世界中でEVシフトがフル加速。しかし、周回遅れが指摘される日本の自動車メーカーは非常に冷静。確かに今年は新型EVのデビューが相次いだけどマジで大丈夫なのか?
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■トヨタの戦法は後出しジャケン
地球温暖化対策の一環としてガソリン車やディーゼル車の新車販売を将来的に禁止する計画が海外で続々と発表されている。
11月17日にはイギリスが規制を5年前倒しして2030年までにガソリン車とディーゼル車を、2035年にHV(ハイブリッド)の新車販売を禁止すると発表。今後、EVへの移行を加速させるという。
ちなみにイギリスはEVの普及のため充電スタンド、補助金、電池開発などに約24億ポンド(約3320億円)の予算をブチ込む算段だ。英国にはトヨタ、日産、ホンダの工場もあり日本メーカーへの影響はかなり大きい。
また、アメリカのバイデン次期大統領も燃費規制を強化してEVの普及を後押しする政策をすでに発表している。フランスも2040年までにガソリン車などの新車販売を禁止してEVへ移行する予定だ。そして世界最大の自動車マーケットを持つ中国は国家戦略として粛々とEVシフトを進めている。
日本も菅総理が2050年のカーボンニュートラルを宣言し、その実現には従来型のガソリン車からEVやFCV(燃料電池車)などへのシフトが不可欠だと明言している。
現在、日本のEVは俯瞰的、総合的に見なくとも周回遅れだ。ところが、各自動車メーカーを取材すると驚くほど危機感がない。それはなぜか? サプライヤー関係者が語る。
「乱暴な言い方をすると、HVからガソリンエンジンを取り除くとEVが残る。PHV(プラグインハイブリッド)からガソリンエンジンと充電機能、FCVから燃料電池と水素タンクを外せばEVが姿を現す。
要はEVをベースにより高度な技術を投入しているのがHVやPHV、FCVなのです。当然、日本のメーカーにはいつでもEVをつくれる技術と自信がある」
それが事実ならどうして日本のEVは数えるほどしかないのか。自動車専門誌のベテラン編集者が解説する。
「一番の課題は電池です。現在のところリチウムイオン電池が主流ですが、リチウムイオン電池は航続距離が短い。つけ加えると温度調整が間違っていたり電池内部に異物が混じるとショートした火花が電解液に着火するリスクがある。
もちろん、市販する場合は安全を守るため電池の温度制御をします。すると電池システムは大型化して費用もかさむので商売になりません」
すでに世界各国で次世代電池の開発競争が激化。巨大市場に化ける試算もあるという。次世代電池の本命は?
「次世代電池の最右翼は全固体電池です。平たく言えばリチウムイオン電池の電解液の部分を固体材料に変えたもので作動可能な温度の幅が広く、発火リスクや性能の低下などを解消できるし、航続距離も長くなる。
実は経産省も全固体電池の実用化への技術開発促進を後押しする方針を固めています。具体的には研究開発や国内製造拠点の整備などに経産省が補助金を出す方向です」
今年は日産、ホンダ、マツダが新型EVを発表して話題を呼んだが、自動車業界の巨人トヨタの動向はどうか?
「トヨタは10月に1996年に発売されたRAV4EV以来となる国内EV(レクサスUX300e)を発売して注目を浴びました。さらにトヨタは2025年までにEVとFCVで100万台を売る計画を昨年6月に発表済み。
これから10モデル以上のEVをグローバル市場に投入予定でグループメーカーのスバル、スズキ、ダイハツと共同開発を進めています」
ズバリ、日本メーカーは過熱する世界EV戦争で生き残れるのか?
「日本メーカーはわれわれが考えているよりしたたか。特にトヨタのそれは筋金入り。具体的にはライバル社がトップに立った分野は徹底的に研究します。そしてライバル社をすべての面で上回るクルマを市場に投入する。このトヨタの後出しジャンケン戦法は無敵だし、本当にエゲツない(笑)。
いずれにせよ、費用対効果、インフラ、電池の問題に目途(めど)が立ったら日本メーカーの大逆襲が始まるかと。ただ、EVの普及は国と一体となって進むはずです」