コロナに負けず頑張ったクルマ業界の一年を、自動車ジャーナリスト・小沢コージと渡辺陽一郎がガチンコトークで振り返る。さらに来年注目のクルマも語りまくり! というわけで、180分1本勝負をご覧ください。
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■コロナでもトヨタが黒字のワケ
小沢 今年はトヨタの猛烈な勢いと強さを感じた一年だった。1月にCES(米ラスベガスで開催される世界最大のデジタル技術見本市)で実証実験都市「ウーブン・シティ」の詳細を発表して話題をかっさらったのに始まり、今年上半期は6年ぶりに世界新車販売トップに立ち、国内新車販売でもN-BOXを蹴散らしてヤリス兄弟が1位をゲット。しかも、ハリアー、RAV4PHV、ヤリスクロス、GRヤリス、ミライと怒涛(どとう)の新車攻勢!
渡辺 つけ加えると、新車というのは場当たり的ではなく長期的な計画に基づいて戦略的に発表されています。トヨタはコロナの影響を受けても計画を先送りにしなかったという話ですね。
――トヨタが中間決算で黒字を確保した点はどう思います?
渡辺 自動車メーカーで最も予算が必要なのは開発費です。特にトヨタのようなオールラインナップメーカーだと経営の一番のネックは開発費になります。逆に言えば、開発費をそぎ落とせば黒字になる。だから私は、コロナの影響が新車販売に出始めるのは3年後からかなと。
というのもリーマン・ショックが起きた08年も特に影響はなく、3年たってから新車の発表が減るなど徐々に失速していったからです。
小沢 けど、GRヤリスのようなとがったスポーツカーをコロナ時代に出せたのは豊田章男社長の存在が大きいと思うんだけどなぁ。
渡辺 今のトヨタの強みは社長のトップダウンでしょうね。これが功を奏している印象がある。今月発表された11月の登録車の販売上位を見てもヤリス、ライズ、アルファード、ハリアー、カローラ、ルーミーとトヨタ車がズラリ並んでいますし。対照的なのは船頭が多すぎるホンダ(笑)。
――ホンダは「F1撤退」を発表しましたね。
小沢 コロナによる経営の低迷と、世界的な環境規制がF1撤退の理由なんだろうけど、これからホンダがどこへ進むのかが見えてこない。ホンダ初となる量産EV「ホンダe」も発売されたけど、航続距離は短いし日本の年間販売台数はたったの1000台だよ? 売る気を感じない。あんなにいいクルマなのに。
渡辺 まぁ、話をF1撤退に戻すと、実は今回で撤退は4度目(笑)。ホンダの良さは社長が変われば会社の方針もコロリと変わるところだから(笑)。
――そういえば、英国紙『フィナンシャルタイムズ』が「日本政府が日産とホンダの合併を後押し」と報道して話題になりました。
小沢 合併なんて絶対ないよ。
渡辺 お互いの弱点を補完するのが合併です。日産とホンダは市場もモロにかぶっており合併したところで大きな利益が生まれるとは考えにくい。
――ホンダにはもうひとつ大きいニュースがありました。世界初となる「自動運転レベル3」の実用化です。
小沢 ホンダの高級車「レジェンド」に自動運転レベル3が搭載されるって話なんだけど......俺はコッチも売る気がないと思っている。何せレジェンドは月販20台前後のクルマ。レベル3を搭載しても売れんよ。普及させる気がないんだろうね。
渡辺 レジェンドの価格は700万円台。庶民が簡単に買えるクルマではないよね(笑)。ちなみに、国交省を含め関係各所を取材しましたが、今回の件は「自動運転レベル3の早期実現」を求める国の意向をホンダがくみ取ったみたい。
小沢 公言はしていないけど、ホンダだけではなく、トヨタも日産もスバルもレベル3を市販する技術はある。
渡辺 ただし、レベル3はハンドルやブレーキなどの操作をシステムにすべて任せるからリスクがつきまとう。技術があっても自動車メーカーの腰が引けるのは当然かなと。
小沢 それはわかるけど、自動運転は官民一体で進めているプロジェクトでしょ?
渡辺 そう。だから国としてはロードマップに沿って着実に国内メーカーに進めていってほしいわけです。そういうプレッシャーのなかで、「お先にどうぞ」「いやいやどうぞどうぞ」という自動車メーカー同士の駆け引きというか、押しつけ合いが繰り広げられ、最終的にホンダが火中の栗を拾ったというウワサだよ(苦笑)。
小沢 ただ、今回の自動運転レベル3の機能が使えるのは高速道路限定。しかも渋滞か、渋滞に近い状況で、時速だって50キロ以下なんだから、リスクは少ないけどなぁ。
渡辺 レジェンドのレベル3は、自動運転といっても運転支援に近いもの。自動運転システムの作動中にスマホを見るのはまだ危険が伴う。それに運転をシステムにすべて任せていても、事故時の責任は基本的にドライバーが負う。
小沢 自動運転車レベル3以上の事故の際、保険がどうなるか完全に決定はしていない。まだまだ課題は多そう。
■脱ガソリンで困るのは弱者だ
――あと、今年は世界中でEV(電気自動車)シフトが加速しました。
渡辺 イギリスはガソリン車の新車販売を2030年までに禁止し、35年にHV(ハイブリッド)も禁じる。アメリカのカリフォルニア州は35年までにHVを含めて禁止です。そして世界最大の自動車市場を持つ中国は国策としてEVシフトを進めている。
――菅 義偉総理もカーボンニュートラルを宣言し、EVやFCV(燃料電池車)へシフトすべきだと明言しました。
渡辺 経産省は30年代半ばにガソリン車の販売禁止を示唆しているし、東京都も12月、30年に純ガソリン車の新車販売禁止を発表。日本も環境車へのシフトを急いでいる。
小沢 ただ、マスコミは「脱ガソリン」と報道しているけど、ハイブリッドは半分ガソリン車だから脱ガソリンという報道は大ウソだよ!
――正確にはこれから"純ガソリン車"が世界的に消えていくって話ですよね。
小沢 そのとおり。だから本来は"脱・純ガソリン車"という表現を使うべき。俺は正直言って、脱ガソリンを進めるには相当な時間が必要だと思っている。
渡辺 今後はマイルドハイブリッドが今のガソリン車の位置に来るイメージです。その上にストロングハイブリッドがありPHEV(プラグインハイブリッド)、そしてEVやFCVという序列になる。
――純ガソリン車の販売禁止は本当に進むと思います?
渡辺 昨年、国内の軽自動車を含む新車販売は519万台でした。うち、ガソリン・ディーゼルの割合が65%で、電動車が35%です。これをすべて電動車にするのは、率直に言って簡単ではないと思います。
何しろ電動車を新車で購入できるお金持ちは減税の恩恵を受けられますが、純ガソリン車に乗っている庶民はへたをすると環境問題を盾に重税を課せられる可能性もあるわけです。こんな庶民を踏みつけにする政策を国民は許さないはずで、脱ガソリンの道のりは険しいと思う。
――仮に日本で「脱ガソリン」が進むとしたら、ガソリンスタンドはどうなるんスかね?
渡辺 実は全国のガソリンスタンドの数はガソリン需要の減少などもあり急激に減っています。1994年の6万ヵ所をピークに25年連続で減少を続け、昨年はついに3万ヵ所を切りました。しかも今年はコロナの影響でガソリンスタンドの倒産が増えている。
小沢 公共交通機関が充実していない地方は、クルマがないと生活できないよ。特に地方は、古い軽を暮らしの足にしている人がけっこう多い。
渡辺 すでにガソリンスタンドの過疎化は地方で深刻な問題になっています。近隣にガソリンスタンドがない地域だと、給油はもちろん、高齢者への灯油の配送などにも支障が出てしまう。
小沢 そこへきて将来ガソリン車が禁止になれば、さらに影響が出るのは必至。
渡辺 年金暮らしで軽自動車を長く大切に乗っている地方の高齢者などが、環境規制によって苦しめられるのはいかがなものかと思いますね。
小沢 価格、インフラ、電池の問題もあり日本でEVシフトが一気に進むとは考えづらい。政治の後押しを否定はしないけど、本来、EVやFCVにシフトするのなら技術革新ありきの話だと俺は思うんだよなぁ。もしも完全な脱ガソリンを進めるのなら、国は庶民の目線に立って議論を深めるべし!
■来年の注目カーはスポーツカーとEV
――最後に来年の注目カーに触れます。いよいよ7代目フェアレディZが登場しますね。
小沢 デビューは来年秋というウワサだが、実は年末にずれ込むという話もある。
渡辺 エンジンは?
小沢 昨年9月の改良でスカイライン400Rに搭載された405馬力仕様が候補。コイツをフェアレディZ用にチューンするんじゃないかな。
渡辺 既存のエンジンを使うとなると、庶民でも手が届く価格で発売される可能性が高くなるかもしれない。
小沢 400万円を切るスタート価格なら大きなインパクトを残せると思う。けど、俺の大注目は日産のアリアだね。
渡辺 日産が元気を取り戻す上でも大切な一台で、来年の夏頃にお目見えしそうです。
小沢 新型EVアリアの航続距離は610km。前輪と後輪の両方にモーターを搭載するe-4ORCEもかなりスゴそう。
渡辺 ちなみにCEV補助金を差し引いた実質の購入価格は500万円台。どれほど日本で売れるのか注目したい。
小沢 今年は日産が誇るEVリーフが誕生10年を迎えた。日産にはEVのパイオニアとしての意地がある。このままテスラの好きにはさせないと思う。個人的にはアリアが、日本でEVがなじむかどうかの試金石になるのかなと。
渡辺 日本はもちろん世界中でアリアが売れたら、日産復活の大きなのろしになると思いますよ。
小沢 逆にコイツが売れなかったら日産はマジで正念場を迎える。重要なクルマだからこそ、今から試乗が楽しみ。
渡辺 まだ詳しく言えませんが、実は日産以外にも各メーカーからコロナを蹴散らす魅力的な新車が控えています。
小沢 さらに自動運転も活発化しそう。というわけで21年もネチネチ取材してくるので、週プレのクルマ記事にご期待ください!
●小沢コージ
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週土曜17時50分~)。YouTubeチャンネル『KozziTV』。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など
●渡辺陽一郎
カーライフジャーナリスト。1989年に自動車購入ガイド誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長に。1997年に同社取締役を兼任。その後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など