国内の新車販売で8ヵ月連続トップを突っ走るトヨタのヤリスが現在、欧州で次々に賞を獲得しているという。いったいなぜ? 欧州事情に詳しい自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)が解説する。
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■GRヤリスは英国で戴冠!
――3月1日にトヨタの新型ヤリスが欧州カー・オブ・ザ・イヤー(以下、欧州COTY)を受賞しました!
竹花 正直、私も驚きました。2011年の日産リーフ以来、10年ぶりに日本車が受賞したことで、大きな話題になっていますよね。ちなみにこの受賞にはヤリス・クロスは含まれていません。
――過去、日産リーフ以外に日本車が欧州COTYを受賞したことは?
竹花 初受賞は1993年の日産マイクラ(日本名マーチ)です。マイクラは欧州で大ヒットしたモデル。その後、2000年に初代トヨタ・ヤリス(日本名ヴィッツ)、2005年にトヨタ・プリウスが受賞しています。57年間で日本車の受賞はたった5回です。今回の受賞は快挙ですよ。
――ヤリスは、先代モデルも欧州で評価が高かった?
竹花 それがいまひとつだったんです。ヤリス・ハイブリッドは、安くて低燃費なシティカーとしてそれなりに評価はされていましたけどね。
――なぜ新型はいきなり評価が爆上がりしたんスか?
竹花 私は、2017年にオランダで開催された先代ヤリス(欧州版)のマイチェン試乗会に参加しているんです。
――ほおほお。
竹花 当時、ドイツでジャーナリストをしていた私は、ドイツ車の運転感覚が染みついていたので、「コレだと欧州市場では売れないかもなぁ」という印象がありまして。
――売れないと思った理由は具体的にどこですか?
竹花 クルマとしては問題なく走るし、装備内容や使い勝手も悪くなかったのですが、ボディやシャシーのしっかり感が欧州車より明らかに低い。それとココが重要なのですが、シート、ペダル類、ステアリングの位置がチグハグでキチンとしたドライビングポジションが取れなかった。
――いわゆるドラポジ?
竹花 そう、ドラポジです。欧州の道路は日本より平均速度が高く、市街地には石畳のような道もあるので安全面に関わる運転姿勢は大切です。ドラポジは欧州で評価されるための大前提とも言えます。
――つまり、新型はドラポジが改善されたと?
竹花 そのとおり。さらにつけ加えると、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームの採用により、走行面の質感が大幅に向上している。カタログスペックには表れない部分ですが、私も新型を日本で試乗したとき、「これなら欧州車と戦える!」と確信しましたね。
――ちなみに3月8日に発表された、GRヤリスの英国カー・オブ・ザ・イヤー受賞も理由は同じですか?
竹花 ええ。上質な高性能モデルが大好きなイギリス人らしいチョイスだと思いますね。
――ちなみに昨年11月、ホンダeがドイツカー・オブ・ザ・イヤーを受賞しましたが、こちらはどういう背景が?
竹花 ドイツカー・オブ・ザ・イヤーの創設は2018年と新しく、ホンダeが受賞する前の2年間もジャガーI‐PACE、ポルシェ・タイカンとEV(電気自動車)しか受賞していません。
現在、ドイツは政府主導でEVの普及拡大を推進しているので、タイミング的な問題もあるかなと。もちろん、ホンダeがドイツの専門家をうならせるに十分な実力を備えた、魅了的なモデルなのは確かですが。
●竹花寿実(たけはな・としみ)
自動車ジャーナリスト。1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。現在、活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向、交通政策、道路環境、運転マナーなどを発信中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員