先月、中国でトヨタがSUVタイプの新型EV「bZ4X」を発表。ついにトヨタが本気になった!と、大きな話題を呼んでいる。ウワサの新型EVは、どんなモデルなのか? おなじみ、自動車ジャーナリストの小沢コージが解説する。
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■bZ4Xの勝利を握るのは国産電池!
――先月、中国・上海で開催された「上海モーターショー」で、トヨタが新EV(電気自動車)シリーズ第1弾となる「bZ4Xコンセプト」を世界初公開して話題です。
小沢 このミッドサイズSUVのbZ4Xは完全新作のEVで、トヨタの超本気モードを感じた。なぜなら、bZ4Xは来年半ばにグローバル販売開始となるんだが、その後、2025年までにbZシリーズで7車種、おそらくレクサスも含めたトヨタ全体で15車種ものEV投入を大宣言。その初陣がコイツよ!
――トヨタが本腰を入れた?
小沢 うん。4年間で15車種ってことは年平均4車種ペースだからこの猛烈な固め打ちは大谷翔平級よ!
――(無視して)bZ4Xはスバルと共同開発とのことですが、トヨタとスバルの役割分担はどんな感じなんスか?
小沢 まずEVは電池の値段が高いから自動車メーカーはあんまし儲かんない。けど、複数メーカーで造れば開発費は当然安くなる。
――ふむふむ。
小沢 で、今回ご開帳したbZ4Xは走り味が自慢のスバルと一緒に開発。当然、スバルの最新AWD技術がぶっ込まれている。
で、トヨタはお得意の電動化技術を担当よ。今後、トヨタは軽自動車サイズのEVも造るんだが、それはダイハツとスズキと共同開発だし、EV大国の中国では現地大手であるBYDとも組む。トヨタは上手にリスクを減らしている。
――トヨタは本気でEVに取り組んでいると?
小沢 そう。何せbZ4Xのチーフエンジニアの豊島浩二(とよしま・こうじ)さんは現行4代目プリウスを開発したエース! 5年前の16年12月に社内ベンチャーのEV事業企画室を立ち上げたトヨタEVのキーマンなんだよ。
今から2年前、東京五輪用の超小型EVの発表会見時に、bZ4XのベースとなったEV専用プラットフォームを公開したんだよ。そこでbZ4Xのプロトタイプや複数のEVコンセプトも発表していた。
オザワは、その会見時に豊島さんを直撃したんだけど、「もうすぐ出します。ちょっと待っててください」とか言われてかわされてしまった(笑)。けど、今回発表されたbZ4Xを見て、ついにトヨタのガチEVが表に出てきたなと。
――トヨタが5年間練りに練ったのがbZ4Xであると。
小沢 そのとおり! しかも、このbZ4Xのボディサイズがまた絶妙なんだよ。ザックリ言うと、現行RAV4と同等な感じ。実は全長4.6m前後のSUVは世界で最も売れるカテゴリーになっているんだよ。今後、ピュアEVの中心となるテスラ・モデルYのガチ対抗になるはず。
――ほかに注目点は?
小沢 エクステリアはRAV4のヘキサゴン(六角形)デザインを進化させたマッチョヘキサゴン風で、完全に売れ線のデザインだし、インテリアも写真で見た限りだが完成度は超高いね。
――特にどこらへんが?
小沢 メーターはおそらく7、8インチのフル液晶でセンターモニターは12.3インチとワイド。さらにシフトはダイヤル式の電子タイプ。思い切って新しい操作を取り入れているのも評価したいね!
――ハンドルも大胆な異形タイプです。
小沢 そう! ココがbZ4Xがテスラ・モデルYを超えているかもしれない部分で、「ステアバイワイヤ」という。低速では超クイックに、高速では超スローに完全電子制御で動く代物。
――なるほど。ちなみにトヨタの高級ブランドであるレクサスも上海モーターショーの前にEVのプロトタイプを世界初公開しました。
小沢 3月発表のLF-Zエレクトリファイドのことね。コイツも超本気モード炸裂(さくれつ)の渾身(こんしん)作だと思う。正直、昨年10月に出たレクサス初のEVであるUX300eはガソリン車の置き換えでインパクト薄だったが、LF-Zエレクトリファイドの衝撃はハンパない。
――具体的には?
小沢 全長は4.8m超の大型SUVで電池も大容量の90kWh。時速100キロ到達は3秒。アウディやポルシェのEVにも対抗できる大本命のニッポンEVだよ! トヨタの本気度はハンパないね!
――ということは、トヨタはEVでも世界トップに立つ?
小沢 bZ4Xが売れるかどうかのカギを握るのは価格だと思う。先日、日本で発売開始となった上海版のテスラ・モデル3は価格を見直して、434万円から買えるからなぁ。この値下げはポイントだね。
――ぶっちゃけ、EVの価格を左右するのはどの部分なんスか?
小沢 電池だよ。正直、中国は国のバックアップ体制がスゴいよね。EVの覇権を狙っているから、EVだけでなく電池メーカーにも補助金や援助の出し惜しみは一切ナシ。だから電池を安く造れる。
――トヨタのbZ4Xが売れるには、いかに電池を安く造れるかどうかがカギだと?
小沢 うん。今後、EVビジネスで最大のキモになるのは電池の価格と生産量よ。日本も国を挙げてそこに取り組まないと、マジで日本製EVの惨敗シナリオもありえる。
だって、いくら自動車メーカーが日本製EVをガシガシ造ったとしても、使用している電池が安い中国産や欧州産だったら日本の自動車メーカーや電池メーカーの儲けは少なくなるからね。
――なるほど。
小沢 しかも、ホンダの三部敏宏(みべ・としひろ)新社長なんか4月23日の就任会見で、日系メーカー初となる"脱・純ガソリン宣言"をしたわけだよ。
――温室効果ガスの削減に向けて世界で売るすべてのホンダ車を2040年までにEVか、FCV(燃料電池車)にするという内容の宣言でしたね。
小沢 世界的なEVシフトを意識した面もあるけど、日本という国はカーボンニュートラル宣言をしたわけだから、当然、自動車メーカーもそれに向けて走り始める。でも、電池という壁は高い。やっぱ国が自動車メーカーや電池メーカーをバックアップしないとEVバトルには勝てんよ!
●小沢コージ
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週土曜17時50分~)。YouTubeチャンネル『KozziTV』。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員