9月11日、小泉環境大臣は日本郵便が導入しているホンダ製の電動郵便バイク「ベンリィイー」の視察を行なった。配送分野のEV化の支援を表明 9月11日、小泉環境大臣は日本郵便が導入しているホンダ製の電動郵便バイク「ベンリィイー」の視察を行なった。配送分野のEV化の支援を表明

世界中で厳しさを増す環境規制。四輪は電動化が加速しているが、二輪の現状はどうなの? 電動バイクの取材を続けているモーターサイクルジャーナリスト・青木タカオが解説する。

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■二輪の電動化も加速させるホンダ

菅 義偉首相は10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言して話題を呼んだ 菅 義偉首相は10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言して話題を呼んだ

――2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすると菅首相が宣言しました。EV普及がカギになりますが、二輪の電動化の現状は?

青木 今年4月に発売されたホンダの法人用電動二輪ベンリィイーを日本郵便が導入しています。今年度末までに2200台が配備され、都内の郵便配達用バイクの2割がEV化される予定です。

9月11日には小泉進次郎環境大臣が日本郵便を視察し、「配送車両のEV化によるCO2削減が非常に重要」と語るなど国を挙げてバイクのEV化を後押ししていく方針です。

――現状、二輪の電動化は配送を軸にした"働くバイク"が中心ですか?

青木 そのとおり。

――電動化の費用は?

青木 ホンダのベンリィイーの価格は73万7000円スタートです。50ccのガソリンエンジンを積むベンリィだと24万2000円ですから車両価格は3倍に跳ね上がります。

ベンリィイーに搭載されるモバイルパワーパックは約10kgと重い。ホンダは充電ユニットも開発している ベンリィイーに搭載されるモバイルパワーパックは約10kgと重い。ホンダは充電ユニットも開発している

――電動化に本腰を入れているメーカーは?

青木 ホンダです。八郷隆弘社長は昨年の「東京モーターショー」のメディアカンファレンスで、「配送や宅配用途で使われる"働くバイク"を中心にホンダeテクノロジーで電動化を展開していきます」と表明しています。

このホンダの電動バイクを支えるのが着脱式バッテリー「ホンダモバイルパワーパック」です。配送拠点で手軽なバッテリー交換を可能とした優れものです。

――具体的には?

青木 昨年3月に現地で取材しましたが、ホンダは宮古島の観光向けレンタルバイク事業にも電動スクーター「PCXエレクトリック」を導入しています。

利用客はバッテリーが減ったら充電ではなく立ち寄る土産物店や飲食店でバッテリーを交換する。この方法で充電の効率を良くし、費用がかさむ充電スタンドの問題も解決しています。

昨年3月に沖縄県宮古島で開始された電動スクーターのレンタルサービス「宮古カレン」。ホテルや宿泊施設からの出発および返却も可能になっている 昨年3月に沖縄県宮古島で開始された電動スクーターのレンタルサービス「宮古カレン」。ホテルや宿泊施設からの出発および返却も可能になっている

宮古島の美しいの海の上に伸びる一本の道でホンダの電動スクーター「PCXエレクトリック」をガッツリ試乗する青木 宮古島の美しいの海の上に伸びる一本の道でホンダの電動スクーター「PCXエレクトリック」をガッツリ試乗する青木

――走行中に充電がなくなるトラブルもあると思いますが?

青木 実はソフトバンクの通信ユニットを積んでおりバッテリー残量や位置情報などをリアルタイムに管理会社が把握しています。当然、トラブルが発生すれば即座に対応します。要するにクルマで始まっているコネクテッドサービスの有効性をバイクでも確かめているわけです。

ソフトバンクの移動体通信網につながる車載器(GPS付き通信モジュール)を搭載。クラウドに常時接続されるという ソフトバンクの移動体通信網につながる車載器(GPS付き通信モジュール)を搭載。クラウドに常時接続されるという

――二輪も電動化を見据えて急ピッチで実証実験をしている感じ?

青木 はい。ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキの4社は昨年「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を設立、バッテリーや交換システムを共通仕様にできないか検証を進めています。

今年9月からは大阪大学の学生や教職員に電動バイクを有料で貸与。キャンパスや周辺地域の提携コンビニでバッテリー交換を行ない、電動バイクが交通インフラとして定着するための課題抽出を約1年間かけて実施します。

――実際に使って問題点をあぶり出すと。で、電動バイクの運用面の課題は?

青木 電動バイクは航続距離が短い。特にバッテリーを積むスペースが少ない二輪車にとって電動化は不利です。ただし、配達なら走行範囲が限られており拠点に戻ってバッテリー交換や充電もできます。

コネクテッドサービスも併用すれば企業は配達車の情報が絶えず把握できる。電動化と同時にメーカーはバイクのネット接続も同時に進めたい考えで、こちらは5Gが普及すれば加速するはず。

――スポーツバイクの電動化はどうなっています?

青木 ハーレーが来春、電動モデル「ライブワイヤー」を日本に導入します。青木は5年前の試作段階からずっと取材していますが、とにかく加速が強烈のひと言。時速100キロ到達はたったの3秒。最高速は177キロに達し、1度の充電で最大235kmを走る。急速充電にも対応しており40分で80%充電できる。

日本発売直前のハーレーの電動バイク「ライブワイヤー」。米国内の価格は2万9799ドル(約312万円)からと発表されている 日本発売直前のハーレーの電動バイク「ライブワイヤー」。米国内の価格は2万9799ドル(約312万円)からと発表されている

――電動バイクは普及する?

青木 ビジネス用途は配達用のスクーターで少しずつ着実に普及すると思います。確かにコストはかかりますが、環境に優しいのは企業側としては魅力的です。ホビーユースはまだ時間がかかりそうですが、これまでバイクに乗っていなかった富裕層が最初に興味を示すと青木は読んでいます。

イメージとしては四輪の高級車が並ぶガレージを持つような人たちで、そこに最新の電動スポーツバイクが1台加わる。ハーレーのような高級ブランドが電動化に踏み切った理由はそこなのかなと。

●青木タカオ 
モーターサイクルジャーナリスト。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。現役の二輪専門誌編集長でもある