無料化が約束されていたはずの日本の高速道路。しかし、気がつけば通行料金は上昇の一途。いったいいつになったら日本の高速道路は無料化されるの? 一方で、自動車大国ドイツの高速道路はなぜ全区間無料なのか? 自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)が解説する。
■老朽化が進む日本の高速道路
――首都高速が来年4月にまたまた値上げします! 一緒に怒りましょう!
竹花 (無視して)補足すると、正確には今年3月12日に新料金案が発表され、これから国交省などの認可を受けて、正式に決定します。まぁ、それは形式的なものなので実質値上げ決定ですが。
――で、どんな値上げ?
竹花 これまで首都高速は、普通車で35.7㎞以上走ると1320円の上限料金が適用されていましたが、来年4月からは「55㎞以上で上限1950円」に。つまり、改定後は35.7㎞以上走ると現在より高くなる。
例えば横浜市の「幸浦(さちうら)IC」からさいたま市の「さいたま見沼IC」まで走ると、走行距離は最短で86.4㎞なので、現在は1320円なのが1950円になる。
――なぜ改定するんスか?
竹花 現在の上限ルールでは、首都高速はほかの高速道路と比較して、長距離になるほど安いので、一部区間で交通が集中しているんです。
――渋滞がハンパないと。
竹花 ですから、首都高速以外の高速道路や自動車専用道路と料金水準を合わせて、クルマの流れを分散しようという意図がある。
――確認ですが、今の首都高速の料金って安いんですか?
竹花 安いです。
――安いんかい! 一緒に怒ってくれると思ったのに!
竹花 (無視して)先ほど挙げた幸浦~さいたま見沼(86.4㎞)は、東名高速道路の東京~御殿場(83.7㎞)間とほぼ同じ距離ですが、東名の料金は2620円(深夜割引料金は1830円)で、首都高は改定後でも1950円ですから。
――だったら、今回の首都高速の値上げが、利用者にどんなメリットやデメリットが?
竹花 都心を横断・縦断するクルマが減るはずなので、渋滞は減ると思います。また午前0~4時に20%の深夜割引が導入される予定なので、深夜に利用する人はお得になります。法人や大口利用者を対象にした割引は、現在の最大35%から45%へ拡大。
さらにつけ加えると、35.8㎞未満の利用は、改定後も料金は変わりません。問題は現金利用者で、一律で上限料金が1950円になる。常に55㎞以上走る人以外は早急にETCをつけるべきです。
――なんか全体的にいい話になりそうですが、そもそも首都高速に限らず日本の高速道路はいずれ無料になるはずだったのでは!?(怒)
竹花 確かにかつては「建設費の償還後は無料化する」という話がありました。しかし、現実には東名高速道路の全線開通から半世紀以上がたっても料金を徴収し続けています。これは1972年に全国料金プール制が導入され、日本全国の高速道路ネットワーク建設にかかるお金をまとめて償還すると決まったからです。
しかも、すでに箱根新道や八王子バイパスのように、独立した一般有料道路が無料化された実績もあります。ただ、多くの高速道路や都市高速の無料化は......まぁ無理です。
――それはなんで?
竹花 まず日本の高速道路(都市高速含む)は、現時点で26兆円を超える債務残高がある。民営化で債務返済は加速したが、それでも今後数十年は返済が続きます。また、新規の高速道路建設や老朽化した区間の造り替え、点検や補修、改良には恒久的に莫大(ばくだい)な費用がかかる。
総延長が9200㎞を超える日本の高速道路は、維持費だけでも2050年までに軽く10兆円以上が必要という声もあります。東名高速道路にしても、全線開通から50年以上経過しているし、ほかの主要高速道路も老朽化している。日本では高速道路無料化の可能性はかなり低い。
――でも、例えばドイツは高速道路が無料ですよね?
竹花 ええ、ドイツのアウトバーンは全区間が無料です。では、日本とドイツの違いは何か。日本の高速道路はかつての道路公団が借金をして建設した「公団方式」。それに対して、ドイツは国が税金で建設した「公共事業方式」。だからアウトバーンは借金がないんです。
――それでもメンテナンスにはお金がかかりますよね?
竹花 かかりますが、国と州が税金から年間およそ30億ユーロ(約4000億円)を拠出して賄っています。全長約1万3000㎞の高速道路のメンテナンス費としては安いほうかと。
少し話はズレますが、私がドイツで仕事をしていた頃、日本に駐在経験のある自動車メーカーのエンジニアやデザイナーは、「日本の高速料金はクレイジーだ」と困惑していた。なぜなら、ヨーロッパは高速道路が有料の国は桁違いに料金が安い。例えばスイスは年間40フラン(約4700円)で高速道路に乗り放題になる。
――安ッ!
竹花 ヨーロッパは土地に余裕があって地震も少ないので、建設費や耐震基準が日本より抑えられるのも大きい。ドイツに限ると、「国民の移動の自由を守るため、アウトバーンは無料かつ速度無制限でなければならない」と考える人がとても多い。それはもう、"ドイツ人の基本的人権"といった感覚です。
また、政府も「移動性の確保なくして国の繁栄はない」との認識で、道路や鉄道への投資額を増やしている。ドイツは所得税や付加価値税、ガソリン税など税金は日本よりも高いですが、こと道路に関しては、しっかりしたサービスが提供されています。
――どうにか日本の高速を無料にしたいスけど、何かいい知恵ありませんか?
竹花 (元気よく)あります。日本がドイツから見習うべき点は、有権者の姿勢です。前回のドイツ連邦議会選挙(2017年)の投票率は76.2%。そりゃ、政治家は広く国民の声に耳を傾けますよ!
●竹花寿実(たけはな・としみ)
自動車ジャーナリスト。1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業後、自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。現在、活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向、交通政策、道路環境、運転マナーなどを発信。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員