世界的な環境規制により風前のともしび状態となっているガソリン車だが、実は一部の車種は今後、資産価値が高くなりそうだという。自動車ジャーナリスト・渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)が解説する。
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■ガソリン車を狙うならスポーツカーだ!
――2030年に東京都で純ガソリンエンジン車の販売が禁止される方針です。
渡辺 国が定める30年度の燃費基準は、16年度の実績に比べて32.4%の燃費改善を求めています。正直、この数字で純ガソリン車を存続させるのはかなり難しい。今後、生き残れるのはHV(ハイブリッド)、PHEV(プラグインハイブリッド)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)などの環境車かなと。
――仮に純ガソリン車が絶滅した場合、リセールはどうなるんスかね。大きく下落?
渡辺 かつてのディーゼルのように使用できる地域が限られると、中古車価格や下取り額は下落します。しかし純粋なガソリンエンジン車は、動物や植物に直接悪影響を与えた以前のディーゼル車とは異なります。新車販売が終了しても、使用制限は生じないと思いますね。
――あ、なるほど。
渡辺 それどころか、純ガソリン車の魅力を満喫できる車種は、購入後も価格が下がらず高値で売却できるはず。EVシフトで純ガソリン車が絶滅すればなおさらですね。
――どういうこと?
渡辺 吹き上がりのいいエンジン、あるいは動力性能の高い大排気量の多気筒エンジンを搭載する車種は人気が続くと予想されているんです。この手のクルマはガソリンエンジンの魅力をストレートに味わえますから。
――カテゴリーでいえば?
渡辺 スポーツカーです。ただし最近の売れ行きは、日本だけでなく海外でも下がっています。例えばマツダロードスターは、1990年に初代モデルが北米で約4万台売れましたが、昨年は約8000台でした。30年間で20%まで縮小しています。
ちなみに日本での販売は90年が約2万5000台、コロナ前の19年でも約4700台と落ち込んでいるんですよ。
――スポーツカーの需要は減少していると。
渡辺 ええ。このまま販売が縮小すると、スポーツカーのカテゴリーが消滅する可能性だって否めません。実際、日産GT-Rは改良を続けているとはいえ、発売から13年も経過しています。
それにGT-Rは最高出力が570PSと超強力で、WLTCモード燃費は7.8km/リットルです。この数値はeパワーを搭載する新型ノートの3.6倍の燃料を消費する。このようなクルマは燃費規制を踏まえると、やはり存続は危ういと思いますね。
――なるほど。
渡辺 ちなみにGT-Rの新車の登録台数は月60~70台と少ないため中古車の流通台数も限られている。そのため生産を終えれば高値にハネ上がるはず。絶版になったマツダのRX-7がいまだに高値で取引されていますが、GT-Rはそれ以上の価値がある。
――もともと純ガソリンエンジンを搭載するスポーツカーは流通する数が少ない。でも、中古車市場では根強い人気があるから、EVシフトで純ガソリン車が絶滅したらリセールは爆上がりすると。ズバリ、お買い得な新車は?
渡辺 新車価格を含めて、最も現実的な車種はロードスターです。グレードは1.5リットルエンジンのソフトトップRS。資産価値だけでなく、運転する楽しさもを考慮すると最善の選択かと。
2位はレクサスRC F。V型8気筒5リットルエンジンの回転感覚と吹き上がりは、現存する国産エンジンのなかでは官能性ピカイチ。
――そして3位は?
渡辺 日産GT-Rですね。RC Fの魅力は純粋なガソリンエンジンに特化されますが、GT-Rは安定性も抜群です。雨の高速道路を走行中、前方で事故が発生し、急ブレーキをかけながらステアリング操作で危険回避するとき、GT-Rなら安心して対処できる。実は安全性も極めて高いクルマなのです。
――ちなみに、これらのスポーツカーはいつ頃買うのがベストなんスか?
渡辺 もちろん、クルマは「買いたい!」と思ったときが買い頃です。ただ、今購入すると30年頃には10年を経過して価値も下がり始めてしまう。賢い購入法としては、生産終了間際の最終型を買うのがベストです。
シリアルナンバーの入った特別仕様のメモリアルモデルなどを購入すると、売却時に好条件をつかめる。入念なメンテナンスをしっかり行なって、大切に乗り続ければ大きな財産に化けますよ!
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。1989年に自動車購入ガイド誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長に。1997年に同社取締役を兼任。その後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など