新型コロナの感染拡大などにより11年ぶりの赤字転落となった日産。反撃の切り札は1年半で12車種の新型車発売だ。いったいどんなクルマが登場するのか? ジャーナリストの渡辺陽一郎が解説する。
■6月、7月と新型車を続々投入!
――日産が大変らしいスね?
渡辺 20年3月期の連結決算で、6712億円の最終赤字になりました。この数字はリーマン・ショック以来。日産は赤字の理由として為替変動、原材料価格の高騰など複数の項目を挙げていますが、最も大きく影響したのはやはり販売台数の減少です。
日産は国内と海外を合わせて720万台の生産能力を備えますが、18年の世界販売台数は565万台、19年は518万台に下がっていました。そして直近の19年度(19年4月から20年3月)は、新型コロナウイルスの影響もあって479万台に。正直この販売減少はつらい。
――新型コロナの前から新車の販売台数が下がっていたわけですね。理由は?
渡辺 一番の原因は、この数年間海外も含めて売れる新型車が乏しかった。日産自身が会見でコメントしていましたが、商品が全般的に古くなっていた。日本の日産ファンと販売店は相当苦しかったはず。
何せ11年以降、国内で発売された日産の新型車は、1、2年に1車種です。しかも19年には人気の高かったキューブとジュークが生産を終え、もう少しさかのぼるとティーダやデュアリスも生産終了。直近では18年には新型車が一台も発売されず、19年もデイズのみでした。
――確かに。
渡辺 国内メーカー別の販売ランキング順位も下がりました。07年頃までは安定的にトヨタに次ぐ2位でしたが、その後は下降し、14年から19年は5位。1位がトヨタ、2位はホンダ、続いてスズキ、ダイハツ、そして日産の順です。
――今後、日産はどう立て直しを図っていく?
渡辺 日産は720万台の生産能力を600万台に減らす方針です。これに伴いインドネシアやスペインの工場を閉鎖し、車種数も23年度までに、現在の69車種から55車種以下に抑える計画です。その一方で、19年度の決算発表と事業構造改革計画では、これから1年半の間に登場する日産の新型車も明かしました。
――具体的には?
渡辺 日本で販売を予定する新型車は、コンパクトSUVのキックス、SUVスタイルの電気自動車とされるアリア、ミドルサイズSUVのエクストレイル、コンパクトカーのノート、スポーツカーのフェアレディZです。
――発売時期が近い車種は?
渡辺 キックスです。すでに生産を終えたコンパクトSUVの日産ジュークの後継モデルであるキックスは、当初5月中の発売予定でしたがコロナ禍の影響で6月10日に延び、今は6月24日発売予定。
――キックスの価格などは?
渡辺 6月アタマの時点で公表されていませんが、販売店には暫定的な内容が届いています。キックスはタイ生産の輸入車で、グレード構成はシンプル。エンジンは最高出力を129馬力に高めたハイブリッドのeパワーのみ。駆動方式も前輪駆動の2WDだけです。
価格はXが275万9900円、2トーン仕様が286万9000円で、アラウンドビューモニターやインテリジェントルームミラーはセットオプションです。これらを装着した約301万円の仕様が重点的に生産&輸入され、非装着車は納期が遅れる可能性も。
――値引きやライバル車は?
渡辺 キックスの価格は約280万円以上ですが、新型の輸入車だから値引きは10万円以下でしょう。ライバル車はコンパクトなSUVで、ヴェゼルやC-HRのハイブリッド、CX-30やCX-3のクリーンディーゼルです。
――SUVスタイルの電気自動車というアリアは?
渡辺 アリアは7月に登場するSUVスタイルの電気自動車です。モーターを前後に搭載して4輪を駆動します。総合的な動力性能を示すシステム最高出力は309馬力、最大トルクは680Nmと強力です。モーターは瞬発力が高く、アリアは4輪の駆動力を独立して綿密に制御することで、カーブを曲がる性能も大幅に向上しています。
――そして注目の新型フェアレディZです。
渡辺 外観はホイールベースに対して全長を短く抑え、S30型初代フェアレディZを連想させる引き締まったデザインになります。ボディの後端は直線的に切り落とされ、リヤピラーには「Z」のエンブレムも装着されますから原点回帰がテーマです。
――Zのエンジンは?
渡辺 V型6気筒の3Lターボという見方が有力ですが、新しいハイブリッドを搭載するかもしれません。日産の事業構造改革計画によると、今後は海外にもeパワーと電気自動車を積極的に投入します。
そしてSUVのアリアを電気自動車のイメージリーダーに据える。当然、50年以上の歴史を持つフェアレディZも、単なる高性能なスポーツカーでは物足りない。
――ズバリ、日産の新車攻勢は反撃の一手になる?
渡辺 はい。やはり自動車メーカーは新型車を発売しないと、すべてが悪い方向に進みます。逆に新型車を投入すれば流れは大きく変わりえる。例えばアリアを目当てに来店した客がリーフやエクストレイルを買うなど、相乗効果が生まれるからです。
――なるほど。
渡辺 日産はもっと国内市場を大切にしてほしい。海外向けの車種を造るのも日本のエンジニア。日産が国内で魅力を失うと意欲のある人材も集まりません。原点回帰を考えるなら、日産が日本のユーザーに育ててもらった経緯を今こそ思い出すべきです。