昨年の国内の新車販売はホンダをブチ抜いて、スズキが2位に浮上! そんな絶好調のスズキのなかで今、買うならどれ? 自動車ジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)が独断と偏見のみで推し3台を選んだ。
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■スズキの躍進は"脱・軽自動車"
――昨年の国内新車販売台数でスズキがトヨタに次ぐ総合2位に輝きましたね!
渡辺 1位は安定のトヨタですが、2位と3位が入れ替わりました。例年は2位がホンダ、3位がスズキなのですが、昨年はスズキが63万台、ホンダが61万台で順位が逆転しました。ちなみにスズキの国内販売2位は史上初の快挙です。
――スズキとホンダが入れ替わったワケは?
渡辺 コロナの影響が大きいと思います。昨年は両社とも前年に比べて販売台数は減少しています。スズキの前年比はマイナス9.4%。一方、ホンダは14.3%と大幅な減少となりました。
――なるほど。どこでホンダと差がついたんスか?
渡辺 昨年5月の前年比は、ホンダが45.1%減、スズキは56.7%減でした。ところが、その後の回復で差がつきました。スズキは7月から前年比増を達成しましたが、ホンダは回復が遅く、9月までマイナスが続いた。コレが痛かった。
――スズキの好調さは軽自動車が下支えしている?
渡辺 スズキは軽自動車が中心のメーカーと認識している方が多いかもしれません。しかし、国内販売を2位へ押し上げた原動力は小型車の堅調な売れ行きだと思います。
――ほう!
渡辺 スズキは軽自動車への依存度を下げるため、小型車と普通車の登録台数を年間10万台以上に増やすという計画を進め、2016年に達成しているんですよ。
――スズキの大躍進は、"脱・軽自動車"で実現したと。
渡辺 そうです。2000年のスズキの小型車と普通車の登録台数は4万台少々でしたが、昨年の国内販売はその2倍以上を記録し、約17%が小型車と普通車になっています。ちなみにこの数字は昨年のスバルの登録台数を超えている。
――ただ、国内の新車販売は軽自動車がシェア4割を占めていますよね? スズキは軽をバンバン売るべきでは?
渡辺 そう簡単な話でもないんです。増税されると販売がピタリと止まるのが軽です。しかも、ホンダや日産など強力なライバルも参入している。
今後は燃費規制により軽自動車も本格的なハイブリッドを搭載する可能性があり、そうなると手頃な価格で軽を売るのが難しい。そこで海外戦略も踏まえ、小型車や普通車に力を入れているんです。
――なるほど。では、そんな黄金期を迎えたスズキのなかで、乗って楽しいのはどれ?
渡辺 1位はズバリ言ってジムニーです。1970年に初代モデルを発売して以来、純粋な悪路向けのSUVとして走破力を磨いてきました。小さなボディとの相乗効果で、狭く曲がりくねった林道に最適です。
日本で購入可能なSUVでは、最高の悪路性能を誇ります。ムダを排除した真摯(しんし)な商品開発は、悪路を走る機会の乏しいユーザーの共感も呼び、売れ行きは絶好調です!
――続いて2位は?
渡辺 スイフトスポーツです。全長が4m以下の小さなボディに1.4リットルターボエンジンを搭載し、峠道で機敏な走りを味わえます。6速MTの設定も魅力的ですね。
価格は安全装備を充実させて200万円台前半なので、運転の楽しさと割安感を両立させています。スイフトスポーツに乗ると、スズキが国内販売2位になった理由がよくわかる。とにかく運転が楽しい!
――3位はハスラーですか。
渡辺 車内は広く、シートアレンジも多彩です。外観はSUVのジムニー風で、エンジンはマイルドハイブリッドを搭載します。ハスラーにはスズキの魅力が詰まっている。若年層からファミリーまで幅広いユーザーに向いた一台です。いずれにせよ、スズキの快進撃は続くと思いますよ。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。1989年に自動車購入ガイド誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長に。1997年に同社取締役を兼任。その後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など