昨年の東京モーターショーで報道陣に囲まれるホンダの八郷社長。日本初公開のホンダeや電動化への質問が数多く飛んだ

F1撤退を発表したホンダは電動化を加速させるようだが、それはなぜか? さらに独立独歩が信条だったホンダが米ゼネラルモーターズと関係を深めている理由とは? ホンダのこれからに迫った。

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■カーボンニュートラルの実現を目指すホンダ

ホンダは2021年シーズンを最後に4度目のF1撤退を決めた。ガソリン車の最高峰を争うF1に初参戦したのは1964年のこと。撤退と復帰を繰り返しながらこれまでに通算77勝をマークした。

現在はレッドブルとアルファタウリの2チームにパワーユニットを供給しているが、なぜホンダはこのタイミングでF1からの撤退を決めたのか? 自動車専門誌のベテラン編集者はこう分析する。

昨年6月、F1オーストリアGPでレッドブルのマックス・フェルスタッペンがホンダに13年ぶりの勝利をもたらした

「八郷隆弘社長は10月2日のオンライン会見で、『(F1撤退は)コロナの影響ではない』と話していましたが、今年4月から6月にかけての最終損益は808億円の赤字です。前の年の同じ時期は1723億円の黒字で、売上高は約47%減っている。

F1には年間数百億円の開発費が投入されており経営の大きな負担になっていた。技術者も数百人規模で駆り出される。F1による広告宣伝効果を差し引いても、ぶっちゃけ割に合わない活動なのが実情です」

現在、自動車業界は100年に一度の大変革期に突入している。特に環境規制は年々厳しさを増しており、次世代エンジンの開発は急務だ。

「CO2削減は世界的な潮流です。F1でガソリンエンジンを磨き上げるよりも、その資金を運用してEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)というゼロエミッション車の開発を加速させるべき。グローバルで生き残るならF1撤退は当然の判断です」

確かにイギリスが35年までに、フランスも40年までにガソリン車やディーゼル車の新規販売の禁止を発表。そして今年9月にはアメリカ・カリフォルニア州の知事が35年までに州内で販売される新車をゼロエミッション車にすると表明したばかり。世界中で"脱ガソリンエンジン"の動きが加速している。

「すでにホンダは新ハイブリッドのe:HEVを軸に据え、30年までに世界の四輪車販売でEVやFCVを含む電動車の占める割合を3分の2にする目標を掲げています。しかし、現状だとまだ1割程度にとどまっており開発を急ピッチで進める海外の大手ブランドとの差は広がっている」

コロナの影響で業績が悪化しているホンダが次世代技術の開発を進めるには経営の効率化を進める必要があるし、ましてや50年には企業活動で出るCO2を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現をブチ上げている。

10月30日発売のホンダeの最小回転半径は4.3m。小回り性能は驚きのひと言。価格451万~495万円

ホンダeの骨格。床下にはリチウムイオンバッテリーがぎっしり。写真右側は後輪駆動用のモーター

そんなホンダがぶっ放した量産初のEVホンダeの人気が過熱している。10月30日に発売される予定だが、予約受注で初期ロットは完売。受注を一時停止する事態になった。ホンダ関係者は言う。

「都市型EVとして割り切り航続距離は300km未満。価格も400万円台と決してお安くありませんが、想定を上回る滑り出しです。若い世代の間で話題なのもうれしい誤算です」

ホンダのカーシェアサービス「エブリゴー」ではホンダeを15分200円で借りられる。若者の間で「ホンダeはSNSで映える」と口コミが広がり予約が殺到中だという。

「日本だけでなく世界中でホンダeは注目を浴びており広告宣伝効果は抜群ですね。次世代のホンダを象徴するクルマにふさわしい働きです」

とはいえ、ホンダeはゼロから設計、プラットフォームもEV専用だ。それなのに年販1000台と供給数は極端に少ない。よけいなお世話だが開発費を回収できるのか?

2017年の東京モーターショーで公開されたホンダのスポーツEVコンセプト。フツーに量産されそう!

「17年の東京モーターショーにスポーツEVコンセプトが出展されて話題になりました。このモデルはホンダeの試作機であるアーバンEVコンセプトと骨格を共有した2ドアクーペ。当然、ホンダeの骨格を使って派生商品を展開するのは確実です。

ホンダのドル箱である軽のNシリーズのように、eシリーズ化すれば勝算は十分にある」(前出・自動車誌編集者)

その言葉のとおり9月末開催の北京国際モーターショーに「世界販売も視野」というSUVタイプのEVコンセプトが初公開された。

ホンダは世界最大のEV市場である中国・北京モーターショーでEV「ホンダSUVe」を世界初初公開した

さらに独立独歩を守ってきたホンダがここにきて米の大手自動車メーカーGMとの提携を拡大。北米市場でエンジン、車台、電動車向けモーターなどの共通化を進める。今年4月にはGMの新型バッテリーを採用したホンダ向け次世代EVの共同開発も発表済みだ。

では、なぜホンダはGMと組むのか? 前出の自動車誌編集者が解説する。

「そもそもホンダとGMの付き合いは長い。最初の提携は99年です。今回の提携拡大は長年関係を築いてきた信頼できるパートナーと生産・開発にかかる費用を削減しながらEVを筆頭に次世代技術の開発を急ごうとの狙いです」

ちなみに昨年のGMの世界販売は771万台でホンダは517万台。両社の販売台数を足すと世界トップに立つ。

「日米の巨大企業同士が手を組んでもEV市場で販売トップを独走する米テスラに追いつくのは簡単なことではありません。それに脱ガソリンといっても急にガソリン車は消えない。

特に日本の主力商品は当分は売れに売れている軽自動車がメインです。ただ、これから電動化に本腰を入れるホンダの底力には期待していいと思います」

GMのメアリー・バーラ会長兼CEOは25年までにEVと自動運転に2兆円以上の資金投入を発表している