10月2日、ホンダの八郷隆弘社長は来シーズン限りでF1を撤退すると発表。今後はEVなどの次世代技術の開発を加速させるという。マジか! 自動車ジャーナリストの小沢コージがホンダeの試乗会に突撃し、EVの戦略についてホンダe開発責任者・一瀬智史(いちのせ・ともふみ)氏に聞いた。
■日本の販売が年1000台のワケ
──いきなり面倒なことを聞きます。なぜホンダeは日本での年販売がたった1000台なんです? クルマはおもしろいしカワイイのに。絶対もっと売れると思いますが?
一瀬 ホンダeはもともと欧州のCAFE(企業別平均燃費基準)対策で開発されました。当然、メインとなるのは欧州マーケットなんです。
──CAFEって来年さらに厳格化されるCO2排出規制で走行1㎞あたりCO2が95gを超えると1gにつき95ユーロ(約1万2000円)も取られる。NSXは242g/㎞だから1台の罰金は150万円超です。ホンダeが1台売れるとNSXが何台罰金なしになるんですか?
一瀬 まだ詳細が公開されていないのでわかりませんが、ホンダeは欧州で1万台を計画しています。それくらい売らないと欧州では商売が成り立たないのは確かです。
──CAFE対策はわかりますが、日本でたったの1000台ってどうなんスか? だって全国にホンダディーラーは2000店舗ほどあるから各店舗年間0.5台しか売れない計算になる。せめて1台は売らないとダメでは?
一瀬 残念ながらホンダeの役割は欧州のCAFE対策が一番。そのためにはまず欧州メインでデリバリーをして、そのために構えた生産体制のなかで日本にも提供しようと。
──でも、予約殺到で受注を一時停止しましたよね?
一瀬 停止を決めた人間は予定どおりと言っていましたが、私は「発売から10日で停止って早くね?」と(笑)。
──それでも台数を増やさない理由は?
一瀬 台数も重要ですが、ホンダeは別な役割も担っています。ホンダはちゃんと次世代技術に投資しているし、未来も考えている。もっと言うと元気なクルマもつくっていると。そう世界にアピールするクルマでもあるんです。
──ホンダは2030年までに販売する自動車の3分の2を電動化するという目標を掲げていますね。その先陣を切るのがホンダeであると。
一瀬 おかげさまでホンダeはかなり好評です。費用対効果で考えたら十分に元が取れている。ホンダeにはホンダという企業のプレゼンスを上げる役目があり、そのなかで台数を決めているんです。
──ホンダeはF1活動やNSXと同列のポジション?
一瀬 ホンダは未来のビジョンをホンダeという形にしました。ですから、ホンダeは次世代のホンダを象徴したクルマとも言えます。
■なぜ航続距離が短いのか?
──賛否両論の電池搭載量を聞きます。正直、テスラや日産リーフe+の約半分の35.5kWhで、航続距離もモード走行で283㎞。電費が悪いと200㎞前後しか走りません。この意図は?
一瀬 まず街中の走行をベストにしたいと。例えば60kWhや70kWhの大容量のEVがある。それはガソリン車をほぼそのままEVにしただけ。でも考えてみるとEVは高速走行が苦手です。空気抵抗でエネルギーを捨てながら走っているようなものですから。
一方、街中では加減速が多い。その制動エネルギーを電気エネルギーとして回収する回生ブレーキシステムによって取り込んだエネルギーをバッテリーに蓄えたり、発電として使うことができる。
つまり、EVというのは街中が楽しい。本質的に考えたら「街中ベスト」から始めるのがEVは正しいかなと。
──なるほど。それにしてもココまでガチでつくったのはなぜです? 正直、この手の数が出ないコンセプトカー的なクルマというのはたいていのメーカーは骨格を流用します。
一瀬 そういう意味でホンダeは手を抜いていません。フルスイングしていますね。
──冗談抜きに乗れば乗るほどホンダeはフルスイングだなと思いました。実際、ボディ骨格は完全新作で剛性が高くガッチリしている。サスペンションもしなやか。
しかもモーターをわざわざリア配置にして前後重量配分を50対50にしているから、ハンドリングは超気持ちよくてスポーツカー並み。マジで電動レーシングカートに乗っているようでした。
インパネはインパネで全面5ディスプレイ。完全に走るスマホですよ。さらにミラーをカメラ化したサイドカメラミラーシステムも装備。唯一の流用はアコードハイブリッドのモーターぐらい?
一瀬 確かに流用していますが細かいユニットとか制御はちゃんと変更しています。
──マジな話、別にフィットベースでもホンダeはつくれたと思うんです。なぜイチから新作に? もしやコレでEVスポーツをつくったり?
一瀬 さあ(笑)。