万9470ユーロ(約350万円)からと、航続距離やサイズを考えるとやや割高ですが、デザイン性やハイテク感はコンパクトクラスでは飛び抜けています。
また、今秋に欧州で発売予定のマツダMX-30は、ドイツでは2万7420ユーロ(約330万円)からと手頃な価格で、しかも人気のコンパクトSUVでスタイリッシュ。どちらも当然補助金や優遇税制の対象であり、EV購入を考えている欧州の消費者には魅力的に映るはずです。