今年は自動車メーカー各社から数多くのSUVが市場に投入された。特に目を引くのが10月8日にマツダが投入した、新趣向にも程があるクーペタイプのSUVだ。
公道試乗でその実力と全貌に、自動車ジャーナリストの小沢コージが迫った。
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■マツダが放った新感覚SUV
ヤバすぎるぜ、環境規制! 今や世界中どこも厳しいが、特に過激派で知られるのが来年の欧州CAFE(企業別平均燃費)規制だ。
走行1km当たりのCO2排出量が規定より1g多くなるたび95ユーロ(約1万2000円)の罰金が科せられ、ホンダNSXなら購入時1台8783ユーロ(約109万円)も支払わなければならない!
そこで登場したマツダの環境車の切り札が、SUVのMX-30。昨年の東京モーターショーでEV版を発表し、大きな話題を呼んだ。欧州では9月から販売しているが、予約受注だけで5200台と好調な滑り出しをマーク。
だが、10月発売の国内版MX-30はなんと2リットルのマイルドHV版のみ。注目のEV版は来年1月追加の予定だという。正直スゴい肩透かしを食らった感じだったが、その価格や事情を聞いて納得。
ガソリン版MX-30はオールニューボディで242万円からとお買い得だが、EV版の欧州価格は3万2645ユーロ(約404万円)と決してお安くない。さらにつけ加えるとEVは電池も含めて供給に時間がかかる。で、まずマイルドHVから導入したわけだ。
何よりMX-30に乗ればわかるがEVどうこうよりマツダブランドのイメチェン要素が強い。ここ数年「カッコはいいけどみんな似たり寄ったり」と言われることも多かったマツダ車。そこでMX-30は自慢のスカイアクティブコンセプトの核は変えず、マツダの別の側面を出してきた。
最大のキモは同社が17年ぶりに手がけた観音開きドアだ。マツダの公式的には「フリースタイルドア」と呼ぶ。この観音開きドアは大人4名が普通に出入りできる乗降性を持ち、4つのドアを開け放ったときの開放感はマジでハンパない。全長4.4m弱のエレガントな4ドアクーペSUVなのに、だ。
だが欠点もある。フロントを開けないとリアドアを開けられず、リア席の密閉感もキツく、かなり乗る人を選ぶ。要はデザイナーズマンションのようなクルマなのだ。
月販目標も1000台と控えめだし、ド硬派のマツダファンなら2リットルガソリンも選べてほぼ同サイズのCX-30を選ぶだろう。そういう出来のクルマなのである。
ただし、MX-30の個性がピタリと肌に合う人には最高のクルマだ。観音開きボディは独特の塊感がある。グリルも従来のマツダのギラギラシルバーのシグネチャーウイングはなく、シックかつオシャレ。最大で3トーンの斬新なボディカラーが選べ、ズバリ言ってアート好きの女子にはガチでウケそうだ。
グレードはクルマ好き以外でも迷わないように選ぶのはFFか4WDだけ。後は仕様別でベーシックパッケージ、セーフティパッケージ、ユーティリティパッケージなどをつけ加える。
圧巻はユニークなマテリアル満載の内装。全3種類ありセンターコンソールはすべて珍しい。タッチのいいコルク材だし、ホワイト系内装などはドアトリムがフェルト風素材。
電子シフトはCX-30とまったく違うデザインのフローティングコンソール上に備えられ、エアコン専用モニターの操作も楽チンだ。見た目だけでなく使い勝手も含めての新提案をしている。
足回りもフロアのフレームの通し方以外、サスペンションダンパー、バネはもちろんアームまで新作。乗り心地は明らかにCX-30よりしなやかだ。高速で乗ると多少締まった感覚も味わえるが、新たな快適性重視の走り味だった。
パワートレインも基本はCX-30と同じ。2リットルエンジンとマツダ独自の6速ATの組み合わせで最高出力は156PS、トルクは199Nmだがスタータージェネレーターが備わり発進は滑らか。ちなみにWLTCモード燃費は最良15.6km/リットルだ。
しかしMX-30はスペックやサイズではなくデザインや使い勝手の新しさで選ぶべきクルマ。マツダ初の女性開発リーダーの竹内都美子主査によればMX-30の開発テーマは"わたしらしく生きる"。
周囲の価値観にとらわれない。気に入ったら周囲に何を言われようと迷わない。そういう今どきの個性的な層をターゲットにしたクルマだ。
ある意味、マツダマニア以外を狙った超オシャレなマツダの新型SUVである。果たしてキミはこのセンスについてこられるか?
●小沢コージ
バラエティ自動車評論家。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週土曜17時50分~)。YouTube『KozziTV』。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など。連載媒体多数。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員