今年2月、約7年ぶりとなるフルモデルチェンジを受けて登場した10代目アコード。なぜ縮小傾向にあるニッポンのセダン市場に新型を投入したのか? 取材した自動車ジャーナリストの小沢コージがそのワケをガッツリ解説する。
■アメリカ、中国で大人気の新型アコード
静かなるセダンの逆襲だ! これぞ八郷隆弘社長の「新ホンダ劇場」なのかもしれない。満を持してニッポンに投入された10代目ホンダアコードのことである。
マジな話、日本でセダンは一部を除き全然売れていない。5月の登録車販売ベスト50を見てもそれは明らかで、セダン単独銘柄はトヨタのクラウンとカムリ、レクサスのESの3車種のみと全体の1割以下。売れているのは軽自動車で全体の4割弱。続いてハッチバック、残りはミニバンとSUVが続く感じだ。
しかも今年7月にはホンダ自身がコンパクトセダンのグレイス、8月にはシビックセダンの生産終了を決定......。
では、なぜ今頃になってアコードをセダン不遇のニッポンで売るのか? オザワがズバリ問うと、「アコードはホンダブランドを象徴するセダンですから」と関係者は答えた。確かにアコードは120以上の国や地域で販売され、累計台数2000万台を誇るホンダの顔ではある。
開発トップの宮原哲也チーフエンジニアはこう話す。
「今回の10代目アコードはわれわれからするとかなりの自信作なのです。そもそもアコードはグローバル商品であり、ホンダの看板です。今回の新型は、幅広いお客さまに向けて楽しく乗っていただこうと徹底的に考えて造った商品です。これだけよくできたクルマを日本のお客さまにまったく楽しんでいただけないのは切ないものがあり、何がなんでも日本市場に出したかったのが本音です」
論より証拠ということでオザワがガチ試乗すると、10代目は歴代で最もセクシーで快適なアコードだった。スタイリングは旧型に比べ全長をあえて45㎜も縮めると同時にノーズを伸ばしたワイルドフォルムが特長。全高を15㎜下げてワイド感をアピール。ルーフもリアに向けて滑らかに下っており、オヤジくさいセダンから決別したスポーティなクーペのようだ。
それでいてホイールベースは55㎜も伸びているから室内はマジでかなり広い。後席は身長176㎝のオザワがゆったりと足を組めるほどだ。
さらに圧巻なのは走り味で、ボディ骨格となるプラットフォームをセダン専用に新開発。高張力鋼板や接着剤を採用して剛性を大幅アップし、先代より最大80㎏も軽量化。大きめの路面ショックに関してもアコード初の可変ダンパーシステムにより衝撃を見事吸収。乗り心地は滑らかかつ上質のひと言だ。
加速はホンダ独自の2モーターハイブリッドe:HEVにより行ない、ピュアEVのよう。2Lエンジンをほぼ発電機として割り切り、加速は184PS&315Nmのハイパワーモーターが主体。結果、出足から非常に力強いだけでなく、駆動用バッテリーがフル充電されているときはエンジンがかからずほとんど無音! 上質な走りが何倍も上質になったように感じられる。
一方、ハンドリングは高級セダンの王道たるトヨタクラウンやメルセデスやBMWの上級セダンとはひと味違う。ライバルのような伝統のFRレイアウトではなく、フロントタイヤですべてを操るFFレイアウトなため、FR独特の繊細さこそアコードにはないが、新しいデュアルピニオン式パワステにより、ダイレクト感は文句なし。
さらに言うと燃費も良好で、カタログ燃費はJC08モードで30㎞/L、最新のWLTCモードで22.8㎞/Lとガチンコライバルのトヨタカムリを上回り、今回計測した実燃費では時に20㎞/L台を記録。車重1.5t台のビッグサイズセダンとしてはガチのエコ性能なのだ。
というふうにパフォーマンスは文句ナシの10代目アコードだが、国内月販目標はたった300台と控えめ。それもそのはず、旧型9代目アコードはデビュー直後こそ年間1万台強だったものの、末期は年間1000台強とセールスが振るわなかった。その結果を受けての数字だ。実際、ホンダ自身も新型アコードが国内でバカ売れするとは考えていない。
ただし、この新型アコード、実はすでにアメリカと中国では超絶ヒットを記録している。昨年、北米で26万台弱を、中国では22万台弱を売った。特にドイツブランドが強い中国では、最強フォルクスワーゲンのセダン、パサートを台数で上回っているのだ。
さらに驚くべきは世界的に購入者の高齢化が続くセダン市場で新型アコードが見せている、驚異的な若返りだ。
「北米で55歳ぐらいだったアコードの平均年齢が45歳を切るところまで下がっています。中国では30歳を切って29歳まできています」(前出・宮原チーフエンジニア)
世界のセダンマーケットで奇跡の快進撃を続ける新型アコード。セダン市場が完全に冷え込んでいるニッポンで逆襲なるか? アコードの静かな挑戦にマジで注目だって!