日本で一番売れている輸入車ブランドといえばメルセデス・ベンツだが、実は今、本国ドイツで大きく変わろうとしているという。いったい何が起きているのか? 自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)が解説する。
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■ダイムラーからメルセデス・ベンツに
――昨年もメルセデス・ベンツが輸入車販売トップに輝きました。これで6連覇です。
竹花 コロナ禍の影響で前年比約14%減の5万7041台と落ち込んだのですが、他ブランドより落ち込みが小さかったのが功を奏しました。
――世界販売はどうでした?
竹花 乗用車は13%減の約208万7200台と、こちらもコロナ禍の影響がありましたが回復が早かった。ドイツのライバルであるBMWとアウディと比較しても堅調です。
主要国で強力なロックダウンが行なわれたヨーロッパと、厳しい感染状況に陥ったアメリカ市場は、前年を10%以上下回ってしまいましたが、中国市場が9%も増加して販売を下支えしました。乗用車部門は純利益が36億2700万ユーロ(約4680億円)と、前年から53%も増加です。
――スゲー! ところで、メルセデス・ベンツが大きく変わろうとしているってマジ?
竹花 そうなんです。2月3日にメルセデス・ベンツブランドを保有するダイムラーAGが、トラック・バス部門であるダイムラー・トラックを同社傘下から切り離して分社化すると発表したのです。
――具体的には?
竹花 ダイムラー・トラックは、メルセデス・ベンツ・トラックやフレイトライナー、三菱ふそうトラックなど、超有名トラックブランドを抱える世界最大のトラック・バスメーカーなのですが、高級車部門とは顧客層や求められる技術などが大きく異なります。そこで、より柔軟で効率的な経営を行なうために年内をめどに分社化を決定したと。
――つまり、高級車は高級車だけに集中しようと?
竹花 はい。社名もダイムラーからメルセデス・ベンツに改称される予定です。
――ブランド名が社名になるわけですね?
竹花 そのとおりです。ただ、1890年の「ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト」設立以来クライスラーと合併していた時代も「ダイムラー・クライスラー」として130年以上も社名に冠していた、創業者のひとりであるゴットリープ・ダイムラーの名前が消滅するのは残念です。
――歴史が大きく動いたと。
竹花 ええ。この分社化によりメルセデス・ベンツは乗用車向けの電動化技術や燃料電池技術、自動運転分野の研究、新パワートレインの開発、ゼロエミッション化技術の開発などに全集中でき、さらなる投資を呼び込めます。実際、分社化の発表後からダイムラーの株価は急騰しています。
――メルセデス・ベンツが盤石の体制に仕上がってきたと。ちなみに最近フルモデルチェンジした新型Sクラスと新型Cクラスが大きな話題を集めていますよね?
竹花 ハッキリ言って内容がスゴいです。新型Cクラスは本国で発表されたばかりですが、新型Sクラスとプラットフォームを共用したことで、MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)をはじめとしたインフォテインメントや先進運転支援システム、安全装備などが新型Sクラスに準じたものになっています。デザインも含め、"プチSクラス"と呼ぶにふさわしい飛躍です。
――マジか!
竹花 パワートレインも全車が48Vの第2世代ISG付き4気筒エンジンで、電気モーターによるブーストモードを備えたハイブリッドです。あとから追加されるPHEVはEV走行で100kmも走れるそうです。
エアコンやマッサージ機能、サウンド、アンビエントライトなどを統合制御して、乗員の疲労回復やストレスレベル軽減などを図るウェルネスプログラムもSクラスから継承しています。5代目となる新型Cクラスは売れに売れると思いますよ。
――そのほかの動向は?
竹花 1月にGLAをベースにしたピュアEVのEQAが本国で発表され、ヨーロッパではすでに受注がスタートしています。また、年内には"EVのSクラス"となるEQSも登場する予定です。新時代に突入したメルセデス・ベンツから目が離せませんよ。
●竹花寿実(たけはな・としみ)
1973年生まれ。東京造形大学卒業。自動車雑誌の編集者などを経てドイツへ。現地ではドイツ語を駆使して、自動車ジャーナリストとして大活躍。輸入車のスペシャリスト