コロナ禍のなかでも売れに売れているのがコンパクトSUVだ。そこに男をアツくする新型が続々とぶっ込まれている。本命はいったいどれなのか!? 自動車ジャーナリストの渡辺陽一郎がガッツリ解説する。
■日産逆襲の先陣は、キックスだ!
――――コロナ禍でもSUVの人気がスゴいらしいスね。
渡辺 SUVの販売は好調です。もともとSUVは、第2次世界大戦で使われたジープのように悪路を走る4WDから発展しました。そのためにフロントマスクに厚みがあり、タイヤも大径で外観が力強い。カッコよさと実用性を両立させ、今、SUVは世界中で人気を高めています。
――ファミリーカーとしても使いやすい?
渡辺 はい。ただしボディが大きいと、街中では運転しにくいのが難点です。
――そこで今、コンパクトSUVが注目されていると。
渡辺 そのとおり。SUVは背の高いワゴン風のボディなので、空間効率も非常に優れています。全長が4400㎜以下、全幅も1800㎜以下に収まるコンパクトSUVでも、4名が快適に乗車できて荷物も積みやすい。
――そんなコンパクトSUVのなかで、早くも注目を集めているのが6月30日に発売された日産のキックスです。
渡辺 日産にとって軽自動車以外では2年9ヵ月ぶりとなる新型車がキックスです。これまで日産のコンパクトSUVの顔はジュークでしたが、昨年フルモデルチェンジされた2代目は海外専用車になりました。そこで登場したのがキックスです。今年11年ぶりの赤字転落となった日産ですが、その反撃の先陣を切るモデルでもあります。
――日産大逆襲の切り札的な一台であると?
渡辺 そのとおり。ただ、キックスは16年に海外で発売されているモデルなので、厳密に定義すると"新型車"とはいえませんが、後席と荷室が広く、ジュークよりも実用的です。エンジンは日産独自のハイブリッドのeパワー。しかもノートeパワーよりも出力を高めているところにも注目です。
――エンジンはeパワーのみの設定ですが、そのワケは?
渡辺 現在の日産はeパワーを技術の象徴として打ち出しており、ノートはeパワーの販売比率が70%を超えています。そこでキックスもパワートレインはeパワーに限定しました。
――駆動方式も2WDのみで、グレードも2種類です。選択肢が少ない気がします。
渡辺 日産は選択肢を少なくすることで開発と製造のコストを抑えました。そもそもキックスはタイ工場が生産する輸入車なので選択肢を増やしにくい事情もあります。輸入車とあって納期は長く、「半年弱」と答える販売店も。
――キックスのライバルは?
渡辺 性格が最も近い車種は、ホンダヴェゼルです。ボディサイズはキックスと同等ですが、ヴェゼルは燃料タンクを前席の下に設置したため、後席と荷室はキックスよりも広いです。その代わりヴェゼルは発売から6年以上が経過したので、安全装備や運転支援機能はキックスが先進的です。
――ズバリどっちが買い?
渡辺 お互いに一長一短のライバル同士ですが、キックスはヴェゼルを強く意識しています。それが証拠にキックスXの価格は275万9900円。ヴェゼルハイブリッドZホンダセンシングの276万186円より少し安く設定しています。
――ちなみに上半期を振り返ると、トヨタのライズが売れに売れました。
渡辺 軽自動車を除いたSUVは海外市場を重視しており全長は短くても全幅は1700㎜を超えて3ナンバー車になることが多い。しかし、ライズは貴重な5ナンバー車で、全長も4m以下だから運転しやすい。価格も200万円以下に抑えられていて購入しやすいのもポイント。
その結果、姉妹車のダイハツロッキーと合わせると新車販売ランキング上位にランクインする超人気車に躍り出ました。
■軽自動車のSUVも超激アツだ!
――軽自動車では、先月発売されたダイハツタフトは早くも大人気らしいスね?
渡辺 国内の新車は37%が軽自動車です。またSUV比率も05年は5%でしたが、現在は15%に達しています。つまり軽自動車サイズのSUVを開発すれば確実に売れる。そこでスズキは売れ筋のハイトワゴンと、SUVの特徴を融合させた初代ハスラーを14年に発売しました。
これが大人気車になり、今年1月には安全装備、運転支援機能、燃費性能などを向上させた2代目ハスラーを発売。そのライバル車が6月10日から発売になったタフトなんです。直線基調の外観や水洗い可能な荷室など、タフトにはハスラーと似た点が多い。
――両車の違いは?
渡辺 タフトは完全に後発車ですが、基本的な機能はハスラーに負けている。ハスラーの後席は前後にスライドして、背もたれを前側に倒すと、座面も下がってフラットで広い荷室になります。スライドと座面の昇降機能は両方とも左右独立式だから便利ですが、タフトの後席は固定されており、前後スライドも座面の昇降機能もありません。
――両車の燃費はどうスか?
渡辺 ハスラーにはマイルドハイブリッドが搭載されて2WDのWLTCモード燃費は25㎞/Lですが、タフトは20.5㎞/Lにとどまります。
――ハスラーのほうが荷室や燃費では優勢だと。ハスラーのほうが買い?
渡辺 ところが、タフトは装備をかなり充実させています。スカイフィールトップと呼ばれるガラスルーフを全車に標準装着。通常は6万~8万円のオプション設定ですが、標準ルーフも用意すると、開発費用とガラスルーフモデルの価格が高まります。そこでタフトは、全車に標準装着して価格上昇を抑えました。
――ほかに充実装備は?
渡辺 パーキングブレーキは全車が電動式に。しかも車間距離を自動制御できるクルーズコントロールの機能もほかのダイハツ車より進化し、先行車に追従停車する時間が長引いたときは自動的にパーキングブレーキが作動して止まり続けられます。
――タフトは装備ではハスラーに勝っていると。
渡辺 タフトは価格も割安です。ハスラーの場合、最も安いハイブリッドGの2WDは136万5100円です。ルーフは普通のスチールで、パーキングブレーキは足踏み式、ヘッドランプはハロゲン。
それがタフトXの2WDは、価格が135万3000円と安く、なおかつルーフはスカイフィールトップでパーキングブレーキは電動式になりヘッドランプはLED。ほかのグレードも含めて、タフトは充実装備と割安な価格でハスラーにきっちり対抗しています。
――ちなみに軽のSUVといったらスズキジムニーも外せません。
渡辺 ジムニーは軽自動車ですが、本格的なオフロード4WDです。耐久性に優れたフレームを備え、4WDには駆動力を高めた副変速機も組み合わせている。日本で買えるSUVでは、小型車版のジムニーシエラと並んで悪路走破力が最も高い。
現行型は18年に登場しましたが、販売店によると、「納期は今でも1年です」とのこと。初代モデルに回帰したようなシンプルな外観が、オフロード4WDの機能と併せて高く支持されているからです。
■トヨタの隠し玉はヤリスクロス!
――最後に、これから登場する注目の一台があるそうですが。
渡辺 はい。今秋に発売予定のトヨタのヤリスクロスです。"ヤリス"とつきますが、ホンダのフィットクロスターのような、外装を部分的に変えたクルマではありません。
――ほうほう。
渡辺 エンジンやプラットフォームはヤリスと共通ですが、ボディを少し拡大させ、荷室容量も増えます。全幅のワイド化で走行安定性も向上するでしょう。SUVであると同時に、ヤリスの上級シリーズに位置づけられ、新たな顧客を獲得するはずです。
――ちなみにコロナ禍の今、販売店はどんな感じで?
渡辺 緊急事態宣言の影響もあり、4月の国内販売は前年に比べて29%、5月は45%のマイナスです。販売店を直撃すると、「4月以降も、3月の決算フェアと同じ好条件で売っています。下取り査定の上乗せも含め、例年よりもいい条件で購入できます」とのこと。
コンパクトSUVは価格が割安なので多額の値引きは難しいですが、下取りがあればかなりお買い得な条件が出るかと。コロナ禍の今、高額商品のクルマを買うことには、経済効果も含めて通常とは違う特別な意味があると思います。
――ズバリ、最新コンパクトSUVはどれが買い?
渡辺 今回紹介したモデルはどれも推せますので、気になるモデルがあったら販売店で試乗して、見積りをもらいましょう。今はいい条件を引き出す好機ですから。